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レンタルドレスの魔法

 こうして、アンネリーゼの隣国での挑戦が始まった。アンネリーゼはまず、シグルドに案内されて一軒の花屋を訪れた。そこには、元気がなく枯れかけた花をさみしそうに見つめる、純朴そうな娘がいた。きっと国が元気であれば、色とりどりのたくさんの花々に囲まれて、かわいい花束を街の人々に届けていたであろう。

 花屋の店先の角に身を寄せ、アンネリーゼとシグルドはこっそりと店内を覗き込んでいた。シグルドは、自分のすぐ前で背を向け、娘の様子を注視するアンネリーゼの頭上に、そっと声を落とす。


「アンネ、ひとつ聞きたい。予算を抑えると言ったが、たとえば花嫁が身に着ける貴族のような豪華なドレスはどうするのだ? 市井の娘が用意できるものではないぞ」

「ふふ、大丈夫です。そこは『レンタル』という形をとります。王家で眠っている古いドレスをリメイクして、貸し出すのです。おしろいや髪結いも、わたくしがプロデュースいたしますわ」

「レンタル……。君の口振りから察するに、所有するのではなく、借りるのか。それは斬新な考えだな」


 見上げて答えたアンネリーゼに、シグルドは感心したふうにしきりにうなずいている。


(前世では当たり前だったけれど、この世界では一から仕立てるのが普通だものね。レンタルの仕組みを取り入れれば、誰でもお姫様になれるわ!)


 この世界では身分制度が残っているから、ドレスといえば王侯貴族の令嬢だけが着られるものだという常識が深く根づいていた。だからこそ、女性たちはドレスに憧れるのだ、一度は着てみたいと思うのだ。特に、市井に生まれた娘たちは。

 勢いのついたアンネリーゼの頭の中には、既にプランができあがっていた。装飾には、花屋の娘が丹精込めて育てた花をふんだんに使う。

 お互いの仕事を尊重し、形にするウェディング。花嫁の花屋としての職業を活かすことは、単なる演出にとどまらず、この国の国民ひとりひとりの営みや誇りが丁寧にすくい上げられていることの象徴にもなる。そして、その積み重ねこそが、この国の温かい未来を感じさせることにつながるはずだ。

 ワクワクが止まらない――アンネリーゼはシグルドに満面の笑みを向ける。


「ウェルカムドリンクに、参列者へのプチギフト……。やりたいことはたくさんありますわ!  殿下、さっそく準備に取りかかりましょう!」

「ああ。君のその微笑みを見ていると、本当にこの国が変わるような気がしてくる」


 シグルドの掛け値のない言葉に、アンネリーゼはじんわりと頬を赤らめた。

 彼との距離が、ほんの少しだけ縮まったような気がした。

 彼に、自分の好きなもの、大切にしているものを認めてもらえたことがうれしかった。『君を信じる』――そう言って自国の行く末を任せてくれたことが光栄だった。


(不思議……。殿下と一緒にいると、力が湧いてくる)


 元婚約者だったルシアードには気を遣って遠慮をしてばかりだった。けれど彼には、どんどん自分の可能性を見てほしい、認めてほしいという欲が湧いてくるのだ。自分でも戸惑ってしまうほどに。


(彼ならばわたしのことを受け入れてくれると、そう信じているからかな)


 全面的に彼を頼っていることがわかって、なんだか気恥ずかしくなってしまう。

 けれども、彼が手を差し伸べてくれたおかげで、グランディール王国を追われ、絶望の淵にいた自分は今、新しい人生の扉を勇ましく叩いたのだ。

 自分の知識が、シグルドやこの国を救うことになればいいと――アンネリーゼは願わずにはいられなかった。

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