第114話:【逆転】焼肉最高!――自分を出したら、もっと愛されちゃいました
結城ましろが「清楚お嬢様」という嘘を脱ぎ捨てた配信から数週間。ネットでは「もう終わった」と言われていましたが、現実はまったく逆の方向に動き出していました。
ある日の夜。ましろのチャンネルで始まったのは、かつての彼女なら絶対にやらなかった、そしてVTuber界の常識を覆す配信でした。
タイトルは**『【全財産】高級焼肉、いかせていただきますわ!』**。
画面には、まだ「清楚お嬢様」の面影を残した白ワンピース姿のましろ。
しかし、彼女の手にはトングが握られ、目の前では特上のカルビがジュウジュウと音を立てています。
「……皆様、見ていてください。これが、本当の私です!」
ましろは、タレをたっぷりつけた肉を豪快に口に運び、頬を膨らませました。
その瞬間、彼女は「あ」と声を上げ、リスナーの視線がある一点に集中します。
『あ、タレこぼした!?』 『白ワンピにシミが! 清楚終了のお知らせww』
慌てるリスナーをよそに、ましろは不敵な笑みを浮かべて設定画面を操作しました。
「ふふ、ご心配なく。……実はこれ、咲子さんが事前に用意してくださった**『本音モード用・衣装差分』**なんですの。……切り替えますわね!」
パッと画面が切り替わると、そこには清楚なワンピースの胸元に、あからさまな「焼肉のタレ」のシミがベッタリとついた新衣装が映し出されました。
『確信犯かよwww』
『シミを差分で作るVTuber、前代未聞すぎるだろ』
『運営、どこに力入れてんのwww』
「咲子さんが仰ったんです。『汚れを隠す必要はありません。それはあなたが生きている証なのですから』って。……だから、もう怖くありませんわ。タレが跳ねれば跳ねるほど、私は自由になれる気がしますの!」
ましろは、タレのシミがついた服のまま、特盛りご飯を片手に次々と肉を口へ運びました。
登録者数は、一時的に数万人減りました。
しかし、その後に入ってきた新しいファンたちは、以前のファンとは「熱さ」が違っていました。
「汚してはいけない聖女」を遠巻きに見ていたファンたちが、今では「一緒に焼肉を食べているような仲間」として、熱狂的に彼女を支え始めたのです。
スパチャの額は以前より跳ね上がり、メッセージ欄は**「いい食いっぷりだ!」「タレのシミが輝いてるぞ!」**というポジティブな叫びで埋め尽くされました。
「……私、今が一番楽しいです。みんなと本当の言葉で笑い合えるのが、こんなに幸せだなんて思わなかった」
ましろの瞳には、以前のような「いつかゴミ部屋がバレるかもしれない」という怯えは一切ありませんでした。
佐藤家のリビングで、その配信を眺めていた咲子は、満足げに豆大福を口にしました。
「ふふ、見なさいな、みゆちゃん。彼女が『嘘』を捨てて手に入れたのは、たった数万人の数字ではなく、自分の命を預けられるほどの『強固な信頼』ですわ」
みゆはスマホの画面を見ながら、苦笑いします。
「おばあちゃん、ましろさんの新衣装、ネットで『神絵師の無駄遣い』って呼ばれて大バズりだよ。……でも、本当にこれで良かったんだね」
「ええ。自分を愛せない者が、他人に愛されるはずがありません。……さて、ましろさんの次は、いよいよアイリスさんですわね」
咲子は、リボンが結ばれた杖を手に取りました。
ましろの「タレまみれの勝利」を見て、一期生たちは勇気づけられると同時に、「自分たちの番が来る」という恐怖に背筋を震わせていたのです。




