十六話◆爆弾と暴走
脳筋が悪いんだよ
長いような短いような夏季休暇も終わって。
早いもので、あっという間に今度は冬季休暇が近づいてきたある日。
なんとなくで続いている週に二日くらいの(男子会と勝手に呼んでいる)ティータイムでのことだった。
今はフェリクス専用にみたいになっているけど、そこは初等部エリア内の王侯貴族用の特別サロンで。
僕とフェリクス、クロード、そして休み明けから加わったヒューゴの四人がその一室に訪れていた。
集まっているといっても、わりと各々好きに過ごしてるんだけどね。
僕は今日の気分で決めた甘めのミルクティーを飲みながら、『古代魔道具の浪漫と軌跡』という、なかなかに眉唾物の本を読んでいた。
「アシェル、また本を読んでいるのか。また勉強……ってなんだその本は?」
「…………ん?これ?これはどっちかと言うと娯楽として読んでるんだよね」
不意にフェリクスに問いかけられて、開いたままの本を置いて答える。
「そうなのか?最近のお前はやけに勤勉というか、学ぶ事しかしていないようだから、また小難しい本かと思ったが……違ったか」
どこかホッとしたように言うフェリクス。
もしかして心配かけちゃってたのかな……。
なんて思っていると、気が付けばクロードもこちらを見ていた。
「そうだよ。何でそんなに勉強ばっかしてんだ?最近じゃ、もういいってくらい語ってた『ダリルさん』の話も聞かねーし…………なんかあったのかよ」
「えっ!?いや……それは、なんというか……」
ダリルさんの名前を出されてうろたえる僕。
「ダリルさんとやらは知らないが、アシェルの行動が変わったのは、例の『年上の人』が関わっているんじゃないか?」
「は?」
「ヒューゴ!?」
僕がなんとかうやむやに出来ないかと考えている間に、ヒューゴが的確に爆弾発言を投下した。
クロードが訝しむような顔をして、僕とヒューゴの顔を交互に見ている。
「以前話していた積極的なアピールというのを実行しているんじゃないのか?」
「わああああああああああああ!ばか、ヒューゴ!ちょっと黙って……!」
淡々と話すヒューゴの声に被せて大声を出しながら、話をやめさせようと肩を掴んで揺さぶってみるけど、体幹がしっかりしているせいであまり効果がない……。
そっと振り返ると、いつもの勝気な笑みを浮かべるフェリクスと目が合った。
「アシェル。どうやらぼくの知らない面白そうな話があるみたいだな?」
「いや…………そんな、べつに……大して面白くもないと、思う……よ…………?」
「なんだアシェル、フェリクス殿下に想い人の話をしていないのか」
「もーっ!ヒューゴは黙ってってば……!」
普段からほぼ空気を読む気がないのは知ってるし、僕もヒューゴはそのままでいいとは思ってるけど………。
今だけは黙ってて欲しかった……。
「ん?ヒューゴには話せてぼくには話せないこと、か。アシェルも随分と薄情になったものだな……」
「や、成り行きでね?他意はなかったんだよ……?」
怒っていると言うよりもどうやら楽しんでいる風なフェリクス。
悲しむような表情を作ってはいるけど、その瞳は好奇心の輝きが隠せていない。
このままだと、『想い人=ダリルさん』というのがバレるのも時間の問題な気がする……。
うーん。いくら思ってたより寛容な世界だと分かったといっても、まだカミングアウトするつもりもなかったから心の準備もしてないし。
もうちょっと悪あがきしてみようかなと言葉を探していたけど、そんな僕の思惑は、クロードの発言によって粉々に消し飛んでしまった。
「…………なんだ。最近『ダリルさん』のこと話さねーと思ったら、好きな女が出来たからなのかよ。まるで女神みたいに崇拝してっから大丈夫なのかと思ってたけど、まあそんな程度だったんなら安心だな」
笑いながら悪気なく放たれたその言葉に、一瞬なにを言われているのか分からなくて静止した。
「……………………は?」
ようやく理解が追いついた僕の口から漏れたのは。
九歳の身体から出たとは思えないほどの、地を這うような声だった。
ついでに身体から部屋の温度が下がるほどの冷気が放たれていたらしいけど、その時の僕にはまるで自覚がなかった。
「アシェル……!分かった、もう分かったから!俺が悪かった……頼むから許してくれ!」
「おい、昼休憩が終わってしまうぞ……」
そんな声でようやく正気に戻った時には、ほぼ全ての内情を明かしてしまっていたらしい……。
クロードはよっぽど初動が怖かったらしく、やや涙目になっていた。
なんかごめん…………いや、やっぱクロードには謝らなくていいや。
ヒューゴは普段通りの――いまいち何を考えてるのか分からないクールな顔のままだった。
そしてフェリクスは。
「少なくともぼくらはいつもお前の味方だから、安心するといい。もし助けになれる事があれば、いつでも頼れ」
教室までの道すがら、そんな風に声をかけてくれた。
意図せずしてしまったカミングアウトだったけど、結果的に話せてよかったのかもしれない。
そんなことを考えながら、午後の授業が始まる前には教室に戻ることができた。
教室に着いてすぐ、シャロン嬢が慌てたようにクロードに駆け寄っていた。
「まあ……!?クロード様、なにかお辛いことでもありましたの……?」
「いや、ちょっと酷い目にあったっつーか…………まあ俺の自業自得なんだけどさ……」
そんな会話を交わしながら並んで座席につくふたり。
僕の前の席では、アリシアが座ったまま、笑顔でフェリクスを迎えている。
「ふふ。フェリクス様には、なにか良いことがあったようですわね?」
「む。一目で分かるほど顔に出ていたか?そんなつもりはなかったのだが……」
「あら……。ほんの些細な変化でしたし、わたくしにしか分からなかったのかもしれませんわね」
にっこり微笑むアリシアに、フェリクスは耳だけを赤くして照れていた。
仲睦まじい婚約者同士の二組を見て、なんとなく悔しいような淋しいような気分になる。
僕だってダリルさんと同じクラスで毎日会えたら。
当たり前のように隣の席で授業を受けられたら。
もしも、婚約者として隣に立ち、堂々と周りに僕の大切な人ですと公言することが出来たら。
ありもしない妄想にキュッとなる胸を押さえる。
どれだけ現状を嘆いたって、ダリルさんを好きだという気持ちも、状況も、何ひとつ変えることなんて出来ないから。
僕に出来るのは、一歩ずつでも、着実に前へと進んでいくことだけ。
(…………うん。落ち込んでるヒマがあったら、何か一つでもモノにしていかなきゃ、時間がもったいないよね……!)
そんな風に無理矢理にでも気持ちを切り替えて。
僕は、まずは目先の授業に真面目に取り組むことにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(ついに友人たちにもバレましたね……!)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。




