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ダブルサイココライド2 ―Saga Of Hermitー  作者: KJK
15章 Harvest Moon 収穫する世界の悪意 
114/114

114話「Orca.Orca.Orcaー殺し屋鯨・Knights of Rebellion」

 


 ──明けない夜の街・Q


 >>ジョン・スミス(カー)


 襲いかかってきたタクシーの運転手が大破した車両の横で絶命。

 その運転手の頭の中から、黄色い霧が霧散しようとしていた。傀儡糸を伸ばして中を探ると、()()()食らいついた。


 カジキでも釣るように一気に引っ張り上げると、本当にカジキが飛び出してきた。──いや、カジキのような魔獣か。4mはあり驚異的な膂力で暴れ回る、傀儡糸を切って空中を高速で動いてこちらに向かってきた。状態を逸らし、避け、ハンカチから斧槍を出す。通り過ぎ方向転換するカジキに追いつき、腹を両断するように切り裂く。地面に落ちてビチビチと跳ねる。


「このまま三枚におろしてやろうか、暴れやがって⋯⋯」


 カジキにとどめを刺すと、背後に── 強大な霊気の気配。突然のことだった。


 瞬間、振り向くと──


 眼前に、巨大な拳。


 砲弾のような勢いで前に迫っている! それが顔に届くすれすれで躱し、斜め前に踏み込み、クロスカウンター気味に斧槍を差し込み、位置を入れ替える。肉を切り裂いた手応えはあった。


 ──すまんな、ニンゲン。チェックさせてもらおう。


「いきなりチェックメイトと言わないあたりは身の程をわきまえてるじゃないか」


 適当なことをいって返す。異形の顔面に斧槍の刃がつけたはずの傷を探すと、治癒され、痕跡が消える所だった。結構な速さで回復しやがった。この斧槍の、俺の霊気の斬撃を。ここまで素早く回復したのは、3Faith以来か? あれはほとんど反則みたいな奴だったけど。


 それにしても⋯⋯、この異形。


 前身が黒と白のゴムのようなものに覆われた巨人の異形が立っていた。灰色のシワだらけの外套。まるで皮付きの肉を加工して着ているようだった。底しれない霊気の密度、量。さっきの巨大カジキ並の体躯。ネフィリム並ともいえるが、霊重量が圧倒的に違う。ネフィリムがフライ級に思えるほどの圧倒的な格の差が、空気を媒介して伝わってくる。


「──チェックメイト? それはまだ学習してないな。──教えてくれ。Check Mate? 友を確認? それとも友人か確認? 仲間かを確かめる?」


 言いながら異形が首を傾げる。拳を異形の顔面に向かってノーモーションで振り抜いて、お返ししてやろうか、そう思案した時。

 瞬間で距離がなくなり、異形が拳を引いていた。つまり、拳を繰り出すために構え終わっていた。そう認識した時──巨大な拳が眼前にあった。デジャブかと思いながら、またかわす。次にそいつが躱した先、目の前に現れ、次に音が追いついた。大気が爆発したように震えた。その前に体ごとスリップさせるように拳を避け、距離を取ろうとすると、奴が口から何か吐き出した。シャボン玉のようなものが高速で、魚のように動いた、そう思った時。


 それが──大気の大爆発を起こした。


 霊気を練り上げ、鎧と盾のようにして身を守った。衝撃が付近の窓ガラスを同時に割り、信号機がひしゃげ、標識を吹き飛ばした。


「教えてほしいのか、戦いたいのか、どっちだ?」


「──別に。両方でも良かろう。まだまだ小手調べするかね? 言葉はあってるかね? ニンゲン。伝わればハッピーなのだがね⋯⋯」


 こいつ、人間の知識がないのか? 今、学習している最中だとか言わないでくれよ。


「小手調べと言うか、なんというか。とりあえず、俺の敵になるなら覚悟しろよ?」


「──うん、よかろう。覚悟が何か分からないがね。問題も、」


 ──なかろう。


 怪物が言った瞬間、風がブゥゥゥゥン! と叫んだ。


 音の鳴る前に、音より早く踏み込んできて裏拳を放ってきた。バックステップしながら拳をその手首ごと切り落とそうと斧槍を振る。手首半ばまで刃が入り、そこで力を込めた化け物の手首に逆に刃を破壊されそうになり、こちらも霊気を込めて爆発させ手首の先を爆ぜさせて、フォローするが、1秒で相手の手首が修復され、つながった。


 野郎、やはり回復力がずば抜けている。


 一瞬の応酬。 


「──おお、やるな。ニンゲン」


 異形が手首から先が無くなったほうの腕を、手を洗った後に水を切るような感じで振ってそれが言った。


「──こっちのセリフだよ。お前はなんだ?」


「⋯⋯なんだとは? 名乗れ、ということか?」


 それが首をかしげた。


「──どんな種だ、と聞きたいんだけど。俺の領土に、縄張りにズカズカと踏み込んできたんだ。自己紹介くらいはしたらどうだ?」


「ふむ、他者の領土に踏み込んだなら、挨拶はせず、殺し合うのが一般的と思った。ニンゲンは難しいな。面白いがね。昔海で出会ったときも、確かに挨拶めいたやり取りはあったかもしれん⋯⋯ 我らも挨拶くらいあるがね。仲間と、だがね⋯⋯」


「──海で出会った時?」


「改めまして。いや、ハジメマシテ? お目々にかかりまして? お初にお目にかかる。俺の名はなんだっただろう?」


「いや知らないけど⋯⋯」


 ーとりあえず。Orca.Orca.Orca.のSigma。Sigma・Stigmaだ。確かそんな名にしたと思う。ヨロシクな。⋯⋯では殺し合おうかね、ニンゲン。月面からの依頼だからな、仕方なかろう。


 そう言うと異形は灰色の外套の内側から、どこにそんなものを隠していたと言うほどに大きな砲塔を取り出してこちらへ向けた。



 ==


 *シグマ・スティグマ

 種:シグマ・ウェール

 勢力名: Orca.Orca.Orca.

 当主:シグマ

 運命のカード「力」「戦車」


 型: 怪人 

 サブ:海神 (海の加護)

 リヴァイアサンの呼吸 変身 金剛力 湧き出す霊気 縮地 超・波動気泡砲 泡の爆弾 波動ミサイル ロックオン 超・怪力


 力 = 自身の霊気、霊量、吸収、治癒、増幅、強化、収束、発散に大補正。身体能力大補正。霊的防護大補正。

 戦車= 倒した得物を装甲装備化。砲塔化。


 ==



「⋯⋯種を名乗れと言ったろうが、クソ野郎」


「⋯⋯種? 言わなかったかね? これは失礼。ただ、言ったと思うがね」


 フザケたやつめ。ていうか、その前に月面からの依頼だとか、聞き捨てならないセリフが聞こえたんだが。それに、オルカ、オルカ、オルカって。シャチ? 殺し屋クジラ⋯⋯。 こいつ、どういう存在だ? まさかシャチから進化した人型魔獣じゃないだろうな⋯⋯。ミュータントたちに近い存在か⋯⋯。


「なにやら思案している様子、だがこちらも仕事でね。つまり⋯⋯」


「⋯⋯つまり?」


ー溺れてもらおうか、人間(ニンゲン)







 @@@






 ──明けない夜の街・Q


 >>ジョン・スミス(ジョン・ドー人形)


 Qの街が燃えている。暴徒と化した異形の住民もその多くが殺され、かろうじて息するものは全て動けないほど負傷していた。橙色の灯りと冷たい風に混じる熱風が心地よく頬を撫でる。


 人間がQの住民に攻撃している。住民同士の諍いじゃない。騎士達が、攻撃をしている⋯⋯。


「⋯⋯まったく災難続きすぎるわ」


 フザケやがって。シンディに助けてもらって身体に戻ろうとしたら、傀儡の王が俺を傀儡化しようとして、それを逆に傀儡化してる最中に、3Faithの因子が埋め込まれてるのに気がついて⋯⋯、えー、どうなったんだっけ。ああ、そうだ。他の世界線の俺がやってきて身体を取ろうとしたのか。それを拒絶して逃げたが、この身体は前の俺の目的を遂行するようにも動こうとするから⋯⋯、もうめちゃくちゃだ⋯⋯。


 その上今度はQが襲われてるし。州都のWitchery領に言ってスケアクロウ戦の手伝いをしようとしてたのに。はぁ、なにも思い通りにならない。エレーニからの緊急連絡で舞い戻る羽目になった。マジで、勘弁してくれ。と運命に圧を掛けてやりたいが、そんなこと出来ない。


 出来るのは、この恩知らずの騎士どもの成敗くらいか。


「⋯⋯マジで、腹の虫の居所が悪いからな⋯⋯。本当に知らないぞ」


 隠形を使用。姿が透明になり、視認することも認識することも、記憶することも出来ない状態に。認識阻害も隠者の咎で十分だったが、手加減もしない。一方的に蹂躙し、膝をつかせてやる。


 口に咥えていた煙草に火をつけて、煙を肺に入れる。溜息をつくように煙を吐くと少し気が楽になる。秋頃の季節、気候だったが。炎上する車や、店で初夏のような生温かさがあった。


 この場にいる中で、もっとも濃い霊気漂う騎士の背後を取る。霊気を宿して、手刀を振り下ろそうとも、騎士は気づかない。意識を刈り取ると、それなりの抵抗があったが、霊気で圧を一気にかけると折れた。──傀儡化。結構高位の騎士らしい、馴染めば頼もしい傀儡になるだろうと思った。


「──何が起きている、何をしているか、言え」


「アア、ゥ、攻撃命令が⋯⋯ 」


「誰が出した。──対象は?」


「ウウ、⋯⋯ドレイク。武装発起の時が来た、と⋯⋯ ANKHに対し⋯⋯」


 そうだとは思ってたが、違う理由ならマシだったとも思った。


「──叫べ」


「UAWAAAAAAA!」


 ーどうした!? 


 続々とやってきた騎士たちの背後から、首を叩いて意識を刈り取っていく。電源を切って回ってるみたいだった。直感が働き避けようとするものもいたが、避けようとするだけで避けられない。それに避けさせもしない。速度が、精度が、技が、霊重量が圧倒的に違った。全て傀儡化するのに時間はかからなかった。


「高位騎士が8。⋯⋯悪くない、やっぱりこいつら強いな、ネフィリム並だ。──目的。ANKHに仇なすものどもを一掃しろ⋯⋯ ──自走モード。攻撃対象、ANKHの敵。常に組んで行動しろ。3・3・2で行動。最小単位は2。勝ちが怪しい場合は合流すること。目的不明になった場合、ANKHの幹部と合流し指示を仰げ」


「──”了解”」


 傀儡騎士達が同時に言った。


「──行け」


 瞳が虚ろになった傀儡達が、それぞれ一斉に飛び出していく。


「さて、どうなるかな。俺も自由には動けないし、それにもう一人の俺は⋯⋯、どうしてるんだか。いっとき屋敷内にいた気がするが、互いに認識出来てなかった気がするけど、その記憶事態怪しいし⋯⋯」


 溜め息をついて、街灯の下で煙草を吸った。もうすぐエレーニが来るはずだけど⋯⋯。


 しかし騎士団の裏切りか。悪い待遇ではなかったと思うけど。いや、かなりの高待遇でも結局は険悪になっていっただろう。ドレイクはそれを理解していたと思う。しかし十分な戦力を持ちながらも、保護されるだけで自ら版図拡大や、新たな土地を獲得しようとしなかったのが気になる。


 何故か。自信がなかったのか。それとも、他の理由か。


 最初奴らは、自分たちが()だと認定したものを攻撃し、領土を広げていったのかも知れない。それを繰り返そうとしたのか。しかし、ここで保護されていれば攻撃対象の悪が見つからない。見つかっても、既に戦争中のANKHやWitcheryの敵。今の騎士団では勝てない。


 成功体験を参照するように動こうとしたが、中々勝てそうな悪が見つからなかった。前のように自分たちが勝てそうな悪が、──みつからない⋯⋯。


 だが誰もいない土地を獲得するというノウハウが無かった? 発想自体がなかったのか? いや、もしかしたらその手のことは西方騎士団が担っていたのかも。いや、あったとしても。一方的に残りの人類の小さな集団の土地を探したりして戦って組み込むようなグループじゃないし、それをやれば俺達との仲もさらに険悪になったろう。あちらもそれを分かってる。


 やつらにとって身近な、現実的な悪は⋯⋯、攻撃対象は、──俺達しかいなかったのか。いや、一部のやつらにとっては、かも知れない。

 ルネーが信用しなかった理由が、なんとなく分かった。ルネーはシミュレーションの固有スキルを持っている、信用しないほうがいいと確信できるシミュレーション結果があったはず。俺の分析が外れていようが、こうなることが予知出来たんだろう。だから力を持たせなかった。


「⋯⋯エレーニが遅い。チッ、忘れてないだろうな、⋯⋯俺から行くか」


 不便すぎるわ、この力。などと苦い顔をしながらレストラン近くのANKHの屋敷に。


「⋯⋯さて、これは


 屋敷の入口が破壊されていた。木片とガラス片が地面に散らばっている。脚を踏み入れると、ガラス片がじゃりと不快な音を出した。

 エントランス付近の廊下に使用人型オートマタが、転がっているのが見えた。腕と上体が半壊している。屋敷の電気はついていない。


 屋敷内の霊気の動きがおかしい。殺気、闘争心、恐怖、怒り、絶望、緊張。複数の感情エネルギーが霊気に色をつけて混沌と漂う。気配察知がしづらい。獣臭がする。何かが、獣に堕ちた。


 進むと、エレー二が倒れていた。車椅子から投げ出されたような格好で、口から血を流して床に頬をついていた。一筋の涙の後が見えた。少し離れたところにアインもいた。血だらけで地面を這っていて、まだかろうじて生きていた。


「⋯⋯あ、ボ、ボス?」


「──アイン」


 ボロボロのアインが床で尻もちをついていた。片腕がない。その後ろに、血まみれの騎士剣を持った男が佇んでいた。これから剣を振り上げようかという中途半端なところで、腕が止まっていた。


「お前、ドレイクか⋯⋯」


「⋯⋯フシュゥゥゥ。ああ、ANKHの⋯⋯」


 犯行を目撃された殺人鬼のような、獣のような瞳。瞳孔が開き、何処を見ているのか、わからないようなほど焦点が交差せず、平行になって何処かを見ていた。これから己が行おうとしていることを見ているのかも知れなかった。獣の目であり、悪魔の目だった。光の反射でまるで瞳孔がヤギのように横に伸びているようにも見えた。


「──お前が犯人か、大人しく捕まる気はあるか? 生易しい扱いも罰も用意はできないが」


 白蓮を屋敷内に咲かせ始める。アインとエレーニを回復させたい。まだ、大丈夫。


「⋯⋯ああ。まだ生き残りがいたか、すっかり、忘れていた。⋯⋯ANKHの王。隠者か、いや傀儡師か? どっちだ? ああ、そうだ! 居るに決まっているのに、忘れていた! ハハハ、バカみたいだな。俺も焼きがまわったようだ。彼らは⋯⋯、まぁ、なかなかに手強かったが。作戦は概ね成功かと、思ったんだが。⋯⋯そうだな。こんなに、上手くいくはずも、ない⋯⋯か。フシュゥゥ」


 狂気の渦のような霊気を纏い、ドレイクが言った。湯気のように怒りとアドレナリンが全身から霊気に混じりあっている。


「”⋯⋯⋯⋯”」


 互いに沈黙する。別にもっと時間が過ぎても構わない、白蓮の回復が増すだけだからだ。


「⋯⋯”俺を、悪と思うか?”」


 同時にそう言って。ドレイクが笑った。


「──ハハハ、どちらでも良いだろう。いや、むしろ。俺は俺を悪と認定しよう。⋯⋯家族を守るために、だ」


 堕落、激情、快楽、解放、現実逃避、正当化。全てが混ざったような顔でドレイクが言った。


「──家族、お前の騎士団のことか。こんな真似しておいて、エゴを語るだけか? いい加減、殺すぞ」


「家族のために、罰すのだ!」


「ボス、こいつ話が通じない!」


 人じゃなくなったような声だった。ドレイクの顔つきから正気が完全に消え、アインが叫ぶように声を上げた。



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