第一章 人間の終わり 05
病室に戻る途中の誰もいないナースステーションで、テレビが勝手に喋っている。
「本日の死者も一万人を越えました。日本で一日の死者が前日を上回るのは、これで五十三日目です。世界では2022年の七十九億人をピークに年々減少、今世界の人口は五十五億人となりました」
可愛い顔をした女性のアナウンサーは沈痛な面持ちで喋る。世界でも大勢の方がお亡くなりになっているという。ある国では火葬が間に合わずに土葬にしている。それも、ただ穴を掘ってまとめて埋めているだけだとか。有害ワクチンに犯された遺体を埋めることは環境に影響を与えるのではないかとの懸念が生じている、らしい。
深刻な表情で締めくくると女子アナは、ころっと明るい笑顔を浮かべ地球環境改善のニュースを読み上げて、スタジオに座っている専門家という人に振る。
専門家は眼鏡の位置を直すとパネルを指さしながら、
「えーと、ここですね。今後十五年の予測値です。十五年で全人口の九十五%、つまり、誤って生理食塩水とか打ったり、虚偽接種をした人、あと国によっては五歳から接種でしたので、未接種の子ども以外、つまり、ワクチンを複数回接種したかた全てがお亡くなりになるわけです。そこで、多く見積もっても、地球の人口は約四億人にまで減少します。この表が、人口推移と、温室効果ガス排出量をグラフ化したもの。急激な地球環境の改善がもたらされています。十年前の研究では、2040年には不可逆的なクライメイト・チェンジによって、食糧難、グローバルウォーミングによる疫病の発生、海抜の上昇、などなど地球はもう人類が住めなくなるのではないか、そんな予測まであったんですね」
なるほど。とアナウンサーは深く頷く。
専門家はさらに熱を込めて、
「ずっと以前から、地球環境の悪化は叫ばれていました。それでも、CO2の排出量は減るどころか増えていましたからね。わたしを含め、多くの研究者がもう手遅れだと思っていました。当時のわたしのコラムを読んでもらえれば分かりますが、わたしはその中で、地球の人口が二十分の一になる以外、地球を救う道はない、とまで書いています。もちろん、当時、地球の人口が本当に二十分の一になってしまうなんて夢想だにしませんでした。それどころか、2050年には九十七億人と予測されていました。しかし、現実はこの表の通り、人口は激減し、地球環境は急速に改善するはずです。まさに、奇跡が起こったと言っても過言ではないんですね」
「本当に最近、なんか空気が美味しくなったなって、感じますよね」
などと、にこやかな受け答えをしていた女子アナだったが、一枚の紙が差し入れられるやいなや、俄に真顔となり、
「ただいま、番組の中で不適切な発言がありました。深くお詫び申し上げます」
深々と頭を下げる。女子アナを映していたカメラが引き、スタジオの全景が映るとすぐにCMに変わった。ただ、それがいつものやり方だとしても、カメラを引いたのは間違いだった。頭を下げるアナウンサーの隣でニヤニヤしていた専門家を視聴者は見逃さないだろう。
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