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助っ人師匠

 イシグロは別れ際、心細そうなレベッカとミランの二人を見た。少し指で触れれば割れてしまいそうだ。このままレメディオスを預けておくには心もとないし、フリーダム号がいるにしても不安が残る。


 馬だしな。

 

 まさかアマランタを呼ぶのも本末転倒だしと考えた。それにしても二人はエントランスで自信のない試験結果を待っているかのようにしているのを見ると、どうしたものか。頼れる仲間がいないことに尽きる。


「まだ襲ってくると思う?」


 レベッカが尋ねてきた。


「襲われない理由がないしな」

「まだここには守護天使の力があるわ」


 ライフルを支えに、少しやつれ気味のマーガレットが答えた。まだこの期に及んで言うのかと思ったが、彼女自身信じたくはないのだろう。この襲撃で守護天使の存在がないことを肌で思い知らされたのは、他でもない彼女なはずだ。


「あんたの家は捨てられたんだ。信じたくないのはわかるんだが、往生際が悪い」


 すると、


「死神の仲間はいないの?」


 レベッカがすがるように尋ねた。


「昨日今日来た俺に仲間がいるか。しかも奴らも、ちょい胡散臭いんだ。結局魂を集めて稼いでる連中だ。そこいらの下級天使に魂を売るんだとさ」

「わたしは買わないわ」


 レベッカは否定した。


「買えば強くなれるらしいぞ。レメディオスを守るには……んん……あ、そうだ」


 レベッカとミランは首を傾げた。ふとした仕草を見ていると、二人が本当の姉妹のように思えてきた。レベッカはミランに憧れて天使に転生した。ミランはレベッカを救いたくて、再び天使に。もしかして前世での魂が混在しているのかもしれない。


「じいさん呼ぶか」

「じいさん?」とミラン。

「え……」とレベッカ。

「そもそもこれはじいさんの仕事なんだろうが。これじゃ俺が生贄じゃないか」


 イシグロは壁に鍵を突き刺した。するとロベルトは、ストーブの前のロッキングチェアでパイプをくゆらせていた。眠そうな顔を向けて「済んだのか?」と当然のように聞いてきたので、イシグロは「話がでかくなってしまった」と答えた。


「おまえは何ならうまくできるんだ」

「知るか」


 イシグロは理由を話すと、ロベルトはすべておまえに任せたのだから、おまえが何とかしろと答えて扉を閉めかけた。


「私が動けば話がややこしくなる」

「もともとややこしいんだよ。これ以上ややこしくなりようなんてないんだ。だからおまえが出てくるんだよ」

「師匠におまえと言うな」

「弟子の」


 途中でレメディオスが止めた。


「ロベルト、これからグロウさんは守護天使と話をしに行くわ。世界のこと。わたしたちのことを気にしてたら集中できないと思うの」

「承りました。私めが命をかけてレメディオス様をお守りします」


 イシグロの話は聞かないのに、レメディオスが頼めば聞くのか。


 どこまで甘々なんだ。


 ロベルトはライフルと弾、斧を手に扉を越えてエントランスに来た。守護天使の残した不協和音に嫌そうな顔をした。彼がエントランスを踏み込むと、旧市街地も新市街地も地盤が沈んだ気がする。マーガレットも一言も言わずに立ち尽くしていた。


「そこにいるのはマーガレット・ウォルターハウスか。他の天使はどうした」

「つ、次々と離れましたわ」


 マーガレットは過呼吸気味に答えた。

 またロベルトは尋ねた。


「結局カルディは消えたのか」


 彼女はうつろな目で頷いた。


「ロベルト、この家には守護天使もいないということか?」

「いたらこんな襲撃に遭わんだろ。ちなみにおまえ、ハブナットのコカインに何か入れただろ」

「誰だ?」

「伯爵の医者だ。昨夜、心臓発作で死んだんだ。倉庫からコカインが発見された」

「寿命だろ。ギルドへ挨拶はいいのか」

「なぜ私がギルドごときに挨拶しなければならん」

「さよか。鍵は返すよ。俺はあんたの代理で働かされたんだ。ま、アマランタにもレメディオスにも会えたしな。これでチャラにしといてやる」

「鍵はおまえのものだ。私は引退した。二波三波は任せろ。弟子の不始末は師匠が任せておけ。まずすべきことをしてこい」

「ったく……」


 イシグロはガス灯の下、するべきことをするために川沿いを歩いた。

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