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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第五章◇進行中】  作者: かみながあき
第五章◇中等部二年生編(後期)

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一話◇ようこそ僕のイデアへ

なんかいろいろ聞き逃してた……?

 

 

「アシュ……泊まりがけは無いって、貴方そう言わなかった?」

 

「うん……」

 

 そうだよ?

 僕だってそう思ってたよ。どうしてこんなことになったのか、誰か教えてください……。

 アリシアの冷たい声も、すでに頭がパンクしそうになっている今の僕には、上の空で聞き流すことしかできなかった。

 

「「はぁ……」」

 

 ぴったりとシンクロした溜め息だけを残して、アリシアの威圧の気配は去っていった。

 

「アシェル君、今年も研究室に泊まり込むんだってね。僕もたまに遊びに行ってもいいかな?」

 

「うん……」

 

「クラウス様。このようにお座成りな返答をする者など、不敬で処しても構わないのでは?」

「……ダメだよ、ゼノ。……というより、流石にこれは不満を抱く以前に心配になるね……」

 

 どこか遠くの方で、ぼんやりクラウスとゼノの声がした気がする。

 

 そんなことより、明後日からの夏季休暇のことだ。

 本当にどうすればいいのか。

 とりあえず、合宿に向けた荷物は準備しておくとして……。

 

「アシェル様ー! 今年も休暇の後半は、寮に遊びに来るっスかー!?」

 

「うん……」

 

「じゃあまた、オレが家から戻ったら連絡入れるんで、先にもう寮章の申請だけ入れとくっスね!」

 

「うん……」

 

 ブレインくんの明るい声の幻聴も聞こえる……。

 そういえば、これはまた彼に相談に乗ってもらうべき案件なんじゃ無いだろうか。

 ……いや、もう時間に余裕がないから、そんなことも言っていられないか。

 

 改めてもう少し魔石の解析もするとして、一応イデア関連の書籍も持って行った方が良いのかな。

 本を読んでもらうよりも、掻い摘んだイメージの話の方が分かりやすい気もするんだけど……。

 

「おいアシェル。いいかげんあの石ころの事、ちゃんと教えろよ。結局なんで色が違うのかってくらい、お前ならとっくに分かったんだろ?」

 

「うん……」

 

 やっぱり、どれだけ口で説明するよりも一度体験してもらった方がいいと思うんだよね。

 ダリルさん自身のイデアが無理なら、いっそどうにかして僕の――

 

「だああああっ! くそっ、適当な返事すんな!」

「うわあっ!? なっ、なに!? ……クロード……?」

 

 突然に肩を掴んで揺さぶられて、驚いた僕は状況を確かめる。

 犯人はクロードで、なぜか急に掴みかかってきた彼の方が怒ったような顔をしていた。

 

「なにじゃねえんだよ、ボケーっとしやがって!」

「えぇ……?」

 

「お前の意識、どこまで飛んでんだよ? はいしか言えねえしょっぼい魔道人形みたいになりやがってよぉ」

 

 例えが酷すぎて笑うに笑えないんだけど。

 

 ふと、教室にはほとんど人が残っていなくて、すでに放課後になっていることに気付く。

 知らない間にみんなが帰っていて、クロードは明らかに僕に対して怒っている。

 ……これは、つまりそういうことなのか。

 

(もしかして僕。また思考に没頭しすぎて、やらかした……ってことかな……?)

 

「ごめん、頭の中いろいろ混乱してて……。なんの話だった?」

 

 素直に謝ると、クロードはまだ少しだけむくれた顔のまま、ぞんざいな口調で呟いた。

 

「……赤と青の石。なんで色が違うのか、どうせもう分かってんだろ。教えろよ」

 

 その言葉に、僕は何度か目を瞬いた。

 

(そっか……。そういえば、まだクロードに話してなかったんだっけ……)

 

 忘れててごめん、という気持ちもあるけど。

 僕としては、クロードってそんなことを気にするタイプだったかなと意外に思った。

 

「クロードの予想通り、やっぱり僕たちの得意な属性の色が出てるっぽかったよ」

 

「……ふーん。やっぱそうだったんだな」

 

 結果を告げると、クロードはさほど興味なさげに相槌を打った。

 ……これってどう見ても、別にそこまで気にしてたとは思えない反応だよね。

 

「ねぇ。なんかクロードらしくないけど、ほんとにそんなに気になってたの?」

 

「ん? ……まあ、それなりにはな。実際俺が一番気になってるといえば、アレって俺が持ってちゃいけないのか?ってことなんだけどよ」

 

「え、そうなの? なんで?」

 

 予想外の言葉に、おそらくぽかんとした顔を晒してしまった気がする。

 別にクロード相手だからなんだっていいんだけど。

 

「アレさぁ……お前が持ってるからかどうなのかは知んねぇけど、変な感じすんだよ」

「変な感じ……?」

 

「なんかこう、たまにゾワッと来るっていうか。魔力で繋がってるって言ってたじゃん? ……お前、変なの流してる時ねえか?」

 

「は……?」

 

 変なの流してるって、なに……。

 僕がずっと制服のポケットに入れてるせいで、クロードは一体何を感じ取ってしまったというのか……!

 

「ど、ど、ど、どういうこと……?」

 

 変な脈拍につられて言葉がつっかえてしまう。

 最近の"変なの"って言われても、ダリルさん関連で色々と心が爆発してしまったことしか思い当たらない。

 

「あー? どういうことなのか、こっちが聞いてんだけど?……なんか湿った森みたいな場所にいるみたいな気ぃしたり、たまにマジで魔力っぽいのが目で見える時とかあるし……あれほんとどうなってんだよ、お前のせいだろ……!?」

 

「えっ、森? 魔力? うそ、えっ? なんで!?」

「っだから! こっちが聞いてんだっつの!」

 

 喚くクロードを前にして、僕は再び思考の海に沈んでしまった。

 "湿った森"みたいな場所って……僕の精神世界の風景のことかもしれない……。

 

 それに、魔力の可視化?

 

(……信じられない! 僕だってまだ……そこまでハッキリ見えたことないのに……!)

 

 イデア関連の書籍には。

『魔力の根源を知り、魂との結び付きを深く知覚たらしめれば、自身のみならず世に溢るるあらゆる魔力の流れをその目に映すことが叶うだろう』

 なんてことが書かれていたけど……。

 

("知覚"って言ってたじゃん! 感覚だけでもどうにかなるなんて聞いてないよ!)

 

 

「……なあ。お前がすぐにどっか飛んじまうのはいつものことだけどよ……そろそろ帰ってきてくれねぇか?」

 

 呆れたようなクロードの声で我に帰る。

 理不尽に羨ましがってる場合じゃなくて、まずはちゃんと謝らないといけなかった。

 

「ごめん、クロード。考えなきゃならないことが多過ぎて……。多分クロードが変なの見えちゃったのは、僕のせいで合ってると思う……」

 

「まあ、だろうな」

 

 怒りも怖がりもしないクロードは、幼い頃にちょっとだけ憧れた『かっこいい幼なじみ』のままだった。

 

「……なんか、知らないうちに巻き込んじゃったみたいで、本当にごめんね」

 

「んー? まあ、もう変なの見えなくなるんなら俺はそれでいいから。気にすんなよ?」

 

 それなりに神妙に謝ったのに、クロードはどこまでもさっぱりとしていた。

 

(本当は"ちょっとだけ"なんかじゃなくて、今だってそういうところ、憧れてるよ……。脳筋だけど)

 

 心の中だけだというのに最後に照れ隠しを挟んでしまう僕は、結構クロードには甘えてしまってるんだろうな。

 

「とりあえずこれ(魔石)は返すけど、ちゃんと扱いが分かるまで、しばらくはどっかにしまっておいて。これでもう変なのは見えないと思うけど……クロードさえ知りたければ、できるだけちゃんと全部説明するよ」

 

 なんて、対等ぶって言ってみる。

 答えは決まりきってるとは思うけど――

 

「いや? どうせ分かる気しねぇし。要らね!」

 

 うん、やっぱりクロードならそう言うと思ってた。

 難しい話は嫌いだし、嫌なことがあっても数日も経てばケロッとしてるんだもん。

 "あの怪我"さえなくなれば、クロードには悩みなんてほぼ無縁のはずだ。

 

「それじゃ、もう行くね。もしイデアのことが知りたくなったら、いつでも声かけてよ」

 

「ねーよ。じゃあまた明日な」

 

 教室のドアの先で別れて、僕は高等部の敷地の方へ、クロードは帰りの方向へと歩いて行った。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

「……ってことがあったんです」

 

「それは……なんだか、すごいね? 魔石を通してそんなことがあるだなんて……」

 

 眼鏡の奥の瞳をまるくして、控えめな驚きを表現するダリルさん。

 

 302号研究室に着くなり、僕はさっきのクロードとのやりとりについて話していた。

 そんなに詳細には説明していないけど、大まかな出来事はあらかた共有することにしたんだ。

 きっと、イデアフィールドに入るのに苦戦しているダリルさんの役にも立つはずだから。

 

「それで、なんですけど……」

「うん?」

 

「ダリルさん。試しに一度、僕のイデアフィールドに入ってみませんか?」

 

「えっ」

 

 先ほどよりも見開かれたその瞳に、ダリルさんの驚愕の程が見て取れる。

 別に押し売りってわけじゃないから、嫌なら断ってくれても全然構わないんだけど。

 

「実際にどんな感じなのか見てみれば、仮にいま"分からなくて怖い"って気持ちがあったとしても、変わると思いますし。それに感覚も掴みやすくなるんじゃないかな?」

 

「そう、かな……? えと、その。アシェルくんは、イヤじゃないの? 心の中……見られるようなものなんだよね……?」

 

 なんとなく気まずそうに、ゆるく組み合わせた指先をモゾモゾと動かしているダリルさん……。

 なんですかその動きは……けしからんもっとやれの範疇ですよ……?

 

「ぼ、くは…………あっ、僕は大丈夫ですよ! 他ならぬダリルさんのためなんですから、少しくらい恥ずかしくたって、そんなの些事ですよ」

 

 うっかり指先に見惚れていた僕は、慌てて笑顔で答える。

 僕のイデアなら。

 多少薄暗いかもしれないけど、別に恥ずかしがるようなものでもないし、大丈夫大丈夫。

 

「……うん。だったら、お願いしよう……かな?」

 

「はいっ。お願いされました!」

 

 少しでもダリルさんの不安が晴れるように、楽しい雰囲気にしてみせたい。

 そんな思いから、片手を胸に当てて、ちょっと芝居めかして笑う。

 

「それではご案内しましょう。ようこそ、僕のイデアへ」

 

「ふふっ! ……なあにそれ?旅の案内人みたいだね」

 

「そうですよ? なんせ僕は、今からあなたのためのガイドになるんですから」

 

 そんなやりとりをしながら、可笑しくなってひとしきり笑って。

 僕は"心の旅"にダリルさんをお招きしたのだった。

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます!


第五章はめずらしく通常話から始まりました。

それはなぜかと聞かれたら……ちょうど来週の更新話で分かると思います(笑)


よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆期間限定 夏休みイベント☆

 週3回(火・木・土 20:00)更新中です。

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