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33話 甲賀忍者と伊賀忍者

 山に入る直前、空高く登る火柱を信繁と忍三人は目撃する。


「!?」

「何だありゃ…。」

「…ただの火事とかじゃ無いのは確かだよね…。」

「…行ってみよう。」


 森の中へ入ると静寂さが際立つ。虫や動物達も鳴き声ひとつ発さず身を隠している。その理由としては一つしかない。


「…徳様…。」


 戦慣れしている4人はその理由にすぐに気づき、木と木を飛ぶように走るスピードは更に上がる。思わず呟いた千代の声だけが森に染み入った。




 森を進むにつれ煙の匂いが強くなり視界も悪くなる。

「…近いな。」






バチバチッ

ゴオォォォォオオ


何かがけたたましく燃える音がする。


開けたその地へ4人が着地すると、そこにはすでに先客がいた。




「あれ?これはこれは。またお会いしましたね、屋敷の主人殿。」

「…そこで何をしている?」

「見て分かりませんか?木を燃やしているんですよ。…この木は邪悪な妖の源とも言える神木でしてね。…根絶やしにしなくてはいけないのです。」

「邪悪?」

「えぇ。奴らは害虫です。私達が駆除しなくてはならないのです…

―――所で、あなた方はなぜこちらに?」

 燃え盛る神木をうっとりと眺めていた藤四郎が4人を振り返った。その笑みの、瞳は笑っていない。


 その時だ。森の奥で爆音とともに竜巻が複数現れた。




「おいおい、今度は何だぁ?」

 大きな妖力の波が信繁らのところにも届く。しかし、その妖力の中に馴染みの気配が微かに混じっていることに気づく。

「っ徳様!?」

「…。」

「やはり、あなた方は妖と手を組んだ罪深い方々だったのですね…。あぁ、あなた方の発言を信じた私が間違いでした…。」

 そう芝居じみながら呟く藤四郎は不気味で、空虚な目には憎しみが込められている。




「…なんか、こいつの言ってることはよく分かんねぇけどよ、あんたら行ってこいよ。」

「…どうしたの?伊賀の忍さん。頭でも打ったのかい?」

「そうだぞ!お前一人にここを任せるなど、誰が信用できるか!?」

 才蔵の申し出に猿飛兄妹が反論した。


「ぁあ?うるせぇよ…。…一宿一飯どころか長居しちまったからな、…ただ単にその礼だ。…俺の気が変わらねぇうちに頼むぜ。」

 才蔵は藤四郎を見やったまま答えるため、表情が読めない。

 そうこうするうちに力の波は強く吹き荒れる。



「――分かった。才蔵。お前に任せよう。」



「はぁ!?嘘だろ!正気!?」

「時間がない。こんな所で足止まっているのがもったいない。俺は先に行くぞ。」

「ちょ、ちょっと待ってよ!…分かった、じゃあ俺も残る!――千代、千代の主人と、俺の主人、二人とも、頼んでいい?…出来るね?」

「っ!…(しか)と招致いたしました!」

「……佐助、才蔵、頼んだぞ。」


 そう言うと、瞬時に信繁と千代は姿が見えなくなる。




「はぁ…姫さんが絡むとほんと厄介…。…さーて、この自分の正義感に浸っている思い込みの激しいボクをどうしようか?」

「ぁあ?餓鬼だろうと容赦しねぇよ。」

「ふん!僕の仕事はこの木を燃やし尽くすこと。それさえできれば僕が死んでも吉明(よしあきら)さんにとってはどうってことないんだよ。」

「あっそ。そちらの都合はどうでもいいよ。」

 言うと同時に佐助は素早く動き藤四郎の背後をとった。藤四郎も弓を弾こうと矢筒に手を伸ばしたが、スピードの差は歴然だ。藤四郎が矢に触れる前に佐助のげんこつが盛大に落ちた。


「うっ!」

 その直後に首へ手刀が入り、藤四郎は膝が折れ地面へと突っ伏す。完全に伸びている藤四郎を佐助は忍術で念入りに縄をかけ、動けないようにした。それを一歩も動くことなく見ていた才蔵は頬がひきつっている。


「…おい、気絶させるだけにしては、おめぇもだいぶ容赦ないな…。」

「当たり前だよ。死にたがってるのか分かんないけど、こんな奴に時間差いてる暇ない。早く主様のところへ向かわなきゃ。」

「……気絶させるだけいいのか?」

「…この子の発言は少し偏ってるけど、妖を敵視しちゃうっていうのは、人間皆そうじゃない?おれもついこの間まで妖に良い印象なかったし…。でも、だいぶ頭が逝ってたからね。つい殴っちゃった。」

「…。」


 飄々と話し、柔らかな印象のある佐助だが、『夜鬼の佐助』と言われただけはあって容赦がない。やはり才蔵はなぜ佐助ほどの忍がのんびりと信繁に仕え、それを本人も甘んじているのか疑問に思ってしまう。佐助にはもっと自分の実力を発揮できるところがあるのではないか。




「…おい、」




 才蔵が声をかけた瞬間、衝撃音と共に大きな力の波が一層強く押し寄せた。

「うお!?」

「…!…早く合流しよう。」


 そうつぶやき佐助が印を素早く結ぶと、水の龍が現れ、大木をとぐろを巻くように包み込む。普通の炎であればそれで鎮火できるはずが、一向に炎が鎮まる様子がない。


「…何か術でもかけられてる…?」


 呪術と忍術がぶつかり合う。


「――おいおい、俺が残った意味がなくなっちまうだろ…。」

 そう言い放つと佐助の横で才蔵も印を結ぶ。すると佐助と全く同じ水龍を作り出した。


「…。」

「は!俺がお前に負けてそのままでいるわけがねぇだろ。あの()りあった後何度も練習したぜ…!どうだ!うまく盗んだだろ!」

 そう言うと水龍を神木へぶつけ、佐助の鎮火を援護する。蒸気が上がり、少しずつ炎が収まりだした。

「……あんた、本当に強くなりたいだけのバカだったんだね…。」

「あぁ!?このっ猿!なんか言ったか!?」


 才蔵が怒鳴り散らすも、佐助はどこか楽しそうに小さく笑い、蒸気を上げる神木を眺め、何かを唱えた。






ドゴォーーーー!


「…っ!?」





 すると佐助の水龍が九頭(くず)大蛇(おろち)となり、神木を飲み込むように動く。それと同時に神木が盛大に光った。輝きだした神木の中から札が何枚も浮き出てくる。


「あれか。」


 佐助はつぶやくと左手を前に出し、空を握り潰す。すると大木を囲むように浮き出たすべての札が燃え灰となる。






「……は?」


 札が燃え尽きるのと同時に神木の炎がきらきらと消える。

 佐助は炎が消えたのを確認すると九頭(くず)大蛇(おろち)を消失させた。残るは才蔵の水龍だけだが、一拍置いて、水龍も大量の水蒸気となって消えていく。




「強くなるには、分析して考えることも必要なんだよ。才蔵君。」

 にやりと笑った佐助はトントンと自身の頭を指で突く。


「お、おめぇ、俺と戦ってるとき手ぇ抜いてやがったなっ!?」

「しょうがないだろ。主様が殺すなっていうんだから。」

「なっ!」

(…ありえん!こんな強ぇ奴が、力を出し切らずに飯作って猫と遊ぶだけの生活してるなんて…っ!!!)



 才蔵は衝撃となぜか悔しさを感じ、佐助の主人、信繁を思い出す。







『――分かった。才蔵。お前に任せよう。』

『…佐助、才蔵、頼んだぞ。』





 出会って間もない。むしろ、最悪の出会いをした他所の忍に対し、本心かは分からないが信用して任せるような発言をする、何を考えているのか分からない人物。



「ぁぁあああああっ!おめぇら、本、当、に訳わかんないわ!ほんと、調子狂うわ!」

「は?うるさいよ。」


 才蔵は頭をくしゃくしゃと掻き乱し、佐助を睨む。なんの不満もなさそうに信繁に仕えている佐助。





「――…でも、あんた、任されて嫌な気はしなかっただろ?」

「っ!?」


 才蔵の考えをまるで見透かしているような発言をする佐助に、才蔵の心臓が一瞬だけ大きく鳴った。




「…知らねぇ。俺には関係ねぇことだ。」

「そうだね。」



 忍二人はその後何も発さず信繁らの後を追った。


 残された神木は大半が燃え尽きているが、朽ちてはいない。それを自ら示すように幹や枝がどくどくと拍動し、拍動と共に生じた光の波が根の先までもを灯していた。


 



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