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ゼムナ戦記 英雄の条件  作者: 八波草三郎
第四話

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遺されしもの(2)

 車は人気のない一角へと入っていく。それもそのはず、見るからに被害が激しい地域。完全に倒壊した家屋や、がれきと化したマンションのなれの果てが見受けられる。


(こんなとこになにが?)

 向かうように仕向けたのはフユキである。

(そういえばエイマが、弟は変わったとこがあるって言ってた。人のオーラみたいなのが見えるとか?)


 まだ残されている人がいるのだろうか? しかし、被災後二週間は経っている。仮に生き埋めになっているとしたらもう命はないのではないか?


(だとしたら、見えちゃいけないのが見えてたりする? 心霊とかそっち方面?)

 タマテは背筋がゾクゾクした。苦手なのである。


 通り過ぎるがれきの原に目を懲らすも、そういった類の気配はない。彼女はいわゆる見える質でもないし、半信半疑の人種に属する。


(絶対に無いともいえないから困る。先生みたいな人が実在するんだし)


 リュセルが主張している電子機器高親和性体質、名付けて融合者(フュージョナー)はタイキの様子を見ていると納得せざるを得ない。そうじゃなければいきなり巨大な人型ロボットを手足のように扱えたり、電子辞書に触れただけで異星人の言葉を操れたりするのが説明できない。


(オカルトとはちょっと違うけど、超能力者みたいな人はいるんだ。だったら霊が見えるってのもあながち嘘だなんて言えない)


 これからなにを見せられるのか想像したくない。まだ救助されていない人を掘り出すのだとしたら、それは……? タマテは顔を青くさせる。


「気持ち悪いか? 止めるか?」

 車酔いと勘違いしてタイキ先生が声をかけてくる。

「ちゃうちゃう、大丈夫。でも、この先になにがあるの?」

「……?」

「おーい」

 盛大に首をかしげるフユキにつっこむ。

「あはは、ごめんごめん。弟も自分がなにを見てるか分からないときがあるんだって。許してやって」

「いいけど」

「ですが、ここまで主張するってことは確実になにかあるんでしょう?」


 ザイハの質問に少年は何度も首肯している。自信があるのは認めてもいいのだが、それがなにか分からないのは勘弁してほしい。


 救助のためか、がれきが避けられただけの道路とも呼べない隙間を縫っていく。明確に方向を示すフユキに従って何度もハンドルが切られたころに目的地が見えた。停まった車から見渡す。


「これは」

 一軒家がどこからか飛んできた大きなコンクリート塊に潰されている。

「救助されてない人がいるの?」

「そうだとしても……」


 厳しい状況に見える。だが、少年はドアを開けてなんとか残っている門柱へと走った。エイマとザイハも続き、タマテはタイキ先生の大きな背中についていった。


「あ、犬」


 二頭の大型犬が半壊した玄関の前に伏せている。フユキが近寄っていくと首をあげて見つめてきた。


「なるほど、たしかに生存者だな」

「そーいうことだったんだ」

 彼女もホッとして皆に続いた。


 二頭とも同種の大型犬である。ダジェンでも昔から広く親しまれてきた犬種で、主に狩猟に使われてきたナバック犬という種類。

 赤茶色の短い体毛、太めの口吻(マズル)、大きく垂れた耳と愛嬌のある外見で愛玩犬としても有名。従順なため、他にも盲導犬や介助犬としても用いられるので街中でもよく見かけられる。


「避難するとき置いてかれちゃった?」

 エイマが話しかけている。

「かもしれませんね。飼い主も自分のことで精一杯だったでしょうし」

「いや、違うな」

「どうして?」


 広めの庭を観察していたタイキが、靴跡をたどって指さす。そこには倒壊した家の建材を掘り返した跡があり、目を背けたくなるような血痕も残されていたのだ。


「救助は来てたみたいです。ただ……」

 間に合わなかった様子。

「救助隊には彼らも連れていく余裕なんてなかったでしょうし」

「それからずっとご主人の帰りを待ってたの? こんなにガリガリになって」

「かわいそう」


 少年はひざまづいて犬の首を抱く。よく躾られているのか、されるがままに大人しくしていた。


「ザイハ、なにか食べ物持ってる?」

 エイマが訊く。

「さすがになにも」

「ぼくはおやつ持ってるよ」

「あたしもフユキがお腹空かせたときにと思って持ってるけど少しだけ」


 タマテが手渡すと、二頭はエイマからお菓子をもらってがっつく。甘いお菓子なのであまり良くないが非常時だ。


「こんなんじゃ全然だよね」

 フユキに裾を引かれた姉は困っている。

「すまんな。なにがあるか分からないから食料も持ってくるべきだったか」

「無理だよ、タイキ先生。ニュースじゃ一応避難所の運営は滞りなくされてるって言ってたし、全国から物資も送られてきたみたいだから思いつかないって」

「とはいえ、このまま放っておいたら飢え死にするだけですね。これほどきちんと躾られていては野犬になって人から食べ物を奪ったりできないでしょう」

 ザイハが口にしたのは誰にも予想できる未来図。

「行こ?」


 フユキが抱いた腕で引っ張って立たせようとする。エイマももう一頭の首輪に指をかけて引くが立ち上がろうとはしない。体力が残っていない感じではなく、喉を「ヒーヒー」と鳴らして抵抗している。


「待ちたいんだ、主人の帰りをな」

 見かねたタイキが代弁する。

「でも、あの感じだともう……」

「無事でしたら迎えに来ているでしょうし」

「こいつらはまだあきらめてないんだな」


 大きな手が犬の頭を撫でる。二頭は嫌がりもせず見上げる。フユキも切なげに彼を見上げていた。


「先生……」

「うーん」


 頭を掻くタイキがどうするのかタマテは観察していた。

次回『遺されしもの(3)』 「折り入って相談がある」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 渋谷の忠犬。
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