十二話◇交流会までのあれこれ
これできっと……!
フェリクスに会いに行く日やクロードの来訪と重ならなければ週に一回女神様に会えるようになった僕は、ますます充実した日々を送っていた。
最近は読書の時間とお話の時間が半々くらいになっていて、嬉しいけれど邪魔になってしまっているのではと、心配になったりもして。
「私もアシェルくんとお話しできて嬉しいから大丈夫だよ。それに、読みたい本を全部読み終えてしまったら、遊びに来る口実がなくなっちゃうかも?」
そう言って少しおどけたように笑ったダリルさんに頬を撫でられて……。
少しは慣れてきたと思っていたけど、やっぱり心臓がバクバクした。
色んな話をする中で、ダリルさんからは変わった先生の話や学園での兄様について教えてもらったりして。
僕もクロードやフェリクスの話をしたり、自身の体質についての話なんかもした。
最近はあんまり発作も起こさなくなったけど、ずっと魔法が使えないままなのが悔しくて。
ほんと、つい……って感じ……。
体質の話をした時のダリルさんは「……そっか、それで…………」と痛ましそうに目を伏せて何かを呟くと、少しの沈黙の後、潤んだ瞳で微笑みかけてくれた。
「……こうして元気なアシェルくんに出会えてよかった。生きていてくれてありがとう」
その時とても強い感情が迸ったけれど、それがなんなのか言葉で表現することは出来そうになかった。
ただ、自分でも知らない内に張り詰めてしまっていた糸が切れたのか、色んなものが溢れ出して……。
僕はちょっと泣いてしまった。
泣いている僕に気付いて、兄様がやばいオーラを纏って(ダリルさんに)詰め寄ってきたけど。
事情を説明したら、早とちりを謝罪していた。
フェリクスとの交流では、時々、アリシアではなくクロードと三人で過ごす日もあって。
そんな時は……男だけという事もあり、ちょっとヤンチャをしたり、二人が婚約者について語る(惚気る?)のを聞いたりして過ごした。
まだ婚約者がいない僕は、最近親しくなった人としてダリルさんの話をしていた。
「アシェルは学園に入ってから婚約者を決めることになりそうだな」
不意にそんな話題になり。
「どうでしょうね?コイツはかなり夢見がちな所があるから……恋愛結婚でもするんじゃないですか?」
「ふっ……そうかもな。そういえばガルブレイスは兄君もまだ婚約者を決めていなかったか」
「あー。カーティス様はコイツとは違って、現実的にお相手を見極めてらっしゃいますよ」
目の前で好き勝手言ってくれるフェリクスとクロードだったけど、僕はまだ婚約とかずっと先で良いと思ってるし……!
まあ、その内なるようになるだろうと思っているので、好きに言わせておいた。
「僕はまだ、無理に女の子と親しくなるより二人やダリルさんと遊んでる方が……楽しいんだよ」
そう告げると、フェリクスとクロードは仕方のない子供を見るような眼差しで笑っていた。
身体年齢に思考が引っ張られているとはいえ、前世の分こちらが大人なはずなのに…………解せぬ。
(……実は僕って、『知識』だけは持ってるけど、『思考』は完全に子供のままだったりする?いや……そんなまさかね)
きっと同い年の子供達よりはちょっとくらいは大人なはずなんだ!
なんて、自分で自分に言い聞かせていた。
そういえばアリシアなんだけど、近頃様子がおかしい……というか、空き時間になると一人で庭の方へと抜け出る事が増えた。
王家の影が付いているとの事なので完全に一人ではないけど、どうやら僕らの秘密特訓スペースだった場所で何やらやっているようで。
一度気になって聞いてみたんだけど……。
「アシェルは何も心配しなくていいわ。そんなに気になるならついて来てもいいけど、ちょっとした機密に触れることになるわよ?」
と、そんな恐ろしい事を言っていたので詮索するのはやめにした。
ちょっとした機密ってなに……って感じ。
まさか悪女化が始まってしまったのかと慄いたけど、別に傲慢だったり陰で使用人を虐めたりもしていないし……。
頻繁に裏庭に行くようになったこと以外では、前と変わらず可愛い妹のままだった。
いや……、強いて言うなら。
いまだに続いている、クロードとの剣術訓練でのことなんだけど。
僕も、まあまあ上達して来たと自負はしているものの。
訓練着まで一緒に仕立てて、本格的に参加をし始めたアリシアの動きが……あまりにも良過ぎて、納得がいかない……。
僕が学んでいる剣術の授業には、別に参加もしていないし。(そもそも許されていないけど)
アリシアは、たまにクロードが来た時にだけ剣を振るっているはずなのに、あの上達速度はなんなんだ?
これにはクロードも割と引いているけど、僕らは『フェリクスには言わないでおこう』と目だけで通じ合い、頷き合った。
まあ、いずれバレるだろうけど……。
そんな風に時間は過ぎ去り。
いよいよ例の事件が起こる前日となっていた。
僕なりに準備は万全にしたつもりだ。
ひと月程前についに完成した、カフス型の"攻撃魔法"と"魔物の接触"を防ぐための防護魔道具。
まずは先んじて自分で着用し、クロードと(王族は交流会には参加しないけど)フェリクスに、それぞれの瞳の色の魔石を使用した"色違いのカフス"を贈った。
フェリクスにあげた事で、他の王家の皆様にも、ガルブレイス家として正式に献上する事になって。
思っていたより大事になってしまったけど……。
父上は、「遅かれ早かれそうする予定だったから構わない」と、怖い顔のままで優しい言葉をかけてくれた。
そして。
クロードには、この魔道具の有用性をプレゼンして、装飾品としても申し分無いブローチ型の魔道具を、シャロン嬢にも贈ってはどうかと勧めた。
その結果、クロードはすぐさま購入を決めた。
本当は、まだ一般に公開していないから、価格設定もしていなくて。
別に売り物ではないから、お金は要らなかったんだけど……。
"婚約者への贈り物を人からタダで貰うなんてダッセェこと出来るか!"と、デコピンと共に適正額をもらってしまった。
あれ、地味に痛かったんだよね……。
でも、これで二人の悲劇はきっと防げるはず!と、僕は満足していた。
『俺が付いててやれない時も、これで少しは安心できそうだ。……ありがとな!』
そんな風にお礼を言うクロードは、幼いながらに、すでに卓越したイケメンぶりだった。
贈り物に大層喜んだというシャロン嬢が、「せっかくだから交流会でクロード様とお揃いで着けたいわ!」と(想定通り)言ってくれたおかげで、ひとまず二人の悲劇は防げそうだ。
そして、今やガルブレイスの専属であるスミス氏の発明である魔道具なので。
当然のように、父上と兄様はカフス型。
母上とアリシアはブローチ型の防護魔道具を、すでに所持している。
実はこっそりダリルさんにもプレゼントしたくて準備をしていたら、兄様にバレてちょっぴり叱られてしまった……。
「まだ世に出す予定のない新作の魔道具なんて、そんな希少なものを気軽に贈ったら、相手の家も困ってしまうだろう?せめてダリルの誕生日だとか、何かのお祝いにまでとっておきなさい」
そう諭されて、考えが足りなかった自分に落ち込んでしまった。
そんな僕に兄様は「アシェルは本当にダリルが好きなんだねぇ……」と何故か困ったように笑っていた。
…………って!
僕の失敗談はいいんだよ!(よくはないけど)
大丈夫、上手くいく。
誰も怪我をしない、大丈夫。
深呼吸をしながら心の中で繰り返す。
寝不足で判断を誤ってもいけないし、眠れそうになくてもいつも通りに眠らなくちゃ。
何度も何度も繰り返して、どれくらいの時間が経ったかは分からないけど。
やっと薄らいできた意識を、僕はそのまま手放した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(カフス、間に合ってよかったね……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
冬休み" まったり乙兄企画 " 6日目です☆
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