世界の外側の世界(2)
「ザザ宙区本部につなげるのん」
タイキはまだ星間銀河の社会システムに詳しくないのでリュセルに任せる。彼女が選んだのは大きな括りの地方本部といったところらしい。
「お待たせいたしました。こちらはザザ宙区本部、インフォメーションセンターです」
テレビタレントのような美人が通信パネルの向こうに現れる。
「ご用件をお聞かせください。航宙保安支障事案でしょうか、貿易不均衡事案でしょうか、それとも人権侵害にまつわる事案でしょうか?」
「本当にまるっきり人間なんだな」
「はい?」
相手にとれば意味不明の台詞を吐いてしまった。
本音である。色の浅い金髪に青い瞳。通った鼻筋に淡くリップが引かれた唇。タイキから見ても美しいと思える容姿。
空想に描かれたように顔の半分を占める白目のない瞳やツルツルの頭ではない。耳も尖っていなければアンバランスに頭部が大きそうな様子もない。地星の人類と寸分も差もない人間。
「申し訳ない」
非礼をわびる。
「どの事案に該当するのかは俺にも見当つかないんだが、とても重大な用件なんで聞いてほしい」
「はい、ご遠慮なくおっしゃってください」
「実は……」
にこやかな彼女に無理難題を告げるのは気が引けてきた。
「俺は光星系……、じゃなかった、君たちの言うカグトレン星系第四惑星の住人なんだが」
「はい、カグトレン星系第四惑星ですね。それでは……、え!?」
脇に視線を移した相手が言葉に詰まる。データを確認して、キアズが保全惑星だと気付いたのだろう。
「それは本当ですか?」
当然の反応。イタズラだと思われてもおかしくない。
「信じてほしい。その前提が崩れると話にならない」
「すみません。担当を交代させてください。疑っているわけではございませんので」
「ああ、そっちの都合にいいように頼む」
数十秒の間をおいて別の女性が画面内に現れる。今度の人は琥珀の瞳をしているが美しさは変わらない。
(どうしてこう美人ばかり集めてる。緊張するじゃないか)
最初の意気込みが薄れてきている。
「担当をお代わりしました。どうぞお話しください」
微笑とともに訊いてくる。
「君ならば俺がこれから話す内容にも回答がもらえるんだろうか?」
「内容次第としか申し上げられませんが」
「きっと情報部のエージェントなのん」
横からリュセルが言い添えてくる。
「情報部のエージェント?」
「窓口には詰めてるのん。問題ありそうな内容だと出てくるのん」
事実のようだ。にこやかだった表情が一瞬だけ凍る。それでも対応が変わることはない。
「管理局の内情をよくご存じの方がいらっしゃるのですね?」
丁寧にだがチクリとくる。
「でしたらおざなりな対応ではないとお分かりいただけたかと思います」
「それなりの判断権限のある人なんだな。助かる。聞いてほしい」
「どうぞ」
ひとつ息を整えてから切り出す。
「今、第四惑星、俺たちが地星と呼んでいる星にフォルセアの軍隊が来ている。おそらく近辺にはランナという国の軍もいるんじゃないかと思ってる」
「ええ、たしかに交戦規定に沿った形で両国は紛争中です。そのうちフォルセア軍があなたの住む星キアズを侵略しているのでしょうか?」
「たぶん違う。なにかの手違いだろう。最初は交戦しながら降ってきた。現在はランナは撤収したけどフォルセアはキアズの一国と同盟を宣言して居座ってしまった」
思索するように女性の琥珀の瞳が揺れる。重大性は彼女も感じてくれているようだ。
「どうしてご存じなのかは分かりませんが、当該惑星は星間管理局では保全惑星となっております。どうやら有ってはならない事態が起こっている模様です」
ありがたい言葉が聞けた。
「だったら、すぐに来てなんとかして……」
「お待ちください。いくつか確認を。あなたは本当にキアズという惑星の住人なのですね?」
「そうだ」
焦れるが相手は役所だと思えば落ち着いて答えるのが近道。
「言語が共通しているのは偶然ですか?」
「いや、それはこっちでなんとかしてる」
「そして、もう一つ大事なことです。どうやってハイパーネットに接続なさっているのですか?」
疑問に思うのも当たり前な気がする。が、タイキが答えるには知識が足りない。
「リュセがサポートしてるからなのん」
適任の人物がいた。
「どちら様で?」
「あなたたちはゴート遺跡とか『ゼムナの遺志』って呼んでるのん」
「……! ぜ、ゼムナ案件!」
今度は明らかに顔色が変わる。よほど重大な事実だったらしい。そのへんの感覚は彼には解らないが。
「失礼いたしました」
肝が据わっている。すぐに立て直した。
「つまりあなたは……」
「タイキ・シビルという。名乗り遅れてすまない」
「いえ、わたくしはリサ・コントレルと申します、協定者タイキ・シビル様。状況を詳しくお教えください」
態度が変わった。
(特になんとも思ってなかったが、もしかして協定者ってのは世界の外側だと重要人物になるのか? リュセも)
反応からしてそうだ。
これまでの出来事を説明する。相手が欲しているのはリシュ・クル内部のことではないだろうからフォルセア軍の動向を。
横ではリュセルが別に資料映像となるものを転送しているようだった。それを確認したリサは表情を曇らせていく。
「申し訳ございません。本件、どうやらわたくしの手にも余るようです。上の者に対応させますので、今しばらく時間をいただけますでしょうか?」
「解決するならなんでもいい。権限を持つ人と話させてくれ」
どうにか話が通じそうだとタイキは安心しはじめていた。
次回『世界の外側の世界(3)』 「あら、お上手」




