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ゼムナ戦記 英雄の条件  作者: 八波草三郎
第五話

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少女探検隊(3)

 冷蔵部屋の中にはパッキングされた生肉がストックされている。近日中に使われるものがここに移されているのだろう。

 アスホもこの肉が自走カートに乗せられて食堂へ運ばれていくのを何度か見たことがある。美味しくいただきもした。そこが問題なのだ。


(そうなんだよね。これ、おいしいお肉なんだよ。どこからも仕入れてないリシュ・クルの中にお肉がいっぱいあるみたい)


 食事に制限は掛けられていない。このまま消費していけばいつか無くなるとも言われていない。リュセルは食事の心配はないと言い、ベフやウルに与える半生のドッグフードまで普通に準備してくれる。


(先生たちにも相談してる様子はないし)

 だとすればもう加減するよう言っているだろう。

(まさか動物まで飼ってるの? そうならなんのお肉? この先で飼われてるの?)


 それが彼女の疑問だった。

 肉などスーパーに行けばいくらでも売っている。それは常識。誰かがその肉の元となる動物を生産してくれていることも、精肉業者が使いやすい形にしてくれていることも知っている。

 その過程まで自分たちでやりたいとまでは言わない。精神的に厳しい作業だと思う。でも、なんの肉かくらいは知っておきたかった。


「十分にあるのね」

「ハユミ先生は心配ないって言ってたけど本当みたい」

 セリナやエイマも疑問に感じたが納得しているようだ。


(それでいいの? この船、異星のものなんだけど。とんでもないモンスターみたいなののお肉だったらどうすんの?)


 現実から目を逸らしている上級生に唖然とする。先生が言ってるからって不安を覚えないのだろうか?


(量的にもとんでもないんだけど!)


 次なる冷凍室に入って仰天する。野菜スティックの冷凍室の他に、食肉用の冷凍室の棚には凍った肉塊が満載されていた。


「キュウン?」

 アスホが蒼白になっていると外で待っていたウルが心配げに寄り添う。

「あー……」

「大丈夫?」

「う、うん、ありがと。たぶん大丈夫よ、ササラ」


 幼年の子に心配されるようではいけない。深呼吸をして現実と向き合う覚悟を決める。通路の先にはこれまでとは様相の違うドアが待っているのだ。


『この先は入らないほうがいいのん』

 リュセルの二頭身アバターが現れて忠告する。

「もしかして武装とかしないと駄目?」

『危険はないん。でもお勧めできないのん』

「で、でも、私知りたいの!」


 彼女の剣幕にセリナたちは驚いている。他の皆はそこまで気にしていなかったのだ。リュセルは「仕方ないん」とロックを解除してくれた。


「ああ言ってたけど入っちゃう?」

 タマテがのぞき込んでくる。

「行く。知らないと怖い」

「確かに気になっちゃうかもねー」

「大丈夫。責任取るから」


 自分から先頭で入り口を通り抜ける。意外に広い空間があり、機械の微かな唸りが聞こえてくるだけで静かだった。

 見上げると高さ10mはありそうなタンクが七本並んでおり、中央の三本には基部になんらかの装置が設けられている。


『見るのん』

 覗き窓の位置でリュセルが待つ。

「この中に?」

『アスホの知りたいものがいるのん』

「ごくり」


 中にはピンク色の液体。色の付いた液ではなく濁りのようなもの。波打つような感じでそれが分かる。


『肉眼じゃ無理だから拡大するん』

「ひっ!」


 エビに見えなくもない。頭っぽい場所には目が一つだけ。その下に三対ある腕みたいなものの先には櫛歯状の毛。体側にも毛みたいなものが生えている。それを動かして泳ぎ回っていた。

 体内には丸い透明な粒が十個ほど。それ以外にも黄色っぽい粒々がいくつか浮いている。全体的に赤み掛かっていて、それが無数に泳いでいるのでピンク色に見えていたのだ。


『俗に肉エビって呼ばれてるのん。大人でも0.5mmくらいなん。合成肉の原料なのん』

「肉エビ……」

 タンクの中にどれだけの肉エビがいるのか想像もつかない。

『丸いのが卵なん。生まれたときから卵を抱えていて二日で産卵するん。放っとけばいくらでも増殖するのん』

「そんなに早く?」

『黄色いのは脂肪細胞なん。あれが付いてるから美味しいお肉になるのん』

 出された肉が見るからに普通の肉なのはそれが理由だという。

「これで合成肉を?」

『そうなのん。航宙船には普通にある設備なん』


 通常の航宙船には数十から数百の要員が乗り込む。同様のタンクを用いて最低限の自給自足をするのだと教えられた。


「これは?」

 両側のタンクには深緑色の液体。

『植物プランクトン培養槽なん。肉エビの餌なのん』

「やっぱ餌もいるよね」

『みんなの排泄物を処理したものと光合成フィルターでできた有機物で培養してるん』


 緑の家(リシュ・クル)は排熱を抑えるのに外気と入れ替えを行っていないらしい。艦内の酸素を作るのに光合成を利用した酸素生成をしている。その副産物である有機物が植物プランクトンの栄養になるようだ。


「はー、すっきりしたー」

 安心した。飼育した動物が屠殺される光景まで覚悟していたのだ。

『落ち着いたのん?』

「うん、ありがと、リュセ」

『それはいいけど大惨事なのん』

 セリナとエイマ、ササラが硬直していた。

「わ、わたしたち、あれを食べてたの?」

「ピルピル動くし形もあれだし……」

「はうあうわー」


 タマテは拡大画像を見てケラケラ笑っているが、三人には衝撃映像だったみたいだ。彼女と入れ替わるように蒼白になっている。


(あれ? 私、触れてはいけないところに触れちゃったっぽい?)


 アスホはリュセルが止めた理由を改めて知る羽目になった。

次回『少年探検隊(1)』 「男は黙って武器庫だろ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 合成加工肉!(SFやね!)
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