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28話 三つ巴?(2)

 

 ――空間のひずみからぼんやりと見えてくる、滅紫(けしむらさき)狩衣(かりぎぬ)に濡羽色の長髪。




「久しいな。天狗どもよ。」

阿部吉明(あべのよしあきら)っ!!」



 姿を現した吉明(よしあきら)とその弟子の藤四郎に、太郎坊が羽根を大きく広げ、勢いよく小刀で襲い掛かった。それを吉明はにやりと笑いながら自前の刀で難なく防ぐ。妖力とチャクラがぶつかり合い、空気が揺れる。




(なんで、よりにもよって今、ここに集まっちゃうのっ!?)



 敵対している徳川と大谷(真田)、徳川と妖、そして陰陽師と妖。どことどこがいがみ合っているのか分からないほど集まった組み合わせが悪すぎる。徳川家康や民衆にどう説明すればいいのか分からないのに、こんな所で陰陽師と妖の戦闘が始まれば妖の印象が余計悪くなるのは明らかだ。

 


「なんだ、友よ。喜びが激しすぎるぞ?」




「あぁ!?」

「た、太郎坊落ち着こう!ねっ!?」

 なんとか佐助が太郎坊を吉明から引きはがすが、急な戦闘に人々の怯える視線はすさまじい。今まで以上に恐れた表情で徳らのいる場所を見つめている。そんな周りの様子を吉明は一瞥すると、急にいつものにやけ面を人の良い笑顔へ変えた。



「皆よ。怯えることもない。この妖は私の友人だ。」

「「はぁ!?」」

「はい!?」

 急に叫びだした吉明に、太郎坊と二郎坊、そしてなぜだか藤四郎までもが目を剥いて怒りを表した。しかし、当の吉明は気にしない。


「こ奴らは私の古くからの友人なのだ。気性は荒いが恐ろしい奴らではない。安心するがよい。…あぁ、それと、私らはこの地に地鳴りの原因を調査しに来たのだが、妖の仕業ではなかった。この陰陽師筆頭の私が言うのだから間違えない。…いやはや、このような地で友に出会うとは、人生何が起きるか分からぬなぁ…。」

 (しゃく)で口元を隠しながらいけしゃあしゃあと語る吉明に、徳は開いた口がふさがらない。


「いや…、だが、しかしながら吉明殿…。」

「なんだ?私の調べが不十分とでも言いたいか?家康殿…?」

「…いえ…、そういう訳では…。しかし、あなたは妖退治専門であろう…?妖と交友関係を持つなど…。」

「人に悪さをしている妖なら容赦なく滅しよう。しかし、何もせずただ生きている妖を退治するなど、虐殺に近いと思わぬか?徳川殿?」




(――どの口が言ってんだ、どの口がっ!!)




 徳の目の前に立っている太郎坊と二郎坊は、目を引ん剝いて「何言ってんだ、こいつ!」という顔で青筋を立てている。佐助と信繁は白けた目で吉明を見つめていた。

 しかし、吉明の発言は、目的が分からないが、徳らにしたら有難いものでしかない。妖と相対する陰陽師である吉明の発言は人間には効果てきめんで、人々の視線は戸惑い交じりではあるが、先ほどよりも畏怖していないのが明らかだった。


「それに、徳川殿はご存じであろう。私と徳姫が旧知の仲だということは。」

「…それは…。」

「私が徳姫の妖力に気づかぬまま交友を持っていると思うてか?…陰陽師の力を舐めぬ方がよい…。そんなこと遠の昔に知ってのこと。それでも私らは良い関係を保っているのだ。」


(……良い関係、とは…?)


 猫の姿で静かにしていた(りん)が遂にシャーッ!と牙を見せた。

 徳は吉明の発言が理解できず、目線の先に居た佐助に視線を送るが、首を左右に振る佐助の『今は何も言うべからず。』という無言の訴えに、不本意ながら従った。横に立っている信繁は表情が読めない。


「…それに、徳姫ほどの妖力を持って人に友好的というのは、我々人間にとっては感謝すべきものであると思うが?」

「…?」

「…それは…、どういうことで…?」

「皆も分かっておるだろう?今、我々の命を救えるのはこの妖たちだけだということを…。…丁度、巨大な妖力を持つ大谷の姫君と、噴火を止めることができる山の妖がここに居るのだ。――…妖は人に危害を加えるだけではない、…そうであろう?」

「…!?」


 (しゃく)で口元を隠していても、人の良い笑顔から、いつもの様なニヤついた笑顔に変わったのが分かった。

 徳はやっと吉明が助け船を出しているのだということに気が付く。




(…こいつ…、本当に何を考えてるの…?)


 徳は、この名護屋で再会した吉明の様子を思い出す。



(…理由は分からないけど…。)


 情報をくれたり、一緒に鈴を探したりと、この名護屋で出会ってから吉明は何かと協力的だ。その横にいる藤四郎は相変わらず敵対心むき出しの強い目で見てきてはいるが…。



「…言ったはずだ。俺は徳を危険にさらしてまで、人間を助けようとは…。」

「やろう!太郎坊!」

「はぁ!?お前馬鹿か?無謀なのもいい加減にしろっ!」

「大丈夫!自分のことは自分で守るからっ!」

「どうやってだよ。」

「なんか大丈夫な気がする!」

「気がするで連れていけるわけないだろう馬鹿野郎っ!」


 吉明がなぜこんなに協力的なのかは不明だが、人々が妖に対して好意的になるチャンスかもしれない。徳は人々の顔色を伺う。期待と不安の入り混じっている顔だ。妖に対して恐怖のみを浮かべていた表情とは全然違う。





「と…、徳姫様…。」


 か細い声に視線を送ると、鈴が自身の両手を握りしめながら心配そうな表情を浮かべていた。

 信繁や鈴との関係についてなど考えなくてはならないことはたくさんあるが、今は生き伸びることが最優先だ。


「鈴ちゃん、ここで待っててね。」

「い、嫌です!徳姫様…、行かないでください…!」

「…大丈夫…、絶対戻ってくるから…。噴火が収まったら、話したいことがあるんだ…。聞いてくれる?」

「…っ。」

「いや、だから、俺はやるって言ってないぞ!」

 涙を浮かべながら徳を見つめる鈴は、まさにヒロインのそれだ。見つめられる相手が自身というのが徳はそれでいいのかと思ってしまうが。







「俺が姫を守ろう。」




「…!?の…信繁様…?」

「俺が姫と共に火口まで行く。」

 危なくなった時はどうやって自分を守ろうかと、体内の妖力に集中させていた徳の意識を、凛とした声が引き戻した。今彼はなんと言っていたか…――


「いや、だから俺はやらないって…――」

「…信繁様まで巻き込めません!」

「巻き込むも何も、ここに居ても噴火に巻き込まれる可能性が高いんだ。どこに居ようと危険だろう。」

「いや、だから…――」

「そうですけど、わざわざ火口まで行かなくてもいいじゃないですかっ!ここで待っててください!」

「俺がここに居るなら、姫もここに居ろ。姫が噴火を止めに行くなら俺も行く。」

「なっ、何言ってるんですかっ!?…佐助さんも、信繁様を止めてください!」

 太郎坊が何かを言っている気がするが徳には聞こえない。それよりも、ともに火口へ向かおうとする信繁に徳はうろたえてしまう。そしてその従者は肩を落としてあきらめの様子が見受けられ、それがさらに徳を焦らせた。


「んー…、俺としては出来れば止めたいよ?止めたいけどさ、だって主様、姫さんのことになると梃子(てこ)でも動かないの知ってんだもん…。俺も行きたいけど、俺が行くと足手まといになるのは目に見えてるし…。火砕流とか溶岩流なら主様が自分自身のこと守れるのは知ってる。それが一人から二人を守るぐらい俺の主様なら問題ない。それならここで主様の結界が崩れないように俺は俺の仕事するしかない…。そうでしょ?主様。」

「流石、佐助。良く分かっているじゃないか。…で?姫はどうするんだ?行くのか?行かないのか?」

「…おい、俺が噴火を静めるのに、俺の意見は無視か?」







(…信繁様はこの小説のヒーローでしょ…?いや、ヒーローだからこういう性格なの…?…わざわざ危ない道に飛び込むだなんて…。っていうか、佐助さんも佐助さんで自分の主が危険な場所に行こうとしているのになんで止めないの…?)

 自分のことは棚に上げて、そんなことでいいのかと徳は頭を悩ませる。真田主従の二人を交互に見つめるが、二人とも意志の強い瞳で自身を見つめ返すだけで何を考えているのか分からない。













「騙されるなっ!!」



 人々が希望を持ちながら徳らの会話を静かに見守っているその場で、焦ったような皺枯れた声が響いた。




長くなっちゃったので区切ります。

変な切り方になってすいません...。

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