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殺業師  作者: 瑛(えい)
1/2

(一)

業と戦うもの、そこには悲劇しか存在しない。

 あたりに夜がおとずれると、山あいの集落がすこし騒がしくなった。

「まだ帰ってこないのか?」

 隙間風の吹き込む家屋の中で、中年の農夫が不安な様子で大きな声を上げた。

「夕方には帰ってくると言っていたんですけど・・・」

 妻らしき女性は視線が定まらない様子で答える。

「ちょっと様子を見てくる。お前は家から出るな」

 農夫はたいまつに火をつけると、暗闇へ飛び出した。

 集落の間を続く細い土の道は、ところどころぬかるんでいる。

「イジカ!イジカ!」

 叫びながら小走りで先を急ぐ農夫は、馬車のわだちに足を取られ倒れこんだ。

 道沿いの家の板戸が開き明かりが漏れる。

「こんな時間にどうした?」

 顔をのぞかせた女が声をかける。

「娘が、イジカがまだ帰ってこないんです」

「なんだって!? 業が来るよ。業が」

 農夫はその言葉を聞き、慌てて立ち上がった。

 集落の外れまで来ると、呼吸音以外は何も聞こえなかった。森の方向に火を向けると、かすかな叫び声が耳をかすめた。

「イジカ…?」

 必死にたいまつを左右に振る。森の暗がりに淡い青色が揺れるのが見えた。

「イジカか?」

 草をかき分け森に足を踏み入れると、たいまつの光が届くちょうど端のあたりで、若い女が白目をむき、口から泡を吹いている。

「イジカ!」

 農夫は駆け寄り女の身体を抱き上げる。女はすでに意識はなく、ただ小さなうめき声をあげていた。強く抱きしめ続ける背後から二メートルほどの黒い影がゆらりと近づき、農夫の身体を侵していった。

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