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結婚式と披露宴の準備は篤と麻子によって着々と進められていった。両家共に上司友人親戚のこじんまりとしたものには出来ない。結果、当人達の知らない人々が多数出席する大がかりなものになってしまい心優にはどうしようもない。
麻子ですらかなり大変な作業となり良介の秘書の手を借りながらこなしていた。
新居となる高杉邸の内装は家具も含めインテリアコーディネーターが篤や心優の好みを聞きながら進めてくれたし、それはもうとても素敵に仕上がった。
二階には新婚夫婦の為のキッチンやリビングも調えられ、寝室には大きなクイーンサイズのベッドが置かれ…それがなんだか気恥ずかしい。
ただ、寝室から続きで浴室洗面トイレに行けるのが、廊下に出なくて良いぶん楽かも…と素直に思った。
クローゼットもかなり広くなって、今はすかすかのスペースが埋まることがあるのか?とこれもまた不審に思うくらい戸惑っている。
結婚式の準備と言っても、心優は衣装が決まってしまえばあとは特にすることもなく、週に一回エステに通うくらいだろうか……
中学の頃に脱毛に通ったくらいで、感覚的にはほぼ初エステ。
ドキドキしながら行ったものの、元々若いピチピチ素肌は特別手を入れることもなく……
さりとて、さすがはプロと言うべきか……それともお高い化粧品のおかげか、ちょっと磨いてみればその効果は絶大で恋の魔法の相乗効果も含め回りが目を見張るほど美しく変身していった。
幸せオーラが滲み出ているせいか、それが健康状態にも影響しているのか体調はすこぶる良い。
とにかくのんびりおおらかに時は流れていく。
結婚式前、最後の週末はお互い家族と過ごした。
紀井家は里英一家がやって来てくれたお陰で、にぎやかな一時と なった。
高杉家は良介が休暇を取り、ホームビデオやアルバムを見ながら思い出を語り合った。
そして式前夜、この日まで長かったのか短かったのか自分でもよくわからない。教会で最後の打ち合わせをして表に出てみれば、もううっすらと暗くなりかけていた。
ちょっと前に比べれば陽が長くなったと思う。
右側だけの半円となった上弦の月が天高くうっすら浮いている。
教会前のプラタナスの並木はまっすぐ続いていて、背の高い木々が天に向かって全方向に枝を伸ばす。
よく見ればが小さな丸っこいものが沢山ぶら下がっている。それが鈴のように見えることから鈴懸の花とも呼ばれるらしい。
並木道を上を向いて歩く。篤が支えてくれるから危なげなく歩けるのだが、今までそんな花とも気付かない花など気にかけたこともなかった。
「鈴懸の花にも花言葉があるんだよ。知ってる?」
花だということすら初めて知ったのに知るはずもない。首を横に振れば
「『天才』とか『好奇心』
古代ギリシアのプラトンがアカデメイアの森で哲学を説いたのがその理由らしい」
「その森にプラタナスがあったと?」
「そうらしい」
「そんなことで花言葉が決まるんですね……」
「古代においては、哲学を学ぼうと勉強しようと思うだけでその花言葉の意味では合っていたかもだけどね」
「今じゃ伝説ですね……」
「確かに。プラタナスの並木道は勉強よりデートを思い浮かべる人の方が多いかもね」
そう言って笑い心優の手をぎゅっと握る。
二人の未来はこの道のようにまっすぐ前へと続いていた。
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