前編
「悪いけどさ、あんたとは結婚できねぇから。婚約は今日この日をもって破棄な」
婚約者である彼ラディースは、ある日突然こちらの家へやって来て、そんな風に告げてきた。
「え……」
「レジーナはさ、家柄はまともだけどそれだけだろ? でも、世の中には、もっといろんな意味で魅力的な女がいる。そう気づいちまったんだ。途端にあんたがくだらないやつに見えてきちまった。だから、さ。ここまでにしようぜ。ま、そもそもそっちだって俺のことそれほど好きじゃねぇんだろ? ならそれでいいだろ?」
「あの、あまりにも唐突で、その……」
「言いたいことがあるならはっきり言えばいいだろ! うぜえな!」
「いきなりのことで困惑しています」
「知るかボケ! そんなくっだらねぇことで俺の時間使うな! どこまで馬鹿なんだあんたは!」
言われた通りにしただけなのにボケだの馬鹿だの言われるなんて……理不尽過ぎる。
「あーあ。やっぱり結婚相手はカレンみたいな完璧な乙女じゃねぇとな。あんたみてーな女と結婚なんかしたら不幸な未来しか見えねーわ」
ラディースはカレンという女性について話し出す。その女性の素敵なところについて、楽しそうにあれこれ話していた。明らかに私に対してする話ではない、にもかかわらず、彼は敢えてそれを私に聞かせる。とことん性格が悪いな、と、密かに思った。単に思っただけで、さすがに口からは出さなかったけれど。
「カレンの魅力、伝わったか?」
「はぁ……」
「何だよその態度! ちっとはカレンを見習えよ!」
「理不尽に婚約破棄され、知らない女性の話を聞かされ、それでも笑顔でいるなんて……それはさすがに不可能ですよ」
「ったく! そんなんだから捨てられるんだよ、あんたは! 女ならさぁ、普通、そういう時でも笑顔で話聞くだろ。それでこそ女、それでこそいい女、だろ。なぁ! それがさぁ! 常識! だろうが!」
「すみませんが、私には理解できません」
はっきり言ってやれば、彼はわざとらしく長い溜め息をつく。
「はー……ま、もういいわ、くだらねぇ女の相手してる暇とか俺にはねぇから」
それから嫌みな視線をこちらへ向けてくる。
「あんたみたいなやつ、地獄に堕ちるに決まってんだよ」
じっとりとした目を向けて、心ない言葉を吐く……そんなことを平気でできる人こそ、幸せにはなれないと思うが。
「おしゃれで、綺麗で、垢抜けていて、大人っぽさもあるのに遊び慣れた感じはなくて、可愛い系の要素もある! それがカレンだ! 彼女こそが最高の女性! 最高を超越した最高、まさに理想の女神!」
先ほどのように『くだらねぇ女の相手してる暇とか俺にはねぇから』なんて言うくらいなら、こんなところでぐちぐち言っていつまでも絡んでいないでさっさと帰ればいいのに。
相手をしている暇はない、なんて言っているけれど、なんだかんだで自ら関わってきているではないか。
そんな時間はないのではないのか?
しなければならないことが多いのではないのか?
なのに、既に切り捨てた私に絡み続けてくるなんて……言っていることとやっていることが矛盾している。
「カレンの魅力、理解できたか?」
「その話はもういいです」
「おい! それはおかしいだろ! 俺が理想の女神と認めた女について聞きたくない? 嫉妬か? いや、だとしても、だ! それでもあんたは話を聞くべきだ! 絶対に、聞かなくてはならない!」




