手を離さない。
アリアはいつも通りカインの調合屋へ向かった。父に心配をかけたが数日すると魔力酔いは治った。
以前と変わらず元気な姿に父もユリヤも喜んだ。
「カインさん、話って何ですか?」
薬や植物の匂いが充満するいつもの調合屋。しかし話がある、と呼び出されたのは初めての事で少しばかり緊張する。
怠そうにカウンターの奥からカインがやって来る。
「短く話す。お前の仇はシルヴィアじゃない。」
咥え煙草もせず、至極真面目な表情で話すカインにどきり、とする。それも話の内容に背中が痛む錯覚が再び起きる。
カウンター前の椅子に促され大人しく座った。
「…どういう事ですか?」
間も無く隣国との争いは王の密勅で終わること。それに関わっているのはシルヴィアであることを説明する。
そして、アリアを刺したのはシルヴィアの双子の弟シルフィードということを告げられる。
「…じゃあ、私、…」
裏切られてなかったんだと、ぽつり頬を涙が伝った。
一つ流れ落ちたら次々と涙が溢れ出てくる。
そこへシャラン、と入り口の鈴が鳴り誰かの来店を知らせる。やって来たのは渦中のシルヴィアだ。
顔も隠さず髪も切り、覚悟を決めた表情で話し出す。
「アリア、ずっと会いたかった。」
聞き覚えのある声。
振り向いた先には仇と思っていた愛しい人。アリアは更に涙を溢れさせた。
「…シヴァさんっ…!」
シルヴィアが真っ直ぐ近づいて手を引っ張る。座っていたアリアはよろけながらシルヴィアに抱き止められた。
耳元で囁き話す。
「三年も無駄にしてしまった。本当にすまない。」
うん、うん、と頷くのが精一杯でアリアはシルヴィアの肩に涙の染みをつくった。
二人の様子をやれやれと見ていると店にこっそり入って来たユリヤが悔しそうにカインをどついた。
ただの八つ当たりだ。
「ずっと、会いたかった。忘れた日など一度だってなかった。」
アリアの後頭部を撫で髪にキスを落とす。
会えなかった分、この再会は二人にとって奇跡のような瞬間であった。
「裏切られたって…ずっと思ってた…。」
苦しいほど互いを抱きしめ合い存在する事実を確認する。
普通とは、何を指して言うのでしょう。
彼女は口癖のように自分は普通と言っていた。
自分の背中は自分で見えないもの。
見えすぎる彼には最初から彼女はよく見えていた。
〝水の女神〟
確かにステータスは普通であったが努力値で他を凌駕した。本当に努力だけでそんな事が可能であろうか。
ただ、彼にはそんなもの関係などなかった。
惹かれ合うのに理由はないのだ。
「もう二度とこの手を離さない。」
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