3話
サンセット・スワンストリート
長い夕暮れだった…
ストリートは何処まで行っても夕焼け色に包まれていた。
人通りは少なく、逆光に包まれた人影が時たま通り過ぎていく。
一直線に続く白鳥通りを進み信号をいくつか超えていくと
バーやパブ、レストランが立ち並ぶ区画になっていく。
料理店に入る。
幽霊のほかに、普通の人間らしきものもいた。
話しかけてみるが反応が返ってこない。
まるでこちらが幽霊になったみたいだ。
店員がやってきて店外のテーブル席に案内された。
サワー種のパンとバターにアヒージョ、パエリヤを頼む。
頼んだ後で、お腹もすいていないし、支払いが心配になった。
カードが使えるといいのだが、トラブルはごめんだ。
そんな事に意識が向く。
出て来た料理は美味で、貝やエビ、ブロッコリーの霊などでも無かった!
一度清算したい旨を伝えるとカードリーダーをウェイターが持ってきてくれた。
何故かはしらないが支払いも出来たことで安心した。
傀儡になっても不安になったりするのだな。
などと思いながら追加で白ワインも頼む。
ソアヴェ・クラシコが置いてあったので、それにする。
全て平らげてしまった後で、量が多すぎたことに気が付く。
食べ過ぎてしまったかと思ったが、腹8分目くらいか?
特段苦しくない。傀儡の体は奇妙なり。
しばらくワインを飲みながら通りを眺めていた。
赤と黄色の光に空は塗りつぶされていて、建物や通行人、アスファルトは光の中
光を反射するか、それとも影になるのかどちらかだった。
あまりにも長い夕暮れ。太陽が沈まない。
いったいいつまで続くのだろうか。
もう二時間は夕暮れが続いていた。
店を後にして、帰り道襲い掛かって来た人間の暴漢を返り討ちにする。******
普通の人間よりすこしマナを纏っている程度だった。
意識が不鮮明なようで襲ってきた目的も不明。
アジトへ着いた頃。辺りが
漸く暗闇に包まれた。夕焼けが終わり完全に陽が沈んだ。
ケンナズホーンテッドアパートメント前。
扉の前。どうにか開ける方法がないか試行錯誤する。
郵便受けの中にあるカードリーダーにカードをかざす、と
ピッと言う音がなり、ガチっと扉の裏から錠が開いた後。
ほっとしながら家の中へ。
前までいたアジトとは全体的に雰囲気が違う。
1階は玄関のみ。この部分は似ているが。
階段を上がると広々としたワンルームのスタジオ。
バーとキッチンもついているし、床の半分はダンスフロアのようになっている。
もう半分はテーブルと椅子、角の方にソファなどが並んでいた。
奥の扉を開けると下に続く階段があり廊下の奥にトイレ。
便器に飛び込んだら着いた場所。
2階の部屋の隅、ソファ席がある場所に寝場所を作っておく。
時折、勝手にポットがついたり、カーテンが開いたり不吉な
超常現象まがいのことが起きる。
マケンナは眠っているようで意思疎通がとれない。
寝る前に、小さなメモがカウンターからポトリと落ちた。
見てみる。
>>カードを使ってくれてありがとう。
>>怨霊をカードに集めてこの家に力を集めて。
と書かれていた。怨霊?
そのままその日は就寝。
寝ている間、誰かに見られているような感覚があった。
____翌日
次の日も白鳥通りを探索。
家を育てる事。成長すること。今私が出来ることだ。
あとはジョンと連絡が取れればいいんだが。
街の名は「Richmond ---リッチモンド」
白鳥通りは幽霊らしき人間で賑わっている。
時折生きている人間も見かけるのだが
幽霊にも私にも興味がなさそうにしているものしか居ない。
ガソリンスタンドを越えて
白鳥通りを進んでいると頭から泥を引っ掛けたような人間。
こちらに向かってきた。
憎悪をむき出しにしているような表情。私の体に触れようとする。
鞭で打ち払うと、どんどん体が崩れていった。
まるで体も泥のような質感のエネルギーで出来ている。泥の幽霊。
強くはないが、倒すために多少のマナを込めないといけない。
3人ほど泥霊を倒してカードにマナを入れた。
アジトに戻ろうとする途中、数体の泥を被った鳥型魔獣に出くわした。
泥にまみれている箇所に人の目や、指がついている。
死体の部位を体につけているのではない。
泥霊が付着しているのか?
こちらを襲撃してきた。
警棒をライフルに変形。上空が広い場所だと少し狙いが付けにくい。
ビルの隙間へ入る。鳥魔獣は構わずに狭い隙間に私に滑空してくる為に入って来る。
銃で撃ち落としていく。
全ての鳥魔獣が地面に落ちて絶命するまで、時間はかからなかった。
死んだはずなのに、こびりついた泥が鳥の体を無理やり動かそうとしていた。
が、直ぐにマナと共に泥ごと霧散して消えた。
この現象は何だ。
この泥の霊のようなものが
マケンナが集めて欲しいと言っていた怨霊なのか?
この泥霊を倒しカードに吸収させていくと
家が育つという認識でいいのだろうか。
アジトに帰り、カードを使って中に入る。
リビングで新しく得たライフルの弾丸について
ノートにアイデアをまとめていく。
何か新しい弾薬が作成出来そうな気がしていた。
キッチンに紅茶を探しに行く。あまり見覚えのないブランドばかり。
数も少ない。場所が変わったからか。
コーヒーも引っ越し前はコーヒーバッグだったのが、
ここはインスタントのパウダー。
その時、下の階の扉が叩かれる。
開けてはいけないんだよな?
などと考えていると鍵が開く音がして誰かが入って来る。
「おいおい…」
階段の方を見に行くと、人間の幽霊たち。
当たり前のような顔をして、入ってくると何かの準備を始める。
私がまるで見えていないかのように振舞っていた。
ミキサーの近くでPCやら何やら用意し始めた女が音楽をかけ始める。
誰かが電気を消して、間接照明といくつかのライトだけの薄明りに。
音楽はワルツというのかタンゴというのか私には正確にはわからなかった。
靴を履き替えた男女がペアになって踊りだす。
舞踏会の最中も外から客が扉を開けて入って来る。
その中に紛れて顔や服が黒い泥に覆われた男が一人。
ダンスをするわけでもなく。
私を認識していないようでもなく……
憎悪に満ちた顔をこちらに向けてきていた。
また泥霊か……
近づいていって鞭で打ち払うと、避けた。
近くにいたダンス中の霊に抱き着いて締め上げ始める。
霊がくぐもった悲鳴を上げながらソレに吸収されていく。
吸い上げられている霊ごと鞭で攻撃。
ダメージの通りが、今までよりも悪い。
もっと霊気を込めて打ち付けていくと泥男が嫌がり
部屋の隅に近くの霊を複数喰らいながら逃げていく。
他の霊を吸い上げる泥霊か。
……この泥人、普通の個体じゃない。拘束する。
体に穴を空けてやるように高速鞭を振るう。
穴がいくつか空き、鞭を切り離そうとした時
泥男が黒く溶け地面に沈むようにして消えた。
気配を探るが、見当たらない…
霊たちはまるで何事もなかったかのようにまたダンスを再開。
12時ごろにダンスパーティーはお開きとなって私以外いなくなった。
戸締りを確認。リビングで休む。
心なしか、部屋の調度品が何か増えているような気がした。
眠りにつく前に壁に掛かっていた絵を見ると
壁に掛かっていた人物画の顔が泥男の顔つきに似ていているような気がした。
* * *
朝起きてマケンナの傀儡の体を拭くために、服を脱がせていく。
触っても反応無し、未だ休眠状態。
脱がせてみると、中々いいスタイル。
特に尻や脚が綺麗だった。
自慢では無いが私はスタイルは良い方だ。
そんな私が言うのだから彼女は自信を持っていい。
うむうむ。と頷きながら体を拭いてやって、服を戻す。
服もあまり無い様だから今度調達してもいいな。
いや傀儡に服など不要か? いや人形といれば着せ替え人形だしな…
アレコレ考えながら着替えて外に出る。
服だけじゃない。この建物、シャワーが無い。
傀儡にシャワーが必要かは分からなかったが、近くにジムがあったはずなので
会員登録できるか確認したい。今日はまずジムに行こう、うん。と
ジムに向けて白鳥通りを進んでいく。
そこで公衆電話のすぐ下に小動物を発見。
私を見て飛び跳ねているイタチがいた。
テンと呼ぶのだろうか。
頭から細い煌めく糸が生えて揺れていた。
このイタチと確かな繋がりを感じる。
もしかしてこのイタチ……
ジョンの傀儡?
スワンストリート:ゴールデンアワーが一日の間4時間以上も続く。
ソアヴェ・クラシコ:イタリアを代表する白ワイン、爽やかでフルーティ、ミネラル感も。




