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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第三章◇進行中】  作者: かみながあき
第二章◆初等部編

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十七話◆描く未来は

絶対に追いついてみせる

 

 外はもうずいぶん冷え込み、あっという間に冬季休暇に入ったある日。

 今日は、休みになってから初めてのダリルさんの来訪日だった。

 いつもどおりの書庫で、僕はカーティス兄様とダリルさんに、中等部のカリキュラムについて尋ねていた。

 

「アシェル……?今から中等部のカリキュラムについて聞くなんて、向上心があってとても関心だけど、ちょっと気が早くないかい?」

 

「……兄様ならそう言われるかなぁと思ってました。一応僕なりに、お話を聞くにあたっての素養は備えてきたつもりです。…………まだ不十分かもですが」

 

 僕はそう言って、困ったように微笑む兄様に、ある紙束を手渡した。

 それは休暇前の放課後、メイジー先生にお願いして特別に挑戦させてもらった、中等部進級時のクラス分け用のテストだった。

 

 実技以外の全科目。

 全ての解答欄を埋めたあと、それだけでわりと満足していた僕にメイジー先生は言った。

 

「先生ねぇ、中等部にはツテがあるのよ〜。せっかくだから、きちんと採点もしてもらったらどうかしらぁ〜?」

 

 その言葉通り、後日こうして採点済みの答案を返してくれた。

 結果はおおむね八十点前後。

 正直ちょっと悔しいけど、確実に成長も感じられるし……まあ及第点ということにしておいた。

 

「これは…………まさか君が?」

 

「……ねえカーティス、これって中等部に入る時にやったあのテストだよね?……うわっ……アシェルくんてば、凄すぎ……?」

 

 パラパラと紙束を捲っては驚きの色を濃くしていく兄様と、横から答案を覗き込むダリルさん。

 

「来年中には満点を取れるように…………じゃなくて、ええと、僕は本気なので中等部のことを教えてくださいっ」

 

 ダリルさんの最後の言葉が、なんだか聞き覚えのあるネットスラングに似ている気がして。

 そこに意識を取られている間に本筋から外れそうになってしまい、慌てて軌道修正する。


 一通り確認し終えた二人が、改めて僕を見る。

 

「…………うん。確かにアシェルの真剣さは伝わったよ。それに、すでに中等部での学びに向けて、ある程度の下地は整っていると言えるだろうね」

 

「すごいよアシェルくん!いつも頑張ってるのは知ってたけど、まさかここまでだったなんて。私も気を引き締めなきゃ、あっという間にアシェルくんに追い抜かれちゃいそう……!」

 

「本当にね……兄として負けていられないな」

 

 そう言いながら、カーティス兄様とダリルさんは、二人して僕の頭をわしゃわしゃと撫でまくる。

 

「わっ、わ、ちょっ……」


 二人の気の済むまでの間、ロクな抵抗もできずにわしゃわしゃされ続けて、ようやく解放される。

 鳥の巣みたいになるかと思ったけど、さらさらキューティクルな髪はそんなに乱れることはなかった。

 

「……もお!…………撫で過ぎですよ」

 

 ぷくりと片頬を膨らませジト目で不満を表すと、二人はごめんと言いながらもクスクス笑っていた。

 あーもうっ!ほんとそういうとこ、いい加減にしてほしい。二人だけ通じ合ってるみたいな、いかにも年長者と子供みたいな扱い……!

 悔しくて泣きそうなんだけど。

 泣いたらますます子供っぽいから泣きたくない……。


 うつむいてぐぬぬ……ってしてると、兄様がコホンと咳払いをした。

 まだちょっと見せられる顔じゃないと思うので、あまり顔を上げずにチラリと覗き見た。

 

「アシェル、ごめんね?最近のアシェルは急に大人びてしまったから…………愛らしい反応を見られたのが嬉しくて、ついやり過ぎてしまったね……」

 

 神妙な顔で、たぶん撫で過ぎた事について謝罪をする兄様と、よく分かっていない様子で小首を傾げるダリルさん。

 まあ確かに、ダリルさんからしたら『会うたびにたくさん撫でている』僕が、今さら撫で過ぎたからって怒るわけないと思うよね……。

 実際そうじゃなくて、ただのヤキモチだし。

 

「あ、あの、兄様?ちょっと恥ずかしかっただけで、別に怒ってないです。それより僕、早くお話が聞きたいなあ……なんて」

 

「それなら良いんだけど……。それじゃあ、将来有望なアシェルのために話をしようか」

 

「そういえば、ちょうど課題用にまとめて置いてた本があったよね」

 

 机の隅に積まれていた本が、ずらりと並べられる。

 その中には読んだことがある本も混ざっていた。

 

「まずはね、アシェル。初等部と中等部には決定的な違いがあるんだ」


「決定的、な……」

 

「うん。中等部からは、初等部で習得した魔法の『原理』について学び、その理解の深度を問われるようになる。そして――」

 

 じっと兄様を見つめて、言葉の続きを待つ。

 

「……一部には例外もあるにはあるけれど。高等部へ進学するまでの三年の間に、自分独自の『魔法理論』について論文を完成させることが中等部通しての必須課題となっているんだ」

 

 兄様はそう言って、『過去五年における受賞論文集(学園中等部編)』という表題の分厚い本を指し示した。

 

「少なくとも、これに乗っているテーマでは、より優れていない限り受理されない。アシェルがこれを貰う時には、中身も多少違っているだろうけどね」

 

「……オリジナルの理論、ですか?」

 

「うん。既存の知識を応用するだけでなく、誰もやっていない研究分野に踏み込み、その有効性と論理性を論文にまとめなきゃいけない…………やり甲斐はあるけど、骨が折れるような作業だよ」

 

 ダリルさんも頷きながら、付け加える。

 

「言ってみれば、中等部での最大の壁だね。どれだけ才能がある生徒でも、理論構築で挫折する人は多いんだって。魔法を極めるっていうのは、知識の積み重ねだけじゃ辿り着けない高みなんだろうね」

 

 オリジナルの魔法理論と聞いて、僕は真っ先に「感情やイメージで術式を構築する」という、僕自身が形にしたいと思っているあの理論について思い描いた。

 それは前世の心理学や脳科学の知識に基づいているから、おそらくこの世界では誰もやっていない研究分野のはずだ。

 

 これだ、と思った。

 ダリルさんの隣に並び立つには、探せば見つかるような『常識の延長線上の天才』になるだけじゃ足りないし。

 僕自身も、『詠唱と魔法陣の破棄』について、出来るところまで突き詰めてみたい気持ちが強かった。


 ダリルさんは、「もし理論構築に挑戦するなら」と前置きして、僕に一つの分野を提案してくれた。

 

「アシェルくんって、空間魔法の解析に強い適性があるよね?だから『空間魔力の最小化』に関する理論を構築してみるのはどうかな?その分野はまだ手がつけられていなかったと思うし」

 

 ダリルさんの提案は、僕自身の適性を考慮してくれた、かなり魅力的なアドバイスだった。

 でも、僕の頭の中は、すでに『未知の領域への挑戦』のことで満たされていた。


「ありがとうございます、ダリルさん。でも、僕が目指すのは……『精神世界を応用した魔法理論』です」

 

 僕のことを「誰にも思いつかない魔法を生み出す人になる」と言ってくれた、あの日のダリルさんの言葉を胸に、自分の夢をはっきりと口にした。

 

「やっぱり僕は、詠唱や魔方陣さえも不要とする『感情・イメージによる術式構築理論』を確立したいんです」

 

 

 僕の言葉に、兄様は驚きを隠せない顔で固まってしまったけど。

 ダリルさんは、瞳を輝かせて微笑んでくれた。

 

「そ、れは……誰もが夢見る領域だけど、課題のテーマとして選ぶには、あまりにも非現実的じゃないかな。完成には、何十年という単位の研究が必要になるだろうね……」

 

 と、難色を示す兄様。

 現在のこの世界の常識では、そう思うのも当然だった。

 だけど。

 

「うん……カーティスの言う通り、きっとそれくらいに難しい事だよね。でも、どんなに不可能に思える事でも、アシェルくんなら…………出来ると思う」

 

 無理難題に挑む覚悟を決めるには、その言葉だけでもう充分だった。

 世界中の人が無理だと笑っても、ダリルさんさえ信じてくれるなら、僕はなんだって出来る気がした。

 

 僕は深呼吸し、二人に宣言する。

 

「中等部一年生に進学するまでには、あと三年と少し。その三年の間に、僕はその理論を完成させてみせます。それがお二人の…………いや、ダリルさんの隣に並ぶための、僕の覚悟です!」

 

 まるで愛の告白のようになってしまった宣言に、兄様は呆れと諦めが混ざったような複雑な顔をした。

 肝心のダリルさんにはどう伝わったのかは分からなかったけど、僕の手を取って笑いかけてくれた。

 

「三年間で、かぁ……。応援してるけど、あまり無理はしないでね」

 

「えへへ……気を付けます!ありがとう、ダリルさん」

 

 すぐに追いついてみせるから待っていてください……という言葉は、胸の内に仕舞っておいた。

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(爆走少年が生まれちゃいました……)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。

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