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序章

「うぅ…っ、…はぁ…はぁ…。」

 政宗は右目の奥を衝くような鋭い痛みに、その場所を眼帯の上から抑えた。抑えたところで痛みが緩和されるわけでもなく、右目の奥で何かが激しくうごめいているような痛みが政宗の身体を蝕む。

 部屋の中は暗く閉ざされており、昼間であっても灯りを通さない。






「…――政宗様、」

「…はぁ…、はぁ…。」

「お加減いかがでしょうか。」

「…はぁ、…悪い、小十郎…。…水を持ってきてくれ…。」

「はっ。………あの、政宗様…。…それと、愛姫(めごひめ)様が聚楽第(じゅらくてい)よりお越しであります。」

「…は?」



「……病に伏しているというのは本当の様じゃな。」



 薄暗い部屋に、廊下から可愛らしくも冷や冷やとした声がかかった。政宗の妻、愛姫(めごひめ)だ。


「…なんで…っ。」

「そなたが伏していると聞いて、会い参ったのじゃ。…伊達家の当主ともあろうものが、情けない。」

「…五月蠅い…。わざわざ嫌味を言いに来たのかよ…。」

「そなたが倒れてしまっては(わらわ)も困るからな。せいぜい死ぬでないぞ。」

「っ、秀吉様に疑われたらどうするっ!早く京へ帰れっ!」

「……わざわざ遠路ここまで来たというのに、大層な挨拶じゃな。…心配せずともひと月ほどで帰る予定じゃ。…ではな。」

「…はぁっ。…くそっ…。」

 布擦れ音が遠のく。政宗は再び目元を抑えながら、暗闇の中項垂れた。





















◇◇◇◇

「――…報酬は積もう。儂とて簡単にいく相手ではないとは分かっておるからな。」

「どんぐらい出せるんだ?そんじゃそこらの金額じゃ、話にもならねぇぜ?」

「あぁ。分かっておる。」


 肥前国(ひぜんのくに)の旅籠屋に、男二人が人気を忍んで会っていた。一人は恰幅の良い40~50代の男、そしてもう一人は、作務衣の様な忍装束を身にまとった、鼠色の短髪に襟足だけを伸ばした、すらりと引き締まった体躯の男だ。


「だが、お主がこの依頼を完遂できるかも分からん。とりあえず、報酬の半分を先に渡し、残りはあ奴らが死んだ後だ。」

「へーへー。武将様は用心深いなぁ。」

「お前はあ奴らを知らんからそういうことが言えるのだ。あ奴らは化け物みたいに強い。あぁ、もう一人は本物の化け物だがな…。姫の真似事などしおって…、はっ滑稽なっ。」

「…へぇ。ま、俺は仕事をこなすだけだし。…で?どっちから殺れば良い?」

「どちらでも構わん。お前に任せる。」

「…んじゃ、俺は行くぜ?金、忘れんなよ?」

 そう言って短髪の男はシュッと瞬時に姿を消した。一人残された男は自身の刀を握りしめる。


「…儂のことを虚仮(こけ)にしよって…。」

 三つ葉葵の門の入った刀の柄が、ミシっと悲鳴を上げた。




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