世界の外側の世界(1)
ハユミが授業をしていた頃、タイキはタイキで状況打破の方法を模索していた。生活に関する喫緊の課題はなくとも問題は山積している。
(今の状態を長期に続けるのは無理だ。このままじゃ緑の家を浮上させるのもままならない)
彼はそう考えている。
ライバーン一機で守りきれるとは思えない。前回は撃退に成功したが、用いたのは奇策である。次は通用しないだろう。それは確信に近い。
タイキは組術選手だった。その経験から導き出した結論。
高等校、専大へと続けていたが、大会はともかく部内の組手となると階級など有って無きもの。どんな相手とも組まねばならない。
小柄ではないが、お世辞にも大柄でもない彼の壁である。体重差はいかんともしがたく勝つのは容易ではない。
そういうときにはタイキも奇策で応じることもあった。構えを低く取ってみたり足元への蹴りを多用してみたりだ。まともに組めばどうしても勝てない体重差を覆すのに使った。
それらが通用するのも一度きり。次に対するとき、相手は必ず想定して対応してくる。今も状況は変わらない。
(多数を相手するのは、どうしようもない体重差を克服するのと同じ。奇策で勝ちにいくしかないけど手段には限界がある。俺には次の手札さえない)
正直困っている。
(別の方法が必要だ。現状をひっくり返す方法が)
数の差を克服しなければならないのだから、要はこちらも数をそろえればいい。だが、頼るに足る戦力がない。
ダジェンには突き放された。メタリヤはむしろ敵方。北方諸国はメタリヤに追従すると思っていい。そもそも地星の戦力ではアームドスキンに対抗できない。
「すると敵の敵は味方と考えるしかないか」
フォルセアの戦争相手。ランナという国を頼るのが近道ともいえる。
「でもな、そうすると本格的に参戦って形になってしまうな」
それは本意ではない。
「援軍がほしいのん?」
「一人ではどうにもならんだろう、リュセ?」
「そうでもないと思ってるのん」
金髪金眼の美少女はタイキの傍らにいる。生徒ではないので授業には参加していない。こぼれた愚痴に彼女が応じてくる。
「いや、無理だろう」
どう考えてもそのうち行き詰まる。
「ランナって国はこっちの立場を理解してくれそうか?」
「話せばきっと理解はするのん。でも、協力してくれるとは限らないのん。だって国はどこにあろうと国なのん」
「道理だな。国益が優先される。俺の要請が不利益になると思えば突っぱねられるか。最悪、途中で裏切られるか」
想定しておかねばならない。
「厳しいな。俺には一国と渡り合えるほどの交渉術もない」
「際どい賭けになるのん」
「選択肢から除外すべきか」
協力せずとも、敵の敵なら焚きつけるのも有りかとも思う。しかし、仮にフォルセアを排除するのに成功しても、今度はランナが居座る結果は否めない。そうなれば追われる身に変わりない。
(汚い手を使っても結果がそれじゃあな)
考慮するまでもないと感じる。
「外側の世界で頼れる相手か」
思索する。
「待てよ。星間管理局とやらがあったな」
「あるのん」
「通報しないと動いてくれないなら通報すればいいじゃないか、俺が」
気付かなかったのが悔やまれるほどの名案だ。
「超光速通信があれば通報もできるんだろ?」
「できるのん」
「じゃあ通報しよう。っと、ダジェン語じゃ通じないか。向こうが翻訳してくれるかもしれないが……」
メタリヤと接触したフォルセア軍はメタリヤ語で勧告してきたと聞く。語学の分析技術もはるかに凌駕されていると思っていい。
「説得力がないな。対等に扱ってもらえないか」
未開の地の人類と侮られるでは困る。
「話せるのん」
「勉強するしかないか……、って話せるのか? それはリュセが代弁してくれるってことだろう?」
「ううん、タイキならすぐ話せるのん」
思わぬ言葉に向き直る。リュセルに詰め寄るように訊いた。
「どうやって?」
「取り込むだけなのん、外側の言葉を」
星間銀河圏で使用されているのは星間公用語と呼ばれている言語らしい。それぞれの国の言語がないとはいわないが、すべての加盟国と地域で使われているのは星間公用語だという。
「食べちゃえばいいのん」
「食べるのか? リュセの……」
「事案なのん」
「違う!」
タイキは飛び上がる。
「冗談なのん。これを食べるのん」
「お?」
コンソールスティックを前に置かれる。彼女が操作すると投影パネルに見慣れない文字が下から上へと猛然と流れていく。おそらく辞書かなにかだろう。
「文法とか教科書類も入れてあるのん。全部食べちゃうのん」
「あれか。ライバーンと融合したときのやつだな」
コンソールスティックに触れる。σ・ルーンも接続している感触がある。指先から頭へとなにかが流れ込んでくる感覚には慣れないが、眉間に皺を寄せて耐える。
ほどなくパネルにはなにも表示されなくなった。リュセルが持ち上げて振ってみせる。
「空っぽなのん」
そういうジェスチャー。
「取り込めたのか?」
「取り込んでるのん。リュセが今しゃべっているのが星間公用語なのん」
「あ、聞き取れてるな。もしかして俺がしゃべってるのも?」
その可能性に気付く。
「星間公用語なのん」
「おお、便利すぎる」
「ちゃんと頭の中に切り替えスイッチを作っておくのん」
「分かった分かった」
(これで世界の外側の世界とも接触できるな)
タイキは光明を見いだしていた。
次回『世界の外側の世界(2)』 「はい、カグトレン星系第四惑星ですね。それでは……、え!?」




