傀儡師と占い師と悪夢の最後
ANKH・NIGHTMARE
「悪夢の世界」
JOHN SMITH
日没前の二色の空の街
都心のビル群を領土に組み入れた所だった。
ANKHナイトメアの拡張中。
いつの間にか夢を見ていた。
それは僅か数秒の事だったが随分長く感じた。
幻視==
少年の見た夢 神との邂逅
異能発現 予見していた
殻を割る
==
幻視とここに存在していた思念が混ざりあったものだろうか。
3Faithのヴィジョン……
見ていてとても疲れる夢だった。特に奴の娘と…
この思念は恐らく、何処まで正確かは不明だが。
3Faithの物だろう。
奴も夢を見ていた。同じ夢。
奴は本気だった。
全ての世界と魂を消すと言うのは
世界を卵のように見たのか。
卵の中のエネルギーを集めて集中させなければ世界の殻は割れない。
その様なことなのかもしれない。
意識を目の前に戻す。
ビルの地下へと入っていくと地下鉄。
人っ子一人いないホームで電車待って乗り込む。
3駅過ぎたところでANKH・ナイトメア駅とアナウンスされた。
降りて、エスカレーターを上がっていくと小奇麗なプラットフォーム
駅前にはささやかな広場がある場所。
ここからは徒歩でバーまで行ける、取りあえず帰ろう。
薄暗い2色の空の街にあるアメリカンバー。
ANKH・NIGHTMAREと書かれたネオンサインが入口の横にある。
レンガ調の外壁には『MAIKE IT HAPPEN!』
と書かれたピンク色のネオンサイン。
今日は声の出ない少年から報告のあった、住宅地の公園にいた小鳥の魂を保護。
丁度連れ帰ってきた所、店の入り口前から音楽が聞こえて来ていた。
中はこの世界にしては珍しく賑わっている。多くの魂が集まっている。
店内はバーカウンター以外はファミレスのように
向かい合わせのソファ席がいくらかと丸テーブルの4人席が少し。
カウンターの中には酒のボトルが所狭しと並んでいる。
カウンターからフロアに出てトイレがある奥の方の
廊下手前にキャビネットが3つ。
不貞腐れたキューピッド。十字架が突っ込まれた花瓶。
日本猿の肖像画。欠伸をしている。
フロアの開けた空間にバンドが演奏するスペース。
小太りのヘンテコなサングラスの男がギターを弾きながら歌う。
アシュリンがドラム。軽快でファンキー、
アップテンポで洒落た曲調だった。
奥の方のテーブル席に腰を降ろし
改めて魂たちを眺めた。
変な小太りのミュージシャンに、列車の中で出会った少女。
ウルフパック2の黒狼の魂。今回連れ帰った傷ついた小鳥の魂。
何者かは知らないが無口でスラリとした初老の男。
カラフルだが全て暗い色のハットを被った男とうな垂れた感じの男。
ショートカットの妙齢の美女。そのほかにも何人か。
頭を擦り付けに来た黒狼に小鳥を紹介。
思念で会話する。
ーオ帰エリ、鳥ノ魂?
「ああ、傷ついているけど、ここで休んでいれば回復するかも。」
ー名ハ?
「まだない、いいのが浮かばないんだ。」
ーオレモ名ガホシイ。
「俺が付けていいのか?」
ーナイと不便、アルと便利、でもボスがツケナクテモヨイ。
オレハ、アレガイイ。 アレハなんとイウ?
「何がいいかな…って俺が付けなくていいのね。アレは… 」
黒狼の視線の先にはバーの壁に掛けられているTV。
海中で泳ぐマグロが映っていた。
「あれは、ブルーフィンツナ。それでいいのか?」
ーソレガイイ!
「じゃあブルーとフィンとツナどれが良い?」
ーゼンブ!
というわけで狼は
ブルー・フィン・ツナに成った。
バーの奥にあるトイレを更に奥に関係者用の部屋がいくつか。
そのうちの一つに入り縦型の回復カプセルに
小鳥をに入れておく。
しばし瞑想した後
カウンターに入って飲み物を用意していると
ドラムで演奏してバンドメンバーとセッションしていた
アシュリンが途中で抜けて此方へきた。
カウンターに腰を降ろし話しかけて来る。
ーあたしも飲み物頂戴。
「前回は狼が活躍してくれたけど、魔物たちの襲撃があるかもしれない。
もう丸一日以上ないけれど。」
「ツナだ。」
「?」
「狼の名。さっき決まったんだ。」
「へー、止まらないぜぇってか? ナハハ。」
少し憂鬱そうだったアシュリンの顔が明るくなった。
飲み物を二人分カウンターに置いて自分もカウンター席に座る。
「さて状況はどう? ジョン人形は?」
「恐らく3Fと衝突した。」
「結果は?」
「倒した。……多分。」
「未来視の能力者を襲撃すれば、3Fはおびき出せる。
ただ勝算があるのかどうかは占いじゃわかんなかった。」
「ただ、ジョン人形がどうなったのかが分からない。
体が無事ならいいけど。」
「未来視の能力者はどいつなのか割りだせてた?
間違えてたらやばいぞ。」
ANKH・Nを立ち上げてから
日に数回は魔物の群れが何処にいてもやってくるようになっていたが。
それがぱったりと止んだ。恐らくこの世界の主は死んだ、はず。
アシュリンが見た未来視の能力者、俺が知っている賢人連盟の人間の中にいるという奴。
3人しか俺は賢人連盟の人間を知らない。
セレン、マイケル、馬車の御者。
御者とセレンは違う。そこまで凄まじい能力者ならば
霊力の規模で気づくはず。その三人の中で唯一俺が
霊力を計れなかったのはマイケルのみ。隠すのが上手いのだろう。
それに妙な霊気の流れをしていた、困り顔になる度に彼の中で何かが起こっていたような…
でも隠せない奴と比べれば少なくとも隠している奴なのはわかる。
それが俺の傀儡に伝わっていれば間違えていないはず。
3Faithは倒せていたとして
お互い本当に戻れるのかが問題だった。
もしもここから出れたら体はどうなるのか。
ここの魂たち総じてもう戻る身体が無いのだ。
仮に傀儡の身体に霊魂を戻しても傀儡は変わらず傀儡であって
完全に元通りに生き返るわけじゃない。ならば俺もアシュリンも傀儡になるのか?
誰の? 俺の? どうにも予想が付かない。
彼女の身体は塔から回収済み。ただしジョン人形が傀儡化したせいか思ったほど繋がりを強く感じない。
マチルダやルネー達とも
電波が悪いような感じでうまく通信できない。
問題は山積み。それに…
「あとはここからどう脱出するか……」
アシュリンに言う。
「この世界がどうなるのか次第。 ……いや正直分からない。ごめんね。」
「占いは?」
「占いでは…ここで終わり。納得いかないけどあたし達の旅の最後になる。」
「そうか。」
ーでも、占いなんて信じんなよ?
こんなもんに最後何て決めてもらわなくていいんだからね。
@@@@
「BAR・NIGHTMARE」
太陽が動き出す。
陽は地平線の下へと沈んでいく。
今のままで東だと思っていたのだが実は西だったらしい。
もうすぐこの世界は崩れ落ちる。
悪夢の世界。
ANKH・Nの領土は数倍以上になったし
救えそうな魂も救った。正確にはここまで連れて来ただけだが。
店の裏口近くの壁に大きなダストシューターのような物。
自勢力ネットワークを繋げるものが最後の希望だった物。
その前で溜息をついたところで話しかけられた。
ーやっぱダメだったか。アンタの隠者の移し身。
「隠者の移し身」は俺の傀儡の近くになら転移できるという技だが、そもそも射程が短い。当たり前だが、世界も越えられないらしい。
3faithの世界…
壁は思った以上に分厚い。そしてこのD/Mネットワークもそれは同様だった。
思念はアシュリンとの合わせ技で通信できていたが。
その他の物は世界を越えれない。
ジョン人形との繋がりも分からなくなった。
3FAITHと衝突した時に完全に破壊された可能性もあったし。
アシュリンの傀儡も、今どこにあるのか不明。
塔の外には出したはずだったが…
「3FAITHを倒せた場合。この世界はもうじき崩れ落ちる。
そしてめでたいことに太陽は動き出した。成功したんだ。この世界は崩れる。
でもあたしの傀儡の身体も居場所も分からないし。
マチルダや魔女達とも通信状況が悪すぎて次はいつやり取りできるか…」
仮に世界を渡れて戻れても他の奴らに至っては体も無い。
そして頼みの俺の技能。
「隠者の移し身」もダメだった。
「万事休す、か……」
天井を見上げ彼女が言った。
特に期待もしていなかったという感じで。
恐らく俺たちはここで退場する。
振り返れば人生は感慨深かい。世界がおかしくなってから休む間もなく
方向性だけ決めて後はその場その場で対処してやって来た。
3FAITHは倒せたはず。直接倒していないからか心に引っかかる感じはあるが
確かな手応えはあった。
後はどうする。思念でも残しておくか。
これから何が起こるのか、ジョン人形から伝わって来た思念と
アシュリンの占い、マチルダからの報告だと……
殺害対象にしていた何人か、それと組織もか。
3FAITHは殺せた…
他には。
暗黒教団は壊滅、本流も摩天楼派ももう居ない。両方俺が倒していないけれど。
残すは悪魔党。本流残党はスケアクロウに合流。
なら悪魔党はスケアクロウには入らない?
敵対していたはず。
あの不死身野郎の名も分かった。
ノートン、こいつもまだ生きている。それにゼフ・アドリエル。
現在Witheryが塔に潜入している。
怨霊術師、マケンナとエレーニの仇。
こいつはマチルダが始末した。
カルロも殺した。
マチルダの仇はスタンとゼフ。
残るは「悪党」ゼフ・アドリエル。
そして3FAITHの組織「SCARE CROW」
もし俺がいなくなったらANKHはどうなるのだろう。
誰かに託したほうがいいか。
エレーニは生きてるのか死んでいるのか不明。
マザーか、マチルダが妥当か。正し両方とも自走傀儡。
俺が死んだ瞬間に後継者が糸が切れたように動かなくなったら混乱させるだけ。
傀儡の後継者は少し不安が残る。
そうするとアイン、アントニオ、ハクしかいない。
一応魔女にも事情を伝えておきたいな…
またANKHごと預かってもらう必要も出てくるかもしれない。
それと方向性、方針、ミッションステートメントもあったほうがいいかもしれない。
どうしよう。あんまり俺がいなくなった後のANKHについて考えてきていない。
どういう方向へ進むべきか。
スケアクロウとは敵対が続くだろう。
垂れ流しでもいいからANKH宛ての思念を構築し始める。
===
スケアクロウに勝利すること。
魂を消させるな。世界も。
===
アシュリンは俺は世界を救ったと言うけれど、体感ではどうでも良かった。
解決したほうがいい問題を偶々解決できただけだ。
自分自身のことを考えるほどに世界やその他のことに対して軽く感じる。
昔は自身が希薄すぎるからと、もっと自分をケアして振り返る様に
努めるようにする必要があって自分をもっと意識するように訓練した。
だがそういう部分を発達させればさせるほどに
段々と世界を軽視しだしている気がして自分の内側での変化に困惑してしまうようにもなった。
バランスを欠いているのかもしれない。
役者と舞台で言えば、結局は一人の役者だけにカメラを向けすぎるように。
それですらないか、
役者のインナーモノローグだけにマイクとカメラを向けているように、かも。
舞台ごとカメラを向けたくなるような場所に役者をセットすれば良かったのか?
どうやるのか、自分の居場所を考えていなかった。そうだった。
舞台と切り離して考えていた。
根無し草のように目的地に向かって動いていた。せっかく自分の領土もあり仲間がいたのだから
皆ともっとチームで連携して相乗効果を発揮したかったな。
もう遅いし、それも別に正しいのかも分からない。
ただ人生の最後に自分が満たされていないこと、他にもっとやれたのじゃないかと
思っていることが浮き彫りになっていた。
俺はどうしたいんだ?
何がしたい? 何処に居たい?
何処で、自分らしく居たい、何処でなら自分らしく居れる。
人類に貢献ってなんだ?
何故こんなにも満たされないのか。救ったというか予防しただけのような気がする。
そうか、⋯⋯皆で何か大きなものを獲得したかったのか。守るんじゃなくて、予防するんじゃなくて⋯⋯
そういう事がしたかったのか。
ANKHに、マチルダやアインには何を伝えよう。
===
スケアクロウに勝て。3FAITHのヴィジョンは俺が預かる。
俺が決める。世界を安定化させろ。
霧を払え。個性化が進行していた、色んな種族が登場している。
柔軟に対処しろ。
===
その後は何を言おう。
===
楽しんで生きろよ。ANKHもそういう場所になって、あとそう作れ。
自分のことだけじゃなくて他者に共感しろ。
痛みを受け取れ、勇気を持て。覚悟しろ。
自分を克服しろ、向き合え。挑戦しろ。
適材適所だ、皆が本領発揮できるような場所へ行けるように。
望み過ぎだろうか。
こんなこと言われても大変すぎるかもしれない。
やっぱりあまり気にせずに。
===
後は、後は。
===
未来のことは任せる。適任者に。
それまでは…
ANKHのヴィジョンは。──神の足跡を追う事。
ただし世界と魂を消す以外の方法で。
人類や他の種が一緒にやりたいならやればいい。
ただしもっと強い組織や宇宙人に助けてもらおうとしたり、
引き上げてもらおうとしない事。
取り込まれるだけだ。人はゴリラや猫に人間になってもらいたいとは思わない。
同じくらいの力も持ってもらいたいと思わないだろ。
自力で得られる力までだ、上位者が認めるのは。多分。
後は人類の勝利。
PS 別に魂の勝利でもいい。人類に留まらないスケールになった時は。
何でもいい。困ったら良心と相談して。
====
様々な言葉が心に浮かんできてそれを適当に思念にしてまとめて残していく。
こういう精神の組織に成れと言いたいのだろうか。
自分でも滅茶苦茶な気がする。混乱させてしまわないだろうか。
まぁいいか。思念を手紙の形に変えてダストシューターに入れて送り出す。
他には何が出来るか。
主の種が2つ残ってる、これを託してみようか。
いつの間にか考え込んでいた。
横にいるアシュリンを見る。
「アシュリンの身体の場所が分かればいいんだけど。」
「占いで結果は出てる。無理だよ、皆体も無いんだ、
あたしのはギリギリあるけれどそれでも多分この世界は渡れない。
アタシは再度魔女に通信しようと思う。」
「アンタの身体は魔女が回収しに行ったはず。その種はダストシューターに放り込んだ方がいい。無駄になる可能性が高いけど、あたしにあげるよりはいい。それと
アンタだけでも戻る為にジョン・ドー人形の場所を考えな。
こっちのことは心配すんな。」
とアシュリンが言った。
何となく話し合いは終わりの雰囲気に。
皆この世界の終わりを悟っているようだった。
皆好きに過ごしている。
アシュリンは携帯や固定電話を使ってずっと電話をかけ続けている。
途中で皆で外へ出た。
少しずつ段々と空が白み始めていた。
朝がやって来た。
ーアンタさー、ヒロインと最後二人っきりになってんのに何もしないわけ?
ーヒロインだったの? ごめんかわいいけどそんなにタイプじゃなかったから…
ーえ? 嘘、信じらん’ない… 最後にそんなこと言う? アタシの人生の最後。はぁ…アンタらしいからいいけどさ。 魔女がやっぱ好きなんだ?
白い光が段々辺り一帯に広がり世界を白一色にする。眩しい。世界の最後。
ーああ、イーヴィーもいいな。
ー二兎を追うもの一兎も得ずの言葉通りになってない?
ー追ってすらないけど。別にそんな悪くない終わりだろ? ウソつくより。
ーあのねぇ⋯⋯ まぁ別に嘘もいいと思うけどね。⋯⋯てかさ、万が一さ。⋯⋯・生き残れたらどうする?
ー⋯⋯は? 生き残ったら?
ーうん、万が一生き残れたらね⋯⋯。 アンタは人生で何がしたかった?
ーわからないけど、自分が得意なことで人類に貢献したかった。
誇れるような人生を送りたかった。大きく善いこともしたかった。
好きな子とデートしたり、家族を持ってみたり稼いでみたり、何か発見をしたり。
最高の友人とか、チームとかも欲しい。
成長したり、皆で夢やアイデアを実現させたかった。
あと皆で凄いものを手に入れに行きたかったな。
ー何が叶った?
ー成長したりくらいかもしれない。そのくらいしか出来なかった。
そのくらいしか出来なかったな。
アシュリンは? そういえば本名何なんだ。
「忘れてるみたいだけど、アンタは世界を救ったんだよ。
凄いことだし成長したり以外も叶っているからね。最高のチームも持ってるでしょ。
それとあたしのことはいいっつーの。本名は後で自分で調べな。」
「まるで実感がない。」
3FAITHを止めたとか、救ったとか
この時は酷くどうでもいいことのように感じていた。
「ん? 後で調べるってどうやって。」
白一色の世界でアシュリンが
目をつむり静かに霊気を練り上げるように呼吸を始めた。
彼女の身体が光り輝き始める。辺りを包む光に負けないほどの淡い白金の光。
美しい白い翼が背中から現れる。
風に巻き上げられた羽毛のように宙にふわりと浮いた。
ーあたしはさ、自分のことばっかり考えて生きて来て、別にそれでいいし。
自己犠牲とか大っ嫌いな人間だからね。本当に最後の最後でも
こんな事するわけないようなほどに、特別だからね?
この天使なアシュリン様の魂の灯を持って……
ー奇跡を起こしてあげる! 生き返れ! ジョン・スミス!
胸が強く脈動し振動を始める、身体から光が明滅する。
ANKHが出現して……
それに共鳴するかのようにアシュリンの身体が更に光ろうとした時
ーあの! あのー! カトー!!!?
聞き覚えのある声が光の向こうから聞こえて来た。
少しだけ背の低いブロンドの女子。
「アシュリン! 奇跡は今すぐ中止だ! 皆で移動するぞ!」
ーNOOOO!
おいぃぃ! トラックはいきなりは止められないんだよぉ!
D/Mネットワーク :ダストシューター型 出入口
離れた自勢力や同盟勢力と取引可能に。今は人員の移動も。




