友愛の証たらんことを(1)
専大に進んだ十九歳のタイキ・シビルは募集していた国際青年支援隊に志願した。
ずっと続けてきた組術で悪くない成績を修めるごとに世間は騒がしくなる。それが鬱陶しくもあり、かといって辞める気もなかった彼は冷却期間を置こうと考えた。
その間に有り余る体力を使い、他人の為になることができるならと軽い気持ちだったのだ。割り当てられるだろう作業で更に身体を鍛えられるかもしれないくらいのつもりで。
研修期間を終えたタイキはコロラダ行きの便の機上の人になる。深い考えもないが、初めての外国となると期待と不安がない交ぜになる。それも窓外に見える大地が緑少なくなってダジェンとの違いを覚えるようになるとワクワクに変わった。
コロラダは南方大陸の国。南北世界大戦以前は社会主義国家であったが、今はメタリヤの指導の下、民主主義国家に変わりつつある。
しかし、自由経済論理は都市部を繁栄させてもなかなか全土には行き渡らない。農村部は深刻な困窮の最中にあった。
「タイキ君は三班だ。井戸の掘削と学校の建設の手伝い」
事務局の担当が配置を伝えてくる。
「君は確か教員課程にいるんだったね。学校が完成したらそこで子供たちの指導もしてほしい」
「はぁ、ですが俺はまだこれっぽっちも経験がないんですけどそれでも?」
「まともな教育を受けてない子供たちの世話だ。比較されることもないから安心しなさい」
上手く丸め込まれた気がしないでもないが、推薦進学であれど教員課程にあるのは事実である。中途半端な不可解さがある文系より明快な理系に適性があったようで、勉強にもそう苦労していないのでなんとかなるかと思っていた。
「木材の扱いに慣れてるじゃないか、タイキ」
本格的な建設に従事しているダジェン軍の技師に褒められる。
「親父が大工なもんで少しは」
「それは心強いな。頼むぞ」
「頑張りますんで、よろしく指導お願いします」
技師は「任せとけ」と言う。
体育会系の習いもしっかりと身についた彼はすぐに現場になじむ。同じ支援隊の仲間や兵隊と囲む食卓にもすぐに慣れていった。
(案外充実するな。楽しくなってきた。頑張れば頑張るだけ現地の人の助けになるのも悪くない)
降るほどの星空を窓の外に眺めながら寝具の中で思った。
半年で学校があらかた組み上がり、細かな内装作業となると技術のないタイキの出番は少なくなる。井戸掘りのほうに回ることが多くなってきた。
この頃にはコロラダのデン語にも慣れてきて普通の会話くらいは困らないようになっている。デン語の先生である人物は今日も現場に現れた。
「カスカル、手伝いは終わったのか?」
十歳くらいの少年に話しかける。
「うん、終わった。父ちゃんが遊んできていいって」
「メサリナもか?」
「うん、収穫してよさそうな綿花は全部採ったもん」
女の子も同い年だろう。
コロラダの農村部での子供は労働力でしかない。彼らは学校に通うこともなく家業の手伝いが当たり前。
そもそも学校がない。教育の概念が五十年以上前の南北世界大戦で途切れてしまっている。親からして学び舎を知らないままに育った世代だ。
(メタリヤやダジェンの援助は都市部に集中してしまってる。それさえも安い労働力を得る原資とそう変わらない扱いだ)
現状を知るほどに現実が彼を襲う。
(経済論理なんて俺には解らない。でも、今できることをすればこの子たちは少しずつでも救われるはずなんだ。そのために頑張ればいい)
「疲れてるだろ? 俺の作業を手伝ってないで遊んでこいよ」
ここ数週間は付きまとってきている。
「いいんだ。タイキは面白いもん。一段落したらまた遊んでよ」
「ダジェンの話、聞きたい」
「組術ももっと教えて」
せっつかれる。
「解った解った。一遍に言うな。一つずつな?」
「うん」
「タイキはまだコロラダにいるんでしょ?」
まだ四ヶ月ほどは滞在期間があるので頷いた。
現地特有の遊びを教わって加わる。タイキが幼い頃から馴染んだ遊びも教えて一緒に笑った。
余った材木を譲り受けてオモチャを作ったりもした。楽しそうに走り回るカスカルやメサリナを見ていると教師になるのも悪くないと思えてくる。
(親父の仕事を手伝いながら、どっかの道場で組術の指導をするつもりだったけど、少しくらいなら寄り道してもいいかもな)
父は落胆するかもしれないが、直接誰かのためになる仕事で覚える充実感は格別のものがあった。それがタイキを余計に少年少女へとのめり込ませる。
「お菓子があるぞ。食うか?」
訊くまでもないだろう。
「ほんと!?」
「いいの? タイキの分じゃないの?」
「一人より君たちと食べたほうが美味しいからな。その代わり、お父さんやお母さんには内緒だぞ?」
予定されている以上の分配はよろしくないとされている。
「分かった」
「内緒ね」
「頼むな。俺が叱られるから」
丘の上、灌木の茂みの裏で包みを開ける。クッキーの甘い香りが風に乗って彼らの鼻に届く。子供たちの瞳に宿る輝きを見るのが心地よかった。
甘さに感動したメサリナがまくし立てる。それをカスカルがからかっている。遙か遠くに拝める川の流れのきらめきを見ながら二人のやりとりを聞く。
タイキは本当の幸せというのはこれなんじゃないかと思った。
次回『友愛の証たらんことを(2)』 「そう言うなよ、カスカル。農作業なんてやったことないんだから」




