反抗の芽(3)
(お世辞にも統率がとれてるとはいえないな)
転倒した装輪戦車から国軍兵が逃げ出すのに、後ろから銃撃しようとする者が少なくない。都度邪魔しなくてはならなかった。
「元に起こしてくれると助かるんだが」
総長と呼ばれたオノワが頼んでくる。
「聞いた義理はない。が、手間の問題だろうから聞こう」
「ありがたい」
「それで、自分たちで使うつもりだな?」
「もちろんだ」
「なんのために使う?」
大事な話なので聞いておかなくてはならない。
「現政権の過ちを質すために使う」
「武力で問うのか」
「君たちは希望の星だ。我らダジェン維新軍の主張を聞いてもらいたい。そのうえで協力を願いたい」
(一方的な弁論で相手を動かすタイプか。あまり生徒と会わせたいとは思えないが)
活動家タイプは往々にしてアクが強い。良くない影響が懸念される。
「希望の星だってさ」
コウヤの声がはずむ。
「初めて味方っぽい人に出会えたじゃん」
「そう、我らは味方だ。目標を同じくするのなら助け合うのが正しいんじゃないか?」
「そうだよな!」
早々に口車に乗っている。
「勝手をしないの、コウヤ。どうしよ、先生?」
「放置するのも後味が悪いか」
エイマの口振りにも迷いがある。好戦的な空気は敬遠したいものの、頼れる大人が増えるのは気持ちが楽になるのだろう。
(周り皆に狙われているでは不安にもなるか。現状を改めようという活動をしている団体があれば多少は息もつけるのかもな)
「話くらいは聞いてみるか?」
「うん」
「やったぜ!」
戦車を起こしてやれば口々に感謝される。生徒はまんざらでもなさそうなので無碍にもできない。
「おお!」
「で、でかいな」
リシュ・クルが海側上空に入ってくると感嘆の声があがる。コウヤはすぐに得意げにしていた。
「これはどういう!」
そのとき装甲車が駆けつけてくる。
「あれは緑の空中戦艦! 大丈夫ですか、総長!?」
「来たか、ゼイク。今、彼らと話しているところだ」
「そ、そうなんですか」
新たにやってきた三台の装甲車から降りた者たちがアームドスキンを見上げてくる。
「情報交換はこれからだがね。彼らのリーダーは本当にダジェン人だった。タイキ・シビルという人物らしい」
「は? タイキ・シビル? あの組術のタイキ・シビルですか?」
「知ってるのか? そうか、君は拳術をやっていたんだったな」
「ええ、同じ格闘術をやっている仲間内では有名でした。いつの間にか名前を聞かなくなっていましたが。怪我でもして引退したと噂されてましたけど」
名前が売れていた頃の彼を知っているらしい。同じ徒手格闘術の拳術なら知っていてもおかしくない。
「俺はゼイク・オコロギだ。といっても、そんなに有名な選手じゃなかったけどな」
ハッチを開けてシートを前にスライドさせるとタイキもヘルメットをとった。
「よろしく頼む」
「おっ、本当にタイキ・シビルじゃないか。総長、あいつは間違いなくダジェン人ですよ。雑誌で見た顔です」
「知り合いならなおさら良かったが、君が保証してくれるなら心強い。タイキ君、ゼイク君には副総長を努めてもらっている」
現役当時を知る人物に絡んで話が進んでいく。こうなるともう引っ込みはつかない。エイマたちも気を緩めているようだ。
(コウヤは単に仲間を欲してるだけだろうけどな)
今のままでは未来的な装備を褒めてくれる人がいない。
(女子たちは高まるばかりの孤立感に心を痛めているみたいだ。周囲の大人の存在が普通の社会生活を感じさせてくれると安心するんだろう)
合流地点へ移動しての協議を提案される。彼らにも本拠地があるはずだが、そこへ向かうにはリシュ・クルは目立ちすぎる。
「コウヤとシュカ、アスホは戻って警戒しててくれ」
レーザー回線で配置を指示する。
「俺が話している間は人の感情に敏感なフユキに護衛を頼みたい」
「ん!」
「エイマは補助に付いてやってくれ」
「はい」
訓練はしているらしく、維新軍のメンバーは戦車も危なげなく運転する。山あいに入ったところの空き地へとついていくと、結構な数の装甲車と兵員輸送車、戦車も数台が見受けられた。
「六台も鹵獲したんですね。さすがは総長」
オノワが出迎えられている。
「それだけじゃない。今回は心強い味方も連れてきた」
「味方?」
シャクラバーンが空き地の上空に達すると彼らは目を剥く。ゆっくりであればほぼ無音で飛行するので気付けなかったようだ。
三百近い人々が注目するなか着地する。降着姿勢をとらせて手の平に乗った彼は大地へと降りたった。
「嘘だろ」
「子供に見えるが目の錯覚か?」
同じく降りてきたエイマとアンダーハッチに立つ小柄なフユキを見て皆が唖然としていた。
「君は子供に戦わせているのか?」
オノワは難しい顔をしている。
「誤解しないでください。あたしたちは自分の意志でアームドスキンに乗ってます。どこかにいる両親のところへ無事にたどり着くために」
「む? そうか」
「こっちにも色々事情がある。あまり詮索をして生徒の心を乱さないでくれ」
少女に反論されて眉をひそめているので釘を差しておく。
「両親と別れているの。それはつらいわね」
「…………」
「ミノヤ・タカネ君だ。ミノヤ君、彼らをもてなしてやってくれ。とはいっても大したことはできないが。こちらも懐事情が苦しい」
エイマは女性の隊員に寄り添われるといくぶんか落ち着いた様子。言葉を交わしている。
「全部ダジェン軍の装備だな。基地を襲って奪ってるのか?」
「褒められたものではないと自覚している。しかし、戦う力を得るのにはそんな方法しかないと理解してくれ」
「どうしても戦う力が必要だとは思えないがな」
タイキはオノワの為人を見極めねばならないと思っていた。
次回『反抗の芽(4)』 「器が小さくはないか」




