魔女襲来(4)
σ・ルーン照準で右肩と左腿をリクエストしオートで連射する。敵する白銀タイプゴーレムは、普通なら横っ飛びに躱すか逆にかいくぐって接近するはずだったが違った。
(間合いを外した?)
ラウラーラのエテルギームから離れていく。
(勘が良いなんてレベルじゃない)
注意を引きつける牽制だったのだ。後方から迫っていたフォルセア機は急速に縮まる相対位置に慌ててブレードを閃かせる。ゴーレムは力場盾でこすり上げながら開いた懐に短砲身ランチャーを滑り込ませて発射。左肩を撃ち抜く。
(まるで見えているみたいに)
グリップで大破させたフェルシムを押しのけながら進み、ブレードを構えていた後ろの機体の手首をとる。ひねり上げつつ背後に回ると関節を砕いて突き放した。
(必ず間に僚機を入れて撃たせなかった。此奴、データ以上ではないか)
おそらく相手はリザードのパイロット。あのアームドスキンよりスペックが高いと分析されているゴーレムに乗った結果ということか。
(それにあの推進機構。そういうことか)
推力そのものも高いのは事実。それ以上に驚異なのはベクトル制御だと解った。
直管式はもちろん、エテルギームのパルススラスターを含めたエネルギーブラスト方式の推進機では推力に偏りが出る。端的にいえば推進機の反対側、つまり正面向きの推力が一番大きい。
ところが重力波フィンは偏りが見られない。前進推力も逆進推力も転進推力も等しく作用していると思われる。つまりどの方向へも機敏に機体を飛ばせる。仕組みまで理解できないが、革新的な機構なのは間違いない。
(そこへこの男の全天すべてを見通すような目。二つを合わせると怖ろしいことになる)
対峙してみて初めて解る。
デレイフのような基本のしっかりした崩しにくいパイロットでも相手取るには厳しいだろう。ラウラーラもこれまでの経験値がなければ圧倒されていたかもしれない。
(それでも負けられない)
頭や肩、足を狙う砲撃を見切って躱す。間合いを詰め切る前にビームランチャーを突き出し、ブレードも突きの構え。どちらで来るか読ませないようぎりぎりまで粘る。
射線をずらして回避方向を限定。ゴーレムは予想どおりの方向へと機体を滑らせる。そこへ突きを走らせた。
(こういうところが素人臭いのに)
突きはリフレクタで逸らされる。近接距離での捌きは男のほうが一枚上手。懐に入り込まれてランチャーを握る手首を取られた。
(マズい!)
脳裏の危険信号が最大値を示す。右腕が抱え込まれ、パージする暇もなく肘を砕かれる。機体モニターがけたたましく警戒音を響かせた。
(強い……)
認めざるを得なかった。
ブレードを逆手に持ち替え、せめて一撃加えようとするがゴーレムはあっさりと離れる。撃墜が目的ではないかのように。
「君は軍人だよな?」
ブレードをビームランチャーに持ち替える間に話しかけてくる。
「これは命を懸けるに足る戦いか?」
「無論」
「そうなのか? 守るために戦ってるんじゃないのか? 当然守るべきものも多岐に及ぶのは理解できる。市民は当たり前で、さっき言ってたみたいに政体を守るのだって大事だろう」
彼女にとって論ずるまでもないこと。
「でも、失点を挽回するのに俺たちはそんなに邪魔か? 得体が知れないのは不気味だろうがこちらから仕掛けたことはないぞ」
「聞いている」
「出て行ってほしいのは山々だが、事態を収束させるのは同盟国との交渉次第じゃないか。そっちに注力したらどうだ?」
彼らの方針は終始一貫している。今のところは専守防衛の姿勢しか見せていない。
「正体を暴くのは収束してからでも遅くないはずだ。攻撃に執着しているのはメタリヤだろう? あの国の威信のために命を懸けるのは君の本意か?」
「我が国の威信もある」
本当のことだ。
「未開人の足掻きだって笑い飛ばしてくれ。それくらいの度量を見せられないか?」
「逃げ道のことばかり考えてると弱くなる。そう在りたくはない」
「頑固だな」
呆れ声が返ってくる。
撃ち合いは互いのリフレクタに干渉波紋を浮かび上がらせるだけ。つかず離れずの会話が続く。
「なにを遠慮している?」
「変な話か? 同じ人間の君の命に遠慮するのが」
「く……」
(「異星人だ」とまるで別の生き物みたいに扱わないのか? どうにもやりにくい)
「貴様は軍人向きじゃない」
「もちろん。俺は教師だからな」
力が抜ける。中破したエテルギームでは勝てないだろう。どう切り抜けるか悩むが、この男は退けば追ってこない気もする。
「魔女殿!」
口を開こうとしたところで声をかけられる。
「アームドスキン隊だけでこいつに仕掛けちゃ駄目ですって。ボロボロじゃないですか」
「デレイフ、来たか」
「退きますよ。見逃せ、タイキ・シビル」
男に親しげに告げている。
「連れて帰ってくれ。ついでにもう来ないよう言い聞かせてくれよ」
「難しい注文をするな!」
「タイキ・シビル、憶えたぞ。自分は『カンタレラの魔女』ラウラーラ・イグナイル」
「は? 魔女って?」
ラウラーラは戸惑う男を捨て置いて反転した。
◇ ◇ ◇
「め、目の錯覚? あいつ、あのカンタレラの魔女に勝っちゃったわよ?」
唖然としてマニャはピオットのパイロットジャケットを引っ張る。
「驚きだ」
「もっと驚きなさいよ!」
ランナのパイロットたちは驚愕の事態に目を丸くする。彼ら、精鋭部隊トリアンデでさえ魔女相手には五分とはいかないのに。
「どこの部隊にせよ、慎重に対処せねばならんな」
「いや、敵に回したくないわよ!」
相棒へのツッコミが忙しい。もう一言というところでシステムが新たな告知をする。
『通信が入っております』
「ん? どこからだ?」
『中継子機経由です、艦長。相手はビフロデアと名乗っております。第四惑星の国家と思われます』
「今度はなに!?」
驚天動地の連続にマニャの頭は追いつかなかった。
次は第八話『触発の維新軍(1)』 「俺は不気味なのか?」




