ファーストタイム
一旦森から目を逸らして見ると近くに降下した第九小隊の仲間が確認できた。彼らもまた、自分と同じように森に目を奪われている。
ここから確認することは出来ないが、近くに降下した他の2小隊もまたこの光景に目を奪われているのであろうか。
ふと、我に帰るとこちらを見つめる3人と目があった。いくら開始すぐのリタイアを防ぐため1時間の戦闘が禁止されているとはいえ、自分が油断していたことに気づかされる。
けど、最初にそんな小隊長からの言葉を待とうとする姿にはとても頼もしい思いをさせられた。
「よし、みんな集まって」
3人は夜空の号令に対し、短く頷くと彼女を取り囲むように地に座った。
夜空はその真ん中に支給された地図を広げる。
地図は縦に7つ、横に7つのエリアに区切られており、縦はAからG、横には1~7までの数字が振り分けられていた。
「私たちの現在位置はおそらくD-5地点、降下する時は中心だったはずだから風で少し東に流されたみたいね」
と、そこで夜空は言葉を切りその瞳に零を映すと無言でその動作を止めた。
降下する前に言いかけたことの続きを言えということなのだろう。彼女はとりあえずの準備はしたとばかりにこちらを見つめている。
「えと、さっき空で言いかけたことの続きを話してもいいかな?」
零の言葉は単純に疑問ではなく、皆に一旦の話し手の交代を確認するものであった。
「ケイリーからの質問についてだけど……俺の予感が当たっていたようだ。この地図には情報が足りていない」
零はそこで一応言葉を止め質問に備えたが、その心配はなく、皆の顔は続きを促していた。
「この地図に表されているのは、川、山、森の位置だけだ。だが、俺が確認できただけでも東には明らかに木が少ないところがあったし、西には確定ではないが湖らしきものも見えた。つまり、この地図には主要なものこそ正確にかかれているようだけど、肝心の森の中、おそらくは山道や川の周辺についてはひどく曖昧だろうと思う。────この地図を信用したまま動き回るのは危険だ」
零の話が終わったところで再び話し手が夜空へと戻った。3人は零ほど目が良くないため全てを確認していただけではなかったが、その分、一方向への意識を傾けていたため最低限、その情報の裏はとることができた。
「早速、これからの行動を決めたいのだけど、まずは支給品を配っておくわね。と、いっても2つだけだけど」
夜空はその顔に若干の緊張を覗かせながらも、笑顔でリュックを漁り出し、1人ずつに丁寧に物品を渡していった。
それは、普通なら小隊長が行う役割ではなかったのだが、夜空のお世話好きの性格は皆ももう承知のうえであるため敢えて指摘することもなかった。
支給品の一つ目はペイント弾仕様の拳銃、及びその弾であった。これはペイント弾仕様といっても殺傷力以外は弾も含めて実銃と同じらしいので注意すべしとのことだ。
二つ目は学校指定の戦闘服であった。茶色と緑配色の迷彩パターンはいかにものデザインであり、敵の視認性をおおいに低下させてくれそうな頼もしさを感じさせられた。
「この銃は……ガバメントかしら?」
それぞれが思い思いに戦闘服へ着替える中、ケイリーだけは拳銃を見つめていた。
「この銃のこと分かるのか?」
「うん、私の国では銃の携帯が許されているからある程度はね」
銃についての知識は今までの航空学生には必須というほどのスキルではなかったが、これからは必須とは言わずとも確実に鍵となるスキルとなることは間違いないことであり、それを持つ人材を現時点で確保出来ていることは他の小隊に対する大きなアドバンテージとなることはとても心強いことであった。
思いがけずにサバイバルに対しての有用な分かったところで、俺たちはケイリーの着替えを待って再度地図を囲んだ。
ケイリーによるとこの銃は『M1911』通称、コルト・ガバメント。装弾数8発の自動拳銃であり、とても信頼性の高い銃であるらしい。
一通り銃の取り扱い等を確認した頃には手元の時計は9時50分を指していた。
「残り時間も少ないし、素早く行き先を決めようと思うのだけど、案はある?」
俺は皆の顔を見渡したが誰もこれといった考えがあるわけではないらしい。それは、当たり前のことであり、逆にこの時点から何かしらの根拠を持って行動できるやつは何かしらの特殊訓練を受けているものか、もしくは事前情報を持っているものだけであろう。
前者はもちろんのことながら、後者のような不正をするものはこの小隊にはいなかった、
それならば……
「まず東に行くのはどうかな? 理由としてはたたの好奇心、そして俺の勘だけどな」
そう、それならば……俺は勘に頼る男だ。
今でこそ考えることを知った零であったが、昔はそして、今でも空のように自由に生きる性格であった。
「零の意見に賛成するよ、僕にも妙案があるわけではないしね」
こういう時の隼人は基本零に考えを合わせる傾向にあった。
彼は口にこそ出さないが自由に行動し始める時の零にいつも信頼を寄せていた。
それほどに彼の自由はとても清らかに澄んでいた。
そのことには少ない時間ながらも彼らと行動を共にしている彼女らにも伝わっていたようである。
それを確認するのと同時に会場内に設置してあるスピーカーから一斉に放送が流れた。
〝現在時間、10時00分00秒。これより、訓練を開始する〟
彼らは静かに1歩を踏み出した。
長く遠い終わりに向かって……




