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ダブルサイココライド2 ―Saga Of Hermitー  作者: KJK
11章 魔女と塔・傀儡師の最後
77/111

地獄から希望を込めて 




----3FAITHと知らない世界


「んん…」


何もない場所だった。そこに男が倒れていた。

具体的に言うならば

身体は血痕まみれでボロボロに破けた衣服。

レンズが割れ、フレームがひん曲がった

サングラス。上背はあり、筋肉質で若々しい初老の

銀髪の男が瓦礫の山に大の字に倒れていた。



酷い疲労感だ。と3FAITHは思った。

賢人連盟でいう所の脅威度「世界的脅威」であり、「SUPERの中のSUPER」である

超・超級能力者である男からしてみれば

肉体的な疲労感に関しては

随分久しぶりに感じるものであった。


仰向けにぼうっと灰色の空を眺めていたが

瞬間的に気合を入れ、フッと一息吐いてそのまま立ち上がった。

片手で頭をさすり、首の筋肉をもみほぐす。**

**


目で見渡す前に3FAITHが瞼を閉じた。周囲に意識を広げて索敵したのだ。

結果は何も無し。目を開けると世界の色がモノトーンのように少ないように感じた。

3FAITHの眼に映るのは薄暗い荒野。地面は灰色の土と礫。

空はどんよりとした曇り空。それが空だけでなく境界なく地上まで続く。


視界は200mという所。

白い靄がカーテンのようにかかっていて遠くまで見渡せない。

濃霧というにはほんの僅かだけ足りない程度に霧がかっていた。

無理やりに目に霊気を込めて遠見の術を使う。


やはりカーテンがかかっているように見えない。

しかしずうっと向こうに何かがあるのは分かった。


(はぁ… 何が起きたのだっけ?) 

3FAITHは思った。

忘れてしまったのか、記憶が混乱していた。

こんな時は誰かのせいにしたくなる。

そんな感情自体どうでもいいが。


途端少し先の地面が窪み、そこから地面の断層が見えた。

亡者、化け物達の亡骸。

そういうもので今自身が立っている大地が形成されているようだった。

動いたくぼみから10匹以上の4足歩行のミイラとエイリアンが混ざったような

化け物が3Fに向かって駆け出してくる。手を突き出しながら駆けて来る様、

大地に閉じ込められた他の亡者のような化け物達も皆救いを求めているように見えた。


「救って欲しいから僕の所へくるのか。それとも… 誰にでも向かってくるのか。」

どちらだろうね。


手の平サイズの光球を一瞬で作り出し、全て破壊光線で殲滅。

破壊された化け物は大地に飲み込まれるようにして沈んでいった。


辺りを見渡す、3フェイスはここは少し自身の世界に似ていると思った。


「私が私の世界に入った? んなことないか。

出来ないでもないし、やったことが無いわけでもないが…」


……


「取りあえず、歩き出そう。飛んでもいいけれど

スーパーマンみたいにさ。」


二ッと口角を上げて男は歩き出す。


山が2つありその間の道を抜けると

段々と建物が見えて来た。

薄暗い山道にあばら家がぽつぽつとまばらに建っている。


内一軒の家の門。二つの塀の間に門のような空間があり短い階段と

家の玄関がある。そこに少女が此方を見て手招きしていた。

多少不敵な笑みを口元から漏らしている。酷く色白で

おかっぱ頭で着物を着ているアジア人の女。

ほうれい線が口元に見えた。少女のように見えたが恐らく30代かもしれない。



「ははぁ、さてはここは私の世界じゃないな。」


3FAITHが不敵な笑みをする女に笑みを返しながら足を進めると

玄関の扉を開けて入ってくるように、というようなジェスチャー。

女はドアは閉めずに彼が辿りつく前に

こちらを一瞥して邪悪な表情を残して家の中に引っ込んでしまった。


「やれやれ、私に用があるなら逃げなくていいのに。

バカなのかな? それとも…」


ー罠なのかな? 

と呟きながら

家の中に入ってみると、エントランスの横の戸棚の方から

風のように怨念の塊が横から吹き付けて来た。


3Fが多少驚きながらも怨念の風を捕まえようとすると

まるでそれは自身が幻覚を見ていただけかと

勘ぐってしまうほど忽然と消えてしまった。


玄関からは真っ直ぐに廊下が伸びており、左手にドア。

恐らくダイニングかリビング。リビングのドアの近くに階段。

右手の部屋はキッチンのようだった。

台所だけ部屋の外から一瞥して廊下を進むとT字路のようになっている。

廊下の右手は恐らく風呂場、

左手にトイレと寝室。


風呂場から音がしたが無視してトイレの前に建つ。

ノックをするとノックが帰って来る。

もう一度

コンコンと叩くと再度

コンコンと。


更にもう一度コンコンと叩くと

後ろから首に女の手が巻き付いてきて耳元で先ほどの女が


「入っテルってイッテルデショ。」


恐ろしい怨霊のような女に巻き付かれた男は

口からペッと魔煙草を吐き出してそれを加える。

自然発火し煙草に火が点く。

煙を肺深くに入れ、ゆっくりと吐き出した。


ーネェ、死にタイノ? ねぇ、死にタイノ?

ユルs ユサナイ ユルサナイ 


耳元で何事か囁く女。言葉がどんどん早く早口言葉のようになっていっている。

早送り再生のようになっている女を無視して男がトイレのドアに拳を突っ込んだ。

扉に穴が空き、一部が爆ぜる。

便所の中から黒と茶色の汚物にまみれた人間のミイラの化け物。

が男によって引きずり出された。


ミイラは何かにすがるように手を合わせ祈っていた。

体はミイラなのだが目は十分に水分を含んでいる。

銀髪の男がそれの額に指を当て殺そうとした時、耳元にいた女が恐怖で息を飲んだ。

男はそれを見逃さない。

すかさず女の顎を掴み壁に押し付けて首ごと締め上げる。


「ようやく実体が現れた。怖いの苦手だからね、良かったよ。この場所について教えてくれる?

迷子なんだ、こう見えて。」


おかっぱの女が恐怖に顔を歪ませて絶叫すると

家が急速に崩れ、女はしわくちゃの

ミイラになりボロボロになって崩れ落ちてしまった。

崩壊した家自体が大地と同じように骸で出来ていた。


先ほどまでおかっぱの女だったものの

霊魂が残っていないか調べるが無かった。


「まさかこの歳で迷子になるとは… 

私の読みが正しいならこんなことしている場合ではないのだけど。」


既に崩壊しかけていた裏口の扉を周りの壁事、

一撃で蹴り壊して大穴を開け外に出た。

隣家の塀の上にネズミ男のような奇怪な人間が4足歩行で

タタタとこちらを酷く驚いたように見ながら横切っていった。


走り去る際に愚者がサトリを発動。するがノイズが酷すぎたのか失敗した。

口の中からロープを取り出し、カウボーイの如く投げる。

ねずみ男の足に引っ掛けて手繰り寄せると

手足をバタバタとさせ、もがいていたが捕まえた。


塀の上から落っこちた男は上半身は裸。下は短パン。

背骨にたてがみの様な背毛。

おびえながら塀を背にして体を小さくしていた。

ギョロ目で前歯が長く大きい。背骨は酷く曲がっていた。

ポケットから濡れたような質感の石を取り出してねずみ男に飲み込ませる。

恐る恐るねずみ男がそれを飲み込んだ。


「行っていいよ。」

男は憔悴したような、観念したような感じで頷いて

4つ脚でまた塀の上に上がりタタタと駆けて行った。去り際には会釈もしていった。


「ポッサムのような奴だ、それに意外と従順で礼儀正しい……」


住宅地の奥の方へ行くと家がまばらになった。人っ子一人いないが

一つの捨てられたようなあばら家から気配を感じた。

人間のものではない、友好的なものでもない。

その気配は丁度家の割れた窓からこちらを視認して3Fに向かって飛び出してきた。


飛び出してきたもの。

化け物は異星獣ではなかった。先ほどのような霊系の化け物でもない。

がっしりとした体躯。猫背、肌はゴリラのように厚く暗い灰色。

頭の位置は背が曲がっていても190程。頭部に結晶のような角が一つ。

顔つきは鬼と猿の様で目は燃えるような赤。

石を巻き付けた棍棒をもって距離を詰めてきた。

確かな殺意を持っていると3fは理解した。


それは躊躇なく、獲物を見定める気も無く。

素早く駆けて来て力いっぱい棒を振り下ろした。

片手で受けると、ずしりと重い手応えを感じた。

3fが違和感を覚える。

(このくらいで? この私が重いと感じた?)



「いや、謎解きは保留だ。」


「お前はオーガとでも名付けよう。猿鬼でも

灰鬼人でもいい。廃棄人でも。

別に何でもいい。あ、ゴリラ・オルガってどう?」


問いかけを無視してやって来たオーガの手首を掴み投げた。

鬼は投げられ宙を舞う間も獣のように身をよじり投げを抜けようとする。

3Fが瞬間的に握った手から霊気を電気のように流し込む。

駆け抜けた霊気は手首を、肩を砕き、そして頚椎にまで達した。

オーガはゴールし終えた走者のように力が抜け

無事一回転して地面と衝突した。


叩きつけられた瞬間に大きな口を開け大量に息を吐きだす。鬼は

すぐさま少し息を吸い込んで飛びかかって来た。


(頚椎まで破壊したはずだが、加減しすぎたか。それとも… )


予想が外れて起き上がって来た化け物。


「意外過ぎて目を見開いちゃうよ。」


刺激を与えてくれる予想外の健闘ぶりに眠気が吹っ飛ぶかと思ったが

心底どうでも良いと3FAITHは思った。彼は酷く憂鬱だった。

煙たい様な眠たさを感じていた。煙、火のないところに煙は無い。

この憂鬱の原因を後で考えなければいけないと思うと……

恐らくそれが原因だった。


そう思うと、途端。

3fの腕に噛みつこうとする廃鬼の顔が、向き合うものとしては

幾分マシなものに思えて来た。

首を締め上げると両手で外そうともがく。

現実逃避させてくれる相手。

感謝すべきか、それともさっさと殺すべきか。


(情けないのは? 

都合の良い現実逃避に浸ることかもしれない。)

問いと答えが男の頭の中に浮かんできた。


少し意識が冴えて来た。3fは切り替えようとし始めた。


「隠者の奴め… 名はジョン・スミスか。ぴったりだけど。

いや、それもどうでもいい。

記憶に干渉されていたのが大分無くなっているようだった。

忘れないでいられるかもな。いや、そもそもが…」


意識を目の前の魔物に移す。

頭から生えている結晶角が気になった。デコピンして弾き切る。

衝撃で弾き切られた角が高速でその場で一回転した。

飛んでいってしまう前にデコピンをした指で掴み取る。

一瞬にして行われた早業だった。


角が切られると

霊気が一気にゴリラ鬼から逃げ出していく。

まるでしぼんだ風船のように弱弱しい。

首を絞めていた力を緩めてやらねばそのまま握りちぎってしまうほどに

弱い。


今は低位能力者くらいだろうか。

ネフィリム並みからそこまで一気に落ちるか。

目を合わせ、男は観察する。と鬼は途端に弱弱しい目つきになった。


「なかなかサトレないね。」


救世主がこの男が元々持つ特有の能力を発動するものの、上手くいかなかった。

先ほどからであった。この化け物、それともこの世界に来てから。

やはり、心が読めない。感情くらいは分かるのだが……

「サトリ」が効かないので夢喰いを発動。

記憶を探るが、底には真っ暗な靄しか無かった。


拳骨を喰らわせる。

灰鬼の頭が爆ぜた。


「ふわぁ、眠たい… はぁ、ルーベンのようなことをいってるな。やれやれ。」


欠伸しながら、進んでいくとまた灰鬼が出て来た。

今度は3匹。愚者は次は結晶角を壊さないで戦うつもりのようだった。

感想としてはやはりそれなりに強い。しかし生身で殴り合っても

勝敗は明らか。

ただハッキリと分かったのは愚者がかなり弱くなっていることだった。


灰鬼達は勝てないとわかると、獰猛な顔から情けない顔に変わる。

「『それはこっちの台詞』の表情バージョンの言葉ないかな。」


文字通りこちらのほうこそ情けない顔をしたい所であったということらしい。

更に進むと建物の数が多くなってきた。

より都会的なビル群に。


アスファルトの道。バスターミナル。


口笛を吹くような形に口を開き、フッと軽く息を吐きだすように

特製の魔煙草を出す。口に咥える、煙草の先端が自然発火。

霊気を凝縮したような濃厚な煙を吸い込み肺に入れた。


「やれやれ、私の胃袋とは繋がっているが。黒鯨とは接続が切れてしまったね。

大丈夫かな。」


猿鬼が他の猿鬼と争っていた、小規模な群れの争い。

少し種類が違うように見えた。

数が多い方がほんのりと肌が赤く、少ない方が青い。

赤鬼と青鬼。


観察しているとそれぞれ動きがいい個体や悪いのまでいた。

感情の動きも違うように見える。

個性の違いがあるのか。

赤鬼の中に一回り大きく霊力が多いのが一体。ボスだろうか。


雌雄は直ぐに決した。朱鬼の勝利。

赤鬼達は動けなくなった敵に獰猛に喰らいつく。

ひと噛みで腕や大腿骨をかみ砕き、素手で敵の部位をバラバラにちぎっては分け合っていた。

どうやら負けたほうは喰われてしまうらしい。

同時に霊気を吸収している、少し強くなったようだ。

大きい赤鬼はそれだけでは飽き足らず傷ついた仲間も3体程

殺して喰ってしまった。


その様は3Fに蟲毒を連想させた。


(まるで地獄だな。

ここは……一体何処だ?)


(私のエネルギーももう無尽蔵ではない。)


それは男もこのゲームに参加せねばならない未来を予感させた。

煙草を捨て、口から無骨な大剣を取り出す。


「酷くわかりやすい弱肉強食の世界。どれ、私も霊気を奪ってみようか。」


ーまずはここ地獄(仮)を平定し、私の世界へと組み込む。

随分力が弱くなってしまったけれど。

成せばなる、成さねば成らぬ。

諦めなければ不可能などない。


「さて、今ある力で念のため。」


拳に霊気を大量に収束させていく。

ギュン、ギュン、ギュン。

何重かに掛けて。


異常というレベルのエネルギーを宿した拳を

天に向けて収束させた霊気を放つ。


ールーベンへ送る思念。地獄から希望を込めて。

救世主より。


思念と変質させた霊気を放ち終わると

赤鬼が狂気じみた目で救世主を見ていた。

が3FAITHにとってはどうでも良かった。

向こうで大きな山が動き、それに連動するように

100mを超える魔物が数体動き出したのが見えた。

そこら中の地面、建物、丘から数万を超える亡者の化け物が現れ始めたからだった。



ポッサム、オポッサム:同じ物

アメリカ大陸の生息するポッサムと

オーストラリアで言われるポッサム、オポッサムは別物。

後者の方はクスクス型亜目。前者はオポッサム目。3Fはねずみ男に対して

フクロギツネやクスクスのことを指して似ているといった。


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