再会
「ありがとう、サクラちゃん。」
ゼウス様は窓際に腰掛けた。
「おいで。ここから見る景色は僕のお気に入りなんだ。」
そばに寄り窓の外を見てみると…
「綺麗…。」
眼下には一面に広がる花畑。ここまでとは言わなくても私が冥府に作りたいと思った庭がそこにあった。
「ここにはね、四季折々の花が咲いているんだよ。地上ではその季節にしか咲かない花も、ここでは季節関係なく咲くんだ。」
確かに一つ一つが違う季節の花なのに…
「神様の世界はすごいね。」
するとゼウス様は笑った。
「君だって神の世界にいるじゃないか。」
「あ、そうだった。」
たまに忘れちゃうけど、ハデスは神様で私は人間なんだよね。そう思うとまた寂しく感じた。
「ねぇ、サクラちゃん。兄さんが好き?」
ゼウス様は少し落ち込む私の顔を覗き込み聞いた。
「え?…好きだけど、ゼウス様も好きでしょ?」
キョトンとする私にゼウス様が笑った。
「そうだね、僕も好き。だけどきっとサクラちゃんの好きと、僕の好きは違うかもしれないね。」
「好きに違いがあるの?」
「あるよ。」
それって…
「胸が苦しくなったりモヤモヤしたりするのと関係してる?」
ハデスがさっきいた綺麗な人たちと過ごすのがすごくイヤだ…私のそばにいてほしいのに…。
「それはヤキモチのこと?」
「ヤキモチ…?」
「相手を想うがゆえに生じる制御不可能な感情のことだよ。」
ゼウス様が私の頭を撫でる。
「焦ることなんてないんだよ。その内サクラちゃんにも分かるよ。」
「ゼウス様はヤキモチを妬かないの?」
ゼウス様が撫でていた手を止める。
「ヤキモチか。サクラちゃんが兄さんばかりだから、そこには妬けちゃうな。なんてね。まぁ、妬かないこともないけど、いっぱいヤキモチを妬くのはヘラかな?」
「ヘラ?」
「僕の妻だよ。」
妻って…
「えぇぇえ!?ゼウス様結婚しているの?」
「神だって結婚くらいするよ。」
「だって、チャラチャラしてるから…。」
「あはは、否定はしないけどね。女性は好きだよ、可愛い子はもっと好き。だけど、まぁ、ヘラは別。」
ニッコリと笑うゼウス様。
「ヘラ様はどんな人なの?」
「ヘラは結婚とかそういった類いの女神なんだ。美しくて寛大…ではないけど、幼い頃から長い歳月を共に過ごしてきた無くてはならない存在かな。まぁ、ヤキモチやきの妻を持つと大変だけどね。」
そう言うゼウス様はなんだかとても…
「ゼウス様、嬉しそう。」
「フフ、誰にも内緒だよ。サクラちゃんと僕の秘密。」
ゼウス様は私の唇に指を当て言った。ゼウス様が扉に目をやる。
「サクラちゃんのお迎えが来ちゃったみたい。君と話をすることができて良かった。」
勢いよく扉が開いた。
「久しぶり。兄さん。」
「やはりお前だったか、ゼウス。それは私のものだ。サクラ、こっちにおいで。」
ハデスが視線をゼウス様から私に移す。
「サクラちゃん、またね。」
…このままお別れで良いのかな。せっかく会えたのに…。ゼウス様はハデスと話がしたいはずなのに…。
「ゼウス様、ハデスに言いたいことはないの?言わなきゃまたずっと後悔しちゃうよ、それでもいいの?」
ゼウス様は困ったように笑い、躊躇いながらハデスに言った。
「僕は…兄さんにずっと謝りたかったんだ。兄さんに冥府の支配を命じたことを。」
「何を謝る?お前は私を信用していたから、冥府を私に任せたのだろう?」
ゼウス様の顔が赤くなった。
「お前の考えていることなど簡単に分かる。」
「兄さん…。」
「そんなことが言いたかったのか?」
「…。(コクン)」
ハデスはため息をつき、
「まったく。幼き日と何も変わらないな。」
そう言ったハデスの顔は弟に見せる優しい兄の顔をしていた。
「では、帰ろうか。サクラはもらっていくぞ。」
「あ、兄さん、また冥府に遊びに行ってもーーー」
「はぁー。猫になど化けず、いつでも来ればいいだろ。」
あ、ゼウス様の笑顔。
今初めてゼウス様の本当の笑顔を見た気がする。
嬉しいな。
ゼウス様と目があった。
「ありがとう、サクラちゃん。君のおかげ。」
そう言って私のおでこにキスをした。
「!?」
「それは許していない。」
ハデスが私のおでこを擦る。
「ちょっ、ハデスっ!」
「あはは」
ゼウス様はとても楽しそうに笑った。
コンコン。扉を叩く音がして見てみれば、そこにいたのは綺麗な女の人。
「あなた、お戯れはほどほどに。」
「ヘラ!いつからそこに…?」
ヘラと呼ばれたこの女性はゼウス様の奥様。この人が…。ゼウス様の顔がみるみるひきつる。
ヘラ様は微笑みながら私に近づく。
「さぁいつからでしょうね。」
ヘラ様は私との距離をぐっと詰め、耳元で言った。
「この人の笑顔を久しぶりに見れたわ。ありがとう。」
そう言ったヘラ様はとても嬉しそうな顔をしていた。
「また遊びにいらしてね。」
「はい!」
ヘラ様は優しく笑いながら、ゼウス様の腕を引っ張り部屋から出ていった。
パタン。
「あーもうっ!どれだけ心配したと…!」
クレアスが私に抱きついた。
「サクラ様がご無事で何よりです。」
メークが私の頭を撫でる。
「ごめんなさい。」
ハデスがメークの手を退ける。
「そばにいてやれなくてすまなかった。お前の心配は心臓がいくつあっても足りないな。」
そう言ってハデスは笑った。
「帰ろうか。」
ハデスは私を抱き抱えた。
冥府へと戻る中、ハデスの腕の中は心地よくて眠くなってきた。
「ねぇ、ハデス。ゼウス様とっても嬉しそうだったね。良かった。」
「あぁ。ゼウスは要らぬ後悔をしていたらしいが、私も久しぶりに会話をすることができて良かった。」
ハデスも嬉しそう。
「うん、ゼウス様、笑うとハデスによく似てるーーー。」
「あら、サクラったら眠っているわ。」
「ふふ、安心しきった顔して寝てらっしゃいますね。」
クレアスとメークがサクラに微笑む。
本当にサクラが無事で良かった。ゼウスだったから無事だったものの…神々だって人間と同じように様々なのだ。サクラは私を心配させるのが得意だ。サクラの寝顔を見る。綺麗に着飾って大人びて見えていたはずが、今はあどけない顔をして眠っている。
「…ゼウスが私に似ているからと気を許しすぎ。」
私はサクラの瞼にキスを落とした。そんなことにサクラが気が付くわけもなく、私は眠るサクラを抱え冥府へと戻った。




