反抗の芽(4)
「緑の空中戦艦にはあなたみたいな少年生くらいの子供が多いの?」
ミノヤ・タカネがエイマに尋ねる。
「はい、少年生九人と幼年が三人、タイキ先生とハユミ先生とあとはリュセがいるだけです」
「リュセ?」
「えーっと、なんて説明すればいいのか……」
そこまで言いかけて少女はタイキの視線に気付く。慌てて口を押さえて黙る。素直なのはよいことだが、なんでも話していいわけではないと悟ったようだ。
「エイマ、ハユミ先生にこちらの状況を知らせておいてくれ」
「はい、先生」
自機の陰に移動して交信している。このあとは発言に注意してくれるだろう。
「子供相手にあまり独裁的なのはいただけないな。器が小さくはないか」
オノワが苦言を呈する。
「これは決めごとなんだ。彼らの自衛の意思は尊重する。その代わり戦闘に関しては俺の指示に従うよう言い含めてある」
「それを独裁と……」
「まだ子供だ。独自の倫理観を育てるには経験が足りない。背負うべき部分は大人が背負うと決めて納得させた」
心を守るための手段だと伝える。
「ふむ、仕方ないか。君たちなりに苦しい事情を抱えているようだしな」
「あの子たちの指導者であることを苦行とは思ってないけどな」
兵員輸送車の一台に通される。荷台には椅子とテーブルがセットされていた。飲み物も用意される。
「そこで、だ。そちらの苦しい事情、子供がほとんどだという状態を解消する方法がある」
腰掛けてから切り出してくる。
「我らダジェン維新軍の隊員を乗艦させてくれないか? 戦闘に関してはこちらで受け持とう。無理に生徒を戦わせる必要はなくなるが」
「リシュ・クル、あんたたちの言う空中戦艦を使わせろと言っているようにしか聞こえないけどな」
「運用上はそれが最善だろう? 子供の倫理観を守りたいなら保護対象にするのが一番だ」
大人の理屈である。
「違うな。自立心を育みながら、後ろで支えてやるのが大人の役割というものだ」
「平時ならばな。今は有事ではないか」
「同じだ。有事だからといって子供の意思をおざなりにしていいわけではない。それでは一部の共産ゲリラがやっているのと同じこと」
南方大陸に散在する共産ゲリラは、困窮からと相手の動揺を誘うために子供を戦闘員に育成して使う事例が散見される。まったく逆のことだとて、子供の尊厳を奪うことに変わりない。
「心外だな」
不快感を示している。
「気を悪くしたのなら謝ろう。でも、乗艦は遠慮してくれ。あそこは生徒の生活スペースになっている。彼らの寄る辺に思想的な偏りを入れたくはない」
「私の思想は受け入れがたいというのかな? なにを知っている」
「知らない。だが、なにかを敵として活動しているのは明白だ。俺たちは特定の敵を作っていない。自衛しているだけだ」
こちらから敵対行動を仕掛けたことはない。
「しかし、現実にはメタリヤは君たちを敵と設定している。その傀儡であるダジェン政府も同じ。ならば我々は敵を同じくしているではないか」
「なるほどな」
(ダジェン維新軍というのは左よりの過激派というところか)
ようやく見えてきた。
「戦前からの保守層がメタリヤを筆頭とした自由主義圏に過剰に依存しているのが面白くないという感じだな?」
オノワの鋭い目を透かしみる。
「理解が早くて助かる。ダジェンは今や、両陣営に板挟みに遭ってどちらかに与するしかなかった戦前の弱小国ではない。先進国と肩を並べ、対等の外交ができる経済大国になっている。すでに巣立つ時を迎えているのだ」
「解らなくもない」
「そうだろう? だから、もうメタリヤの傀儡政権などダジェンの未来に害悪でしかない。老害には退場してもらい、新しい国に生まれ変わらねばならない。他国とも協議によって国益を主張し、堂々たる独立国に進化すべきなのだ」
オノワが主張を展開する。周囲は彼に心酔している様子で、無条件に頷いていた。
「主張は結構だが賛同はできないぞ」
タイキは醒めた口調で返す。
「総長の理想を理解できないか、タイキ?」
「そうじゃない、ゼイク。それは武力によって遂げられるべきじゃないと言ってる。選挙で示すべきものだ」
「それが難しいから我らは立ち上がったんだ。今の政治家は利益で有権者を縛ってる。覆すには民意を姿勢で示すしかないじゃないか」
彼も思想に侵されているらしい。
「自分たちだけの主張を民意に置き換えてはいけない。それは簡単に人を凶暴にしてしまうぞ。まるで正義であるかのように感じさせる」
「う……、むぅ」
図星であったようだ。拳術家の男は口ごもる。
(これも言葉の詐術。あまり褒められたやり口ではないぞ、オノワ?)
吹き込んだであろう彼に視線を向ける。
「聞いてはもらえないか?」
当人はどこ吹く風。
「いずれは異星人とも対等に渡り合わねばならない。それには君の協力が必要なのだが」
「言っておくが、俺はダジェン政府を打倒する気もメタリヤを変心させるつもりもない。現状を打開するのは異星国家フォルセアを排除するだけで十分だと考えてる。思うところはあるが、当面の目標はそれだけだ」
「ならば、こう考えてはどうか。我らの活動は君たちの目標の援護になる。同調とはいかずとも共闘はできるのではないか?」
敵性国家の目を分散させられると主張する。
「それも考えものだが、……孤立感の解消くらいにはなるか」
「その代わりに多少の支援ぐらい期待させてくれ」
「懐事情の話か。食料くらいは支援しよう」
オノワは「助かる」と握手の手を差し出す。
納得いかないながらもタイキはその手を握った。
次回『魔女襲来(1)』 (他人のことをとやかく言えるものか)




