触発の維新軍(1)
「一族の中に飛び抜けて勘の良い人間が生まれるそうなのん。歴史上、女性ばかりだったから『カンタレラの魔女』って呼ばれてるそうなん」
タイキの問いかけにリュセルが調査結果を教える。
「そうなのか。あのラウラーラ・イグナイルって女性が名乗った異名にはそんな意味があるのか」
「みたいなん」
「それで、妙に組ませてくれなかったんだな。俺に組手を取らせるとやられると思ったのか」
合点がいった。
「実際に一発で腕一本もらったじゃない、先生」
「怖がってた」
「まあな。そうだったか?」
エイマはあの派手なエテルギームの腕を破壊したのを見ていたらしい。フユキも相手の感情を読みとっている。
「うん、……不気味な感じ?」
表現に迷った挙げ句、けなされた。
「俺は不気味なのか?」
「きゃははー、嫌がられてるぅ」
「うるさいぞ、タマテ」
茶化す女子の額を軽く指ではじく。
「仕方ないですよ、先生。彼らの文化に投げ技や関節技を主体とする格闘技はないでしょうから」
「うーん、それは組術が古くさいと言われているみたいで悲しいぞ、ザイハ」
「考えてもみてください。あれほど強力なビーム兵器が普通に存在する文明ですよ。存在したとしても、とうに廃れてしまっているでしょう」
飛び道具が主流の文明圏では致し方ないと聡明な男子生徒は言う。残っていたとしても効率のよい剣術くらいで、徒手格闘術は主流足り得ないと主張した。
「まあ地星でも実践格闘術じゃなくてスポーツの一種くらいに思っている人が半分くらいだろうからな」
筋は通っている。
「経験がないからビックリしちゃったのよ」
「意表を突いただけか。俺の技もどこまで通用するか分からないな、アスホ」
「違うかも。廃れてるから対策を知らないもん。先生くらい極めてれば大丈夫じゃない?」
戦闘から三日。緊張感も程よく解けてきた頃合いだ。
フォルセアが増強されたのは不安要因ではあるが、デレイフの言から察するに、かの国はそれほど緑の家に対する対決姿勢は濃くないと思える。
「警戒してくれてるとなると、あとはメタリヤとダジェンか。刺激しないよう動向調査を進めたいとこだな」
吠えて返事をするベフの首を掻く。
「それだと足手まといにならない?」
「ダジェン維新軍のことか」
「なんていうか、あの猛々しい感じ。事を収めるより炎上させる方向にしか働かないように見えて」
直接対したエイマは感じるところがあったようだ。
「ミノヤさんは気を遣ってくれたけど、それはあたしが子供に見えたからで、反政府活動に手を染めるくらいだから他の人と本質は大差ないかも」
「あのタイプは自己肯定感が強いからな。矛盾を指摘しても、それは相手が物事が見えてない所為だと思いこむきらいがある」
「色んな感情でぐちゃぐちゃ」
フユキもそう回想する。
彼らのタイキたちに対する感情は複雑怪奇だろう。代表的なところでは、独立して活動を続けることへの敬意と、それを可能にする技術への妬み。さらに多くの様々な感情が渦巻いていると思う。
「しばらくは様子を見る。お前たちとも合わない、悪い影響しかないと思ったら別の道を行こう」
「はい!」
全員の意見を反映させると約束する。
「で、当の連中は?」
「下ぁ」
「ついてきてる」
ネリネとニッケがパネルの一つを指さす。海岸線の道路を、リシュ・クルを追うように伴走する車両の列。
「少ないな。どこ行った?」
武器はともかく、食料は支援を続けている。
「っと。なんだ?」
車列が急停止すると転回を始める。緊急事態のようだ。
「ミノヤです。聞こえますか、タイキさん」
「聞こえてるぞ」
無線であわただしい空気をバックに彼女の声。
「本隊がメタリヤ軍に攻撃されています。救援をお願いします」
「メタリヤ軍だって? どうしてだ?」
「このままだと全滅してしまいます。助けてください!」
答えもせずに一方的な要求が来る。しかし、知ってる人間の危機になにもせずいられないのは彼らがただの一般市民だからだろう。動くのに理由を必要としない。
「場所が分かるか、リュセ」
誘導を待っている場合じゃない。
「戦闘が確認できるのん。内陸に20kmのとこなのん」
「向かってくれ。みんな、助けに行くぞ」
「全員、戦闘準備!」
エイマの号令で全員が配置へと走る。タイキはハユミにあとを頼んで自機へと向かった。
「煙が見えるな」
シャクラバーンを出すと遠く黒い筋が棚引いている。
「あれはどこだ?」
『メタリヤ陸軍アユザ基地近辺と思われます』
「攻撃されてるんじゃないのかよ」
場所的に攻撃されているんだかしているんだか判断がつかない。望遠ウインドウでも入り乱れているよう見える。
「先生、メタリヤ軍を攻撃していいの?」
生徒も迷うだろう。
「助け出すだけにしとこう。この前の要領で戦車とかの車両は転がして使えないようにすればいい」
「はい。システム、戦闘機が来たら教えてね。みんなはその要領で」
「了解!」
陸軍基地だけあって主力は装甲走輪戦車である。しきりに発砲しているが、基地からもアームドスキンの接近が分かる距離になると攻勢が緩まる。
反して維新軍のダジェン製戦車は攻勢を強めた。それを見て彼は顔をしかめる。
(これははめられたかもしれない。でも、生徒たちに放っておけとは言えないじゃないか)
砲撃が彼らにも向けられる中、タイキは射線へと突っ込んでいった。
次回『触発の維新軍(2)』 「君に言われたくないものだな」




