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 篤が出て行ったドアをしばし見つめ、やっと大きく息を吐いた夫妻はそのままのろのろと再びソファへと腰掛ける。


「ホントかしら………夢じゃないわよね?」

「どうゆう意味での夢かはわからないが、間違いないなく現実だね」

「だって……理想の王子様って言われてる人なのよ!」


 里英先生の弟で背の高いハンサムなドクター、性格も良い。しかも紀井総合病院の御曹司。若い看護師達だけではない。付き添いの母達だって目の保養だとか言ってきゃあきゃあ騒いでいた。

 実際もてるだろうし入れ食い状態だと思うのにそんな話は聞こえてこない。

 だから理想の王子様なのだ。

 女の子の夢見る清廉潔白なイメージそのもの。


「実際はなかなかの食わせ者だと思うけどね」

「えっ、どうゆう……?」

「あの優しげな甘いマスクで中身は誤魔化されてるが、あの若さで先の先まで色々考えてる。清水家の次男とも親友ってことは清水家が認める男だということだ。ただ賢いってだけじゃない、人格的にも表向きは問題無いってだけで、どうだろうね……」

「あの、清水家ってどうゆう……?それに紀井先生に何か問題があるって言うの?」


 思わぬことを言われて麻子がおろおろする。だが良介はにやりと笑う。


「いや、これ以上ないくらい良縁だね。

 心優にとっても、高杉家にとっても」


「ちゃんと、私にもわかるように説明してください!」


「心優の病気は色々大変だし金もかかる。だが篤君は優秀な医師だし、実家は大病院、金もあるしツテも情報もある。きっと私達と同じかそれ以上に心優のケアはしてもらえるだろう。


 それに篤君は、多分経営者としての勉強もしているね。

 実際のところは人任せにはなるだろうが、肝心なところはチェックしたり決断できる程度には……その責任感も自覚している。


 それに金融経営に関して清水家のサポートがあれば、まず間違いはない。

 うまくいけば高杉家も心優、篤君を通して清水家にお願いできれば、私達の引退後、心優にかかる負担と将来の憂いを確実に減らすことができるはずだ。


 気にするなと言っても、心優は一人娘だ。 気にかけてるに決まっているし、私達が何と言おうと責任を放棄することなく負おうとするだろう。

 それなら心置きなく押し付けられる相手が良い」


 高杉家はデパート、スーパー等の小売店、バスやタクシー等の交通機関、旅行代理店、娯楽施設等かなり手広く商売をしている。

 父である前会長の死後良介がトップに立ち取りまとめているが、内実はかなり厳しい経営だ。


 良介と麻子には子供は心優一人。

 当然ながら心優に婿をと、まだ高校生ながら縁談話が少なからず舞い込む。

 相手から透けて見えるのは心優本人ではなく高杉家の会社であり財産目的なことだ。

 心優は賢い娘だが、体調を考えると経営は難しい。だとしたら誰に経営を任せるか?てっとり早いのは心優の婿だが、その為に娘の幸せを犠牲にしたくないし、身体が弱いからと愛人を作られ子供も妾腹などと許せるはずもない。

 それなら経営権を誰かに譲って心優が何不自由なく暮らせるようになどとうっすら考えていた。


 そこへ飛び込んできた話だ。


 紀井家は総合病院とリハビリテーション病院、高齢者施設、そして従業員の為の保育施設、学童施設の運営をしている。なかなか大きな規模だがかなり良心的な運営をしているという噂だ。

 そこに経営者一族の人柄も表れているのだろう。


 篤はその一族の後継として不足のない人物と聞いている。姉も長年心優の主治医を務めてくれていたがとても良い人だった。

 篤は心優を一番に見ている。その上で心優に付き纏うものをいかに心優に憂いなく処理するか先の先まで考えて実行してくれるだろう。その為に利用出来るものは利用し冷静に判断して行使する男だ。

 心優を任せるとしたら、これ以上の相手はいない。


 あとは心優の気持ちだけだが、今は純粋に初恋のような憧れを抱いているだけだとしても、あの男のことだ、きっと囲い込んで都合の悪いものは見せないように大事に大事に育てていくだろう。

 そんな気がする。


 遊びの女はスッパリ切ってから挨拶に来るところも好感が持てた。


 良介は引き出しの奥にしまった調査報告書を思い浮かべる。


 過去、女性とは距離を置いた軽い付き合いしかしていないが、それは本命がいなかっただけのことだろう。あれだけの容姿と頭脳、バックがあってもてないわけがないし、あの年まで何もないわけもない。


 悔しいが、及第点をやるしかないじゃないか!

 親としてやれることには限界があるのだから………


 そして全財産を心優に残して、あの男に管理を押し付けてやる。大事な大事な心優をやるんだ。そのくらいの苦労はしてもらおうじゃないか!


 書類に埋もれる篤を想像して、ちょっとだけ溜飲を下げた良介だったが、妻の麻子は夢心地。それもちょっと面白くなかった。

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