発見
30分ほど歩いただろうか、周りの景色が若干の変化を見せ始める。常時の緊張を伴う行動は予想以上にその行軍スピードを遅らせていた。
「光……」
所々に差し込む光ではない。それは前方、俺たちの進行方向から届いていた。
俺たちは無意識の内に足の回転を早めていた。
数軒の家が建っていた。家はその全てが木造であり、その一つ一つに迫力を感じられた。そう、そこには……
────村があった
俺たちは村の中でも一際大きな家の中でひとまずの休息をとっていた。この家は、村では唯一の二階建ての建物であり、おそらくは元々村の有力者の家でったのだろう。
また、家の中は少し入り組んだ作りになっており、万が一他の小隊と戦闘を行うことになったとしても十分こちらに有利に戦えるものとなっていた。
ただ、この家を使うためのリスクというものなのか、家の所々にはペイント地雷等の罠が張ってあり、決して安心してばかりいられるものでないのも確かであった。
「俺、ちょっと探検してくるからみんなはまだ休んでていいよ」
休息を始めて10分ほど経った頃であろうか、零は突然立ち上がると一言断りをいれて、その場を動いた。零は上手く誤魔化したつもりであったろうが、声はともかく一瞬見えたその顔には好奇心に溢れた無邪気な子どもの顔があった。
「やっぱり男の子ね」
そうつぶやいたのはまるで子どもを見るお母さんのような顔をした夜空であった。
「まぁ子どもだからね」
それに答える隼人の顔は弟を見守る兄のものである。
森の移動で心身共に消耗していた3人であったが、ここにおいて少なくとも精神面ではある程度の回復を見せていた。
「その子どもを1人で行かせても大丈夫なの?」
ケイリーにも心の余裕が出てきたのか、彼女の冗談のような質問はまた、3人の心を癒した。
確かにこの家はぱっと見た感じにも危険なものであったが、ここに至るまでの彼の勘とそれに見合う身体能力を目の当たりにした者にとってみれば彼を1人で行かせることへの不安は感じるだけ無駄であった。
それに、単純に罠というものだけが危険だと分かっているのであれば彼は1人のほうが安全だとも言えるであろう。
「じゃあ私たちは子どもが帰ってくるまでにご飯を準備を終わらせましょうか。……とは、言っても支給品の糧食なんだけどね」
不思議なことに食べ物というものはその存在だけでその場の雰囲気を一変するほどの能力を秘めている。糧食も4セット、4日分と有限なものであったが、初日の景気づけとしての役割になら喜んで消費することとなった。
3人は軽く床を履くと、その上に糧食を広げていった。ちなみにこの日の糧食はウィンナーカレーであった。
「それじゃあ、そろそろ零を呼び戻すとしますか」
「僕が探してくるよ」
隼人はその落ち着きの無い〝子ども〟を見つけるためにその手をドアノブに置いた、その時────鼓膜を大きく震えさせる音が家に響いた。
「全員戦闘準備!」
音の後、コンマをおかずに夜空の号令がかかる。3つの銃口が部屋唯一のドアに照準された。
敵襲、その言葉が頭をよぎる。だが、隼人は正直なところこの音をそれだと決めつけるのはまだ早いと考えていた。
もし、この音と敵襲を結びつけるのだとしたらはじめに思い浮かぶのは手榴弾等の爆弾による爆破であった。手榴弾の入手に関しては上手く罠を解除することに成功したのなら納得はいく。
しかし……
「私、見てくる」
部屋に満ちた緊張感の中、はじめに硬直を解いたのはケイリーであった。3人の中で明らかに落ち着いているケイリーにはある程度の経験が感じられた。
銃保有が認められている等を代表とする、文化の違いはより、実践的な訓練も可能としているのだろうか。それは、推論の域を出ることはなかったがそれでも今ここに存在する彼女からはそれ相応の頼もしさが感じられた。
「その必要はないよ」
そんな彼女の行動を止めたのはその言葉だった。
「零? でも、どこから?」
夜空が心の中の疑問を漏らした。そして、その疑問は等しく隼人とケイリーも感じていた。
確かに先ほどの声は零のものだった。だが周囲に彼の姿は見えない。場所的には部屋の中央の方から聞こえる気がするのであるが、もちろんそこには誰もいない。
「ここだよ」
再度その声は聞こえた。子供っぽさを濃く感じさせるその声は自分を見つけてくれと乞うているかのようだった。
だが、零はそれを諦めたかのようにあっさりとその〝顔をだした〟。
「そこかよ」
隼人の口からつい言葉が漏れた。その目は天井から頭だけを出してこちらを覗き込んでいる相手に向けられていた。
零のイタズラ成功と言いたげな顔を見るとやっと空間に和やかな雰囲気が流れ出した。
「面白いものを見つけた。ちょっと上がってきなよ────上がり方については外に出れば分かるから」
3人が部屋の外に出ると〝それ〟はあった。
「隠し通路か……」
そこには〝階段〟があった。埃が上がり、見ただけである程度の強度を持つと分かるそれは、先ほどの音の正体を嫌という程に分からせていた。
「いやぁ〜俺もびっくりしたよ、何か探検してたらおかしな棒をいくつか見つけてさ、これ何かに使えるかな? と、思って集めてたのだけどね、ちょうど10本目はを拾った瞬間にこれだから」
得意げにそう話す零からは自慢や嫌味等の印象は全く感じられない。それが人柄というものであろうか、それとも本当に子どもだからであろうか、また、両方であろうか、どちらにせよこれで彼に隊のムードメーカーとしての立ち位置が確立したのは言うまでもなかった。
「けど、本題はここからだよ。着いてきて」
僕達は黙って彼の後ろに続く。そこには人工的な明かりこそなかったが陽の光にによって浮かび上がる部屋があった。
部屋は、大人が普通に歩ける程の高さと建物に見合う大きさを持っており、ここがただの屋根裏部屋でないことを感じさせた。
「これだよ」
零が指さしたのは一つの地図とその下に置いてある銃であった。地図には現在いる村を含めた森の大部分が描かれており、その中に多くのバツ印が書き加えられていた。
銃の横にはその地図と銃についての簡単な説明書が置かれていた。
『〝トラップマップ〟と〝M1ガーランド〟の取り扱いについて』
〈トラップマップ バージョンフォレスト、名の通り、訓練域中の森にあるトラップの分布マップである。
M1ガーランド、ライフル。7.62mm×51NATO弾を使用、装弾数8発。グレネードランチャーを装備可能。尚、グレネードは10発を支給してある、十分注意して扱うべし。〉
3人はその発見に驚き、言葉を失った。零はそれを楽しむようにこちらを見ている。
ホントに大した奴である。〝ちょっと遊びに行ってくる〟ようなノリでこんなものを見つけて見たのだ、これは直感どころではなく幸運の女神に知り合いでもいるのかと問いたいほどである。
目線を正面に上げると零と目があった。こちらを見るその顔につられてこちらも頬を緩める。
「ご飯にする?」
夜空の声に反応するように腹の音が鳴るのが聞こえた。素直に響いたその音は隊に一時の休息をもたらした。




