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第四十話 少年はショックを受ける


「まずは感謝を、あなたのおかげで危機を脱することができたわ」


「別に感謝されるようなことじゃない。俺の前で誘拐みたいな不愉快なことをやられるのがいやだっただけだ。それに――」


 ノアというらしい茶髪の少年は僕の方へ、正確に言うと僕の腰にある刀へ視線を移す。


「――あいつらが俺のテリトリー内で死ぬと困るんでね」


 彼は僕へ笑いかけた後、エレナの方に向き直り、問いかける。


「それで、本題は何だ?」


「あなたに私が帰宅するための協力をしてほしいの」


 僕はそれを聞いて、思わずエレナの顔を見る。


「俺に?」


「ええ。協力してくれるならそれなりの金額は払うつもりよ」


「具体的に、金貨何枚だ?」


「600枚」


『600枚?!金貨1枚が大体100万くらいだから......ろ、6億?』


 悪魔が遠回りをして驚いている間に僕の驚きは冷める。


 最近、デカい金額を聞きすぎたせいだろうか。感覚がおかしくなっている気がする。


「具体的にどう協力すればいいんだ?」


「中央街に入らせてほしいの」


「貧民街をねぐらにする俺が中央街へ入る方法を知ってるとでも?」


「知らないの?」


 エレナは少年の探るような目線に笑顔で返す。


「っぷ、はははは」


 彼はエレナの問いを笑う。


「いいだろう、受けるよ。よろしく、お嬢さん?」


「ええ、よろしくお願いするわ」


『こいつ...信用できるのか?』


(わからない。でも、警戒しておいた方がいいだろうな......ただ、どうにも悪いやつには見えないんだよな)


『そうか?』


 悪魔は少年に近づき、じっと見る。


『何か、こいつを見たことがある気がする』


(ああ、見覚えがあるような気がするよな。どこかで会ったのか?)


「それで、そいつは?」


 少年が僕を顎で指す。


「彼は私の恩人よ」


「フィルだ。よろしく」


「南領から遥々聖都までご苦労なことだ」


「なぜ、僕の出身地を知ってるんだ?」


「弧剣を使うやつなんぞここらにいたら俺が知ってるから他領というのは自明。そして、その着古された服、そんな薄手の服を冬近くに着てるから南のやつかと思っただけだ。当たってたんだな」


 少年はわざとらしく驚き、僕に改めて自己紹介をする。


「俺はノアだ。戦闘とかは期待しないでくれ」


「ああ。そうするよ」


「じゃあ、こっちに来い」


 ノアは手をひらひらと振り、先導する。


「エレナ、あいつは...」


 ある程度彼から距離が取れたところで僕はエレナに話しかけようとして、気づく。


「き、緊張したわ」


「エレナも緊張してたんだな」


「当たり前でしょ!」


「そうか。ちなみに600って本当に払えるのか?」


 小声で聞く。


「もちろん!約束したのだから払うわ」


「エレナの家ってそんなにお金を出して大丈夫なのか?」


「ええ、痛くもかゆくもないわよ」


「――もしかしてお前はヘリアンサス家を知らないのか?」


 前を歩いていたノアが横に来て、問いかける。


「知らなかったら悪いのか?」


「っいやいや、悪くはないよ。でもねえ」


 彼はくっくっくと笑う。


「自分が今いる領の領主家も知らないのだと思うと、おかしくて」


 固まる。


 自分が今いる領というと、中央領?


 聖都を含む広大な地域を支配する中央領主家?


「エレナ。本当、なのか?」


「?ええ、ヘリアンサス家は代々、中央領を統治し、大司教を何人も排出している家系よ。今は私のおじい様が当主でね、今回のデキレスではおじい様が選出されること間違いなしなのよ!」


「それで、当主が大司教になったら、5年後には晴れて君が領主になるというわけだ」


「ええ、よく知っているわね?」


「お上のことも多少は聞こえてくるもんでね」


『こいつ、そんなに偉いところなんか。やけに度胸があるやつだと思ってたわ』



 領主?



 大司教?



 次期当主?



 ははは。




「ちょっと、フィル!大丈夫?!」




 意識がストンと落ちていった。





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