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23話 囚われの姫というキャラではない

「…ん…、…あれ…?」


 目を覚ますと、埃と枯草の匂いが徳の鼻腔を刺激した。徳は薄暗い空間を見渡す。どこか納屋の様な場所だろうか。窓はなく、壁に空いた木の隙間から差し込む光によって、まだ夜ではないことが分かる。そこまでお腹もすいていないため、意識を失った日と同日であろう。

 身体を起こそうにも手足が縛られており、起き上がりづらい。しかし、そこは身体能力の高い徳だ。後ろで手を縛られていても腹筋を使って起き上がった。動くとズキンと頭が痛む。



「…絶対許さん。あの狸(じじ)い…。」

 徳川家康が徳をここに閉じ込めたのかは不明だが、心当たりがある人物と言えば家康しかいない。徳は思わずつぶやいたが、その声に反応するかのように、小屋の外から男の声が聞こえた。


「――起きたか。」

「…っ!…誰ですか…?」

「その問いに答えると?」

「…はいはい。…で、誰だか知りませんが、私に何の用ですかー?」

 聞こえた声に初めこそ緊張したが、ただでさえ腹が立っていた徳だ。相手の反応にイラっとし、心の中で舌打ちをして投げやりに質問する。すると、徳の反応が想像していた囚われの姫とは違ったため、戸惑ったのだろうか。やや時間をおいて返事が来た。


「…あ、あんたにはしばらくの間ここで身を隠してもらえればいい。」

「はい?」

「その間にあんたの婚約は破棄され、真田信繁と鈴という女子の婚姻が結ばれる。」

「…。」

 どういうことかは分からないが、やはり自身を攫ったのは徳川家康だということだけは分かった。しかし、攫うにしても、もっと良い場所があったであろう。仮にも徳は一国の姫だ。


「…なに?私が信繁様と鈴ちゃんの婚姻を邪魔するとでも思ったわけ?」

「…。」

 何も答えない相手に余計に徳はイライラする。

「…こんなことしなくても婚約破棄だってしたって―の!」

 全く、どんな悪女だと思われているのだろうか。徳自身、初めのうちは婚約破棄せずに信繁と鈴の恋を成就させようとしていた。しかしその考えを改め、自ら婚約破棄しようとしていたのだ。これでは攫われ損だ。

 徳はボスっと背後に積まれていた藁の山に背を預ける。


「…婚約破棄…、したってーの…。」


 家康がどういった計画を立てているのか分からないが、今頃信繁と鈴は思いが通じ合っているのだろう。喜ばしいことだ。――それと対比して、徳は自身の状況が悲しくなってきた。


(…私が何をしたっていうのよ…。)


 婚約破棄せずに、鈴の恋を応援したのが悪かったのだろうか。それとも、気持ちを隠したとしても、そもそも信繁に対して特別な気持ちを持ってしまったこと自体いけなかったのだろうか――。




「…はぁ…。」












――――ドーーーーンッ!!




「うわぁ!」

「…っ!?」


 突如大きな音と共に地面が激しく揺れた。


「え…!?な、なに…?地震…?」

「…っ!」


 徳の声に応えず、外に居た人物が走り去っていく足音が聞こえる。

「え?…ちょっ!ちょっと!?」

 揺れは収まらず、再び大きく地面が揺れた。天井から砂埃なのか木屑なの分からないが、さらさらとしたものが落ちてくる。小屋の周りに人の気配はなく、遠くで悲鳴と怒号が聞こえる。



――ちょっと、嘘でしょっ!?ここから出してからどっかに消えてよっ!!!!



















◇◇◇◇◇


『たっ!大変だーー!!!』



 大谷陣屋の屋敷内で甲高い小さな叫び声が響いた。


「あれまぁ。どうしたの?毛玉鬼。」

 その小さな声に反応したのは、洗濯物を干そうと庭に出ていた志野だ。

 小さな黒い毛の塊のような身体に、角が一つと大きな目が一つ。テニスボール程のサイズの毛玉がものすごい勢いで転がり、志野の前で止まる。止まった毛玉はポンっと跳ね、出てきた小さな手足で仁王立ちになり志野を仰ぎ見た。


『徳姫様が襲われた!おれ見た!徳姫様どっか連れていかれた!!』


 口は無いが声が頭に響く。その声を聴いた途端、志野は持っていた洗濯物を落とし、車輪姿の(りん)がものすごい勢いで現れた。



ドロンッ



「…その話、詳しく聞かせろ。」

 人型になった(りん)の形相は鋭い。睨まれた毛玉鬼は一瞬たじろぎ、(りん)を見上げる。


『――城下町の前の畦道だ。その道で徳姫様を見かけておれ、徳姫様に声をかけようと追いかけたんだ、…そしたら…――』























◇◇◇◇◇◇◇


「…じゃあ、鈴、本当にそれでいいんだな。」

「はい…。私の気持ちに変わりはありません…。」

「…はぁ。分かった…。」

 



 真田陣屋の一室では、信繁と鈴が向かい合って座っていた。その表情はいつになく真剣だったが、信繁のため息とともに和らぐ。

 信繁と鈴は朝からずっと話し合っていた。もう日は真上に上っている。

 随分長い間話をしていたが、鈴との話はまとまった。次は佐助も交えて話をしようと信繁が立ち上がったその時だ。

 



――突如、頭上に強い妖力を感じた。




 妖力の発生源である天井付近から炎が現れ、その炎が円を描いて轟々と渦巻き、信繁と鈴に熱波を浴びせる。


「きゃっ…!」

「…っ!?」







「――失礼する。」





 その渦の中から現れたのは、信繁にとっては見覚えのある男。予想はしていたが、はやり火車(かしゃ)(りん)だった。


「…あ…、」

 しかし、鈴にとっては初めて見る男、否。妖だ。しかもこのように妖力を撒いて現れては、恐怖でしかないだろう。目を見開いてプルプルと震えている。


「主様っ!!」

 スパーンと大きな音を立て、佐助が部屋の中に入ってきた。

「――へ?(りん)…?」

「…(りん)、妖力は仕舞え。一般人が居る。」

「…ん?あぁ。悪かった、女子。…居たのか。」

「…え、あ…。」

 (りん)が妖力をしまうと、やっと満足に息が出来たのだろう。鈴は肩で息をしながらも、怯えた瞳で(りん)から目を離さない。佐助が静かに鈴の背をさする。

「いや…、何ごとかと思ったんだけど…。」

「どうした?人間が居るのも確認しないで現れるなんて。」

 他人に見つからないようにしていた大谷陣屋の妖たちだ。このように現れるなんて珍しい。







「重大事だ。徳姫様が攫われた。共に探せ、真田信繁。」



「…っ!?」

「は?」

「え!?」


 三者三様で驚いた瞬間――






――――ドーーーーンッ!!


 轟音と共に大きく地面が揺れる。

「…!」

「うわぁ!え!?何、地震…!?」

「きゃぁ!」








「…チッ、こんな時に…。」

 (りん)が外を睨んで呟いた。

 揺れはおさまったが、屋敷がぎしぎしと揺れ、屋根にパラパラと何かが当たっている音が聞こえる。

 そしてどこか硫黄臭い――




「山が目覚めた。」

「…は?」







「――噴火だ。」

 (りん)が忌々しそうに答えた。

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