第三十九話 少年は出会いが多い
「あの門番には目というものがないのかしら?この私はどっからどう見てもエレオノーラ・ヘリアンサスでしょう!」
『いや、正直その恰好じゃお嬢様には見えないそ?』
さっきからずっとそんなことを言っているエレナとつっこみを入れている悪魔を横目に僕は歩く。
僕たちはついさきほど門番から追い返されてしまった。
中央街と呼ばれる、聖都の中でも中央部の町にはそう簡単に入れないらしい。
彼女が身の上を公開したところで笑い飛ばされただけであった。
まあ、ここに来るまでに色々とあったせいで髪はぼさぼさだし、ドレスもぼろぼろではあるが、お嬢様感はあると思うんだがなあ。
「しかし、どうしたものか」
『とりあえず、宿を借りたらどうだ?』
「そうだな。よし!宿を借りにいこうか」
「...ええ、わかったわ」
明らかに落ち込んでいる。
僕はどう慰めればいいかと思案した。
『おい、前』
悪魔の声で前を向く。
「そこのお二人さん、ちょっといいか?」
すると、目の前に大柄の男がいた。
咄嗟にエレナの手を掴み、逃げようとする。
しかし、いつの間にか三方を囲まれ、僕は唯一空いている路地の方へ走っていく。
「行き止まりかよ!」
思わず叫ぶ。
しょうがないので僕は翻って、男たちと向き直る。
(何か策はあるか?)
『お、おい。屋根の上で寝てるんだが』
「何の話だよ?」
悪魔に尋ねる。
すると悪魔の代わりに男たちが話し始めた。
「女の子がヘリアンサスの紋章つきのブローチを持っていたつーから来てみたら、まさかのエレオノーラ・ヘリアンサスご本人だとはな!」
「なぜ、あなたのような下手人が私の顔を知っているのかしら?」
「ヘリアンサス家のお嬢さんは今、裏の方でホットだからな。似顔絵が出回ってるんだよ」
「なんと、君一人誘拐しただけで、金貨300枚もらえるんだぜ!」
金貨300枚?!
驚きが顔に出る。
「ということで大人しくこっちに来な!」
男たちがじりじり距離を詰めてくる。
僕は刀に手を当てた。
「俺の前で不愉快なことをやんないでよ」
突然、上から声が降ってくる。
すぐさま上を見る。
逆光を背負った茶髪の少年が屋根の上に立っていた。
茶髪の少年は気だるそうに屋根からジャンプし、地面に着地する。
思わず、僕は少年をじっと見つめる。
どこかで、見たような気が...する。
「ノア、いたのか」
男が苦笑いをする。
「この嬢さんが例の令嬢なんだ、だから」
「聞こえなかったのか?俺は不愉快だ、と言ったんだ。消えろ」
「いや、でも」
「ジャック、アラン、ベン。俺を、いや俺らを敵に回したいのか?」
「...」
男たちは黙って去っていく。
茶髪の少年はため息をして、また屋根に上ろうとする。
「待って!」
エレナが声を上げる。
「なんだ?」
「あなたは何者?」
彼はじっとエレナを見て、答える。
「ノア、聖都の家なし子のまとめ役」
「ノア初めまして、私はエレオノーラ・ヘリアンサスよ」
「...門番は本当に見る目がないらしいな」
「え?」
「その服、多少汚れていても明らかにいい生地が使われていることがわかる」
彼は彼女の服を見つめつつ、話す。
「それに手がとてもきれいで、爪が整えられている」
エレナは咄嗟に手を体の後ろに隠す。
「何より、姿勢が良く気品がある」
そう言って、彼は挑戦的に笑う。
「ヘリアンサスの花が何の御用でしょうか?」




