お茶会とサクラ
なんだってこうも騒がしいのだ。茶会と称した近況報告会が何故こんなにも賑やかになるのか…この居心地の悪さは相変わらず。
「見ましたわよ。お兄様。」
私を兄と呼ぶこの女神はヘラ。ゼウスの妻だ。
「冥府にいる人間の子と聞いていたけど、あーんなに可愛い美少女だなんて知らなかったわ。」
嫉妬深いヘラをゼウスはよく最高神の妻としたものだ。
「あまりの美少女に驚いたな。」
海洋を司り、泉を支配する神であり、私の兄弟でもあるポセイドンが言う。
「へぇ、そんなに美少女なら一目見ておきたかったな。まぁ僕を見たらその子はハデス様ではなく僕を選んでしまうかもね。」
自信満々の笑みで言うのは太陽神の中でもっとも美しい姿をしたアポロン。
「またそんなことを言ってる。本当恥ずかしいわ。」
アポロンへ冷めた目を向けるのはまるで少女のようなアルテミス。アポロンの双子の兄妹である。
「まったく、神々が集まっていると言うのに男たちはどうしてこうなのかしらね。」
大地の女神デメテルが言えば、
「それが男というもの。神だからなんて言葉はないのさ。」
神々の伝令神、ヘルメスが言う。
「まったくその通り。でも、あの美少女では競争率が高そうだね。さっき見たけど同じく驚かされたよ。あんなに可愛いなんてね。」
私を見ながら言ったのは戦いの神、アレス。
「あら、勝者になれば手に入るわよ?やっぱり戦わなくちゃね。」
笑みを浮かべ男らしいことを言うのは戦いの女神、アテナ。
「皆さん、争い事はダメですよ。私たちは神なのですから。」
聖母のようなこの女性は家庭、国家の守護神であり、ゼウスの館の炉の番をしている女神、ヘスティア。
「ふふ、そんなことしないわよ。でもあの子、今の年であんなに魅力的なのだから先々が心配ね?私のようになるのかもしれないわね。」
ため息まじりに美しい顔をし、自由奔放な恋に生きる、美と愛の女神アフロディテが言う。
「あぁ、まったく心配でたまらないな。俺だけを見ていればいいものを…。」
アフロディテを見てため息をつくのは火山を司る神、ヘパイストス。
各々が話し始めますます賑やかになる。
「そんなことより、ゼウスはまだ来ないのか?茶会が済んだなら私は失礼する。」
私の声に皆が静かになった。
「私だって夫が何処で油を売っているかは知りませんわ。ただ、お姫様に会えるのを楽しみにしていた、と精霊が言ってましたの。さて、何処のお姫様なのかしらね?」
ゼウスの妻、ヘラが私を見る。
「共に来ていた者もなかなかの美女だったが、お姫様、ではないな。冥府の姫などとゼウスもなかなか面白いことを言う。」
ポセイドンも私を見る。
やはり、冥府の姫とはサクラの事だ。ゼウスがサクラに会いたくて招待状を寄越したか…。
弟のゼウスの事なら誰よりもよく知っている。最高神でありながらも、その威厳はなく、いつも穏やかで優しい。目につく欠点と言えば、女にだらしがないところと…ーーー。
ふと、幼き日の私を呼ぶゼウスを思い出してしまった。私の後をついて回っていた様子はまるでサクラと一緒。そんなことより早くサクラの元へ行かないと。私が席を立った時だった。勢いよく扉が開いた。
「失礼いたします。ハデス様!」
息を切らしたメークとクレアスがそこにいたのだ。
何事かと神々が騒ぎ出す。「失礼する。」
私は神々の視線を背に浴びながら2人の元に行き扉を閉めた。
「サクラはどうした?」
私の元に来たのはメークとクレアス。サクラの姿が見当たらない。
「それが目を離した隙に…。
庭中何処を探しても見つからなくて…。」
「私たちが付いていながら…申し訳ございません。」
よほど探し回ったのだろう。メークもクレアスもまだ息が整わない。
「まだ探していないところは?」
私は2人に訊ねる。
「私たちが入ることを許されていないオリュンポス宮殿のみです。」
「ならば探そう。私が許可をする。」
私はオリュンポス宮殿の裏口に回った。恐らく入るならこちら側。わざわざ出入りのある表口をゼウスは選ばないだろう。
私は扉に手を掛けた。
「ハデス様、私たちをお叱りにならないのですか?」
私の後ろでメークが言った。
「えぇ、私たちはサクラを任されたのに…。」
続けてクレアスが言う。
「私が物言える立場ではない。私だって傍にいてやれなかったのだ。今は早くサクラを探そう。」
私たちはオリュンポス宮殿の中に入った。




