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死神総合案内所

 丘を降りたイシグロは、途中で馬を拾い、旧市街に残る官公庁へと出向いた。


「我ながら地味な活動だな……」


 事務所を訪れた。大理石の階段を三階まで上がると、看板にはベルナルド&ハミルトン墓地管理会社と記されていた。

 靴音しかしない廊下を行いた。氷のブロックのようなガラスをはめ込んだ扉をノックして、奥から靴音が近付いてきた。

 黒い肌で黒い瞳の女が驚いた。

 パンツルックが珍しい。この時代の御婦人はようやくコルセットの呪縛から解放されつつあるようだが、ズボンは新しい。


「お客様!?」

「一応は」

「御新規ですか?」


 慌ててテーブルの上を片付けようかどうか迷っていた。今まさにスコーンとアフタヌーンティーを飲もうとしていた。


「墓石でしょうか。ご新規でしたら、どこのギルドか教えてくだされば。市街地?」

「あの丘の地下の地図が欲しい」


 イシグロは窓を指さした。


「どうですか?特にスコーンに生クリームを少しと蜂蜜をかけると濃い紅茶に合うんです。一人で食べるのも味気なくて」


 彼女は途中で言葉を止めた。


「久々のお客様なので話したくて。すみません。わたしったらダメですね。だからこんなうだつの上がらないところでしか働かせてもらえないんです」

「いただこうかな」

「え?」

「これまでろくな死神に会ってこなかったんだ。まともな君と話したい」

「はいっ」


 イシグロは紅茶を飲んだ。彼女はここで一人で紅茶とお菓子を楽しんで、何年くらいになるのだろうかと考えた。


「ちなみに何年くらい?」

「何年くらい死神してるんだ」

「ここでは十年ほどです」


 彼女は寂しそうに笑った。人のお友だちも皆死んで、この会社に拾われてからずっと働いている。九時から五時まで新聞をスクラップしているのだと話した。


「タイプライター使えるんなら、記事でも書けばいいのに。売れると思うよ。天使も死神も巷の情報に飢えているはずだ」

「わたしが記者なんて滅相もない」

「やってみてもいいだろ?すぐにはうまくいかないだろうが」

「そうですかね。やってみようかしら。あ、地下墓地の何をお探しですか」

「わからない。人が欲しがる天使と死神に関するものだ。何かアイデアある?」

「天使と死神のことを欲してるのは、いい奴ですか悪い奴ですか」

「俺には悪い奴だな」


 彼女は天井を向いて考えていたが、ふと閃いたらしい。壁の棚に向かおうとしてソファの肘置きに引っ掛かって引き出しに頭をぶつけた。いつもこんなことしかしないからズボンに変えたのだと話していた。


「丘を支配していた天使はどうですか」

「ほお?」


 イシグロは、天使が支配するのが世界ではなくて丘でいいのかと思ったが、丘にはよほどのことがあるのかもしれない。聖地にしろ、首都にしろ、人が集まる場所には何かしらの魅力がある。


「ここですね」

「第三大橋の下水道を抜けて……」

「覚えるのか」

「持ち出せないんで」


 彼女はデスクの引き出しから、薄い冊子を取り出して、数枚めくった。


「おカネがいるんですけど」

「ああ」


 紙幣を何枚か出したが、二枚を引き出しに金庫にしまい、お釣りをくれた。それは紅茶とスコーン代にと渡した。


「カネなんて使うのか?」

「ここでは人として暮らしてるので」

「なるほどね。そりゃいるわな」

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