落ちこぼれの人生
「どうして私の家がここにあるの…?ずっとまっすぐ歩いていたのに…?」
目の前の光景に、イモは完全に混乱していた。ずっと直進していたのに、自分の家が目の前にあるなんて、どう考えてもおかしい。
苛立った彼女は再び車に乗り込み、出せる限りのスピードで走らせた。景色はさっきと同じだった。遠くに小さな起伏、周りには背の高い草。この速度なら10分で地下鉄に着くはずだった。しかし時間が経っても、また自分の家の前にいた。
「えっ!?ありえない!」
もう一度まっすぐ進んでも、結局家に戻ってしまう。そんなことがあり得ないのは分かっていた。だからこそ、何かおかしなことが起きていると確信した。超自然的なものかどうかは分からないが。
彼女は家の中に入り、何か違いがあるか確かめることにした。鍵は普通に開いた。つまり、ここは本当に自分の家だ。中に入っても、特に変わった様子はない。家具もすべて出かける前と同じだった。階段を上がり、アマイの部屋と両親の部屋も見たが、特に異常はなかった。しかし、自分の部屋のドアを開けた瞬間、部屋の中央に宝箱があるのが目に入った。
「変だな…起きたときはこんなのなかったのに…誰が置いたんだろう?」
そう呟いた直後、宝箱はひとりでに開き、中には一本のタバコが入っていた。いや、ただのタバコではない。しわくちゃで乾ききっている。それを見て、イモはすぐに気づいた。
「え…?捨てたはずじゃなかったの?なんでここにあるの?」
目の前のそれに疑念を抱いた。本来ならゴミ捨て場にあるはずのものが、自分の部屋にある。まったく意味が分からない。目覚めてからというもの、何ひとつ筋が通っていなかった。
彼女はタバコを手に取り、じっくりと観察した。そして、それが確かにケネディが以前吸っていたものだと確信した。つまり、この状況に考えられる可能性は一つしかない。
「夢を見てるんだ…それしかない。」
そう思った瞬間、部屋のドアが勝手に閉まった。開けようとしてもびくともしない。鍵がかかっていた。
「ねえ!今度は何なの!?」
開かないと分かると、彼女は力任せにドアを蹴り始めた。しかし、何も起こらない。結局、彼女は諦めてベッドに横になり、何かが起こるのを待った。すると、ドアが開いた。だが、そこはいつもの家の廊下ではなく、どこか別の場所へと続いていた。
「まあ…ここで何もしないよりはマシか。」
中に入ると、手に持っていたケネディのタバコは消え、彼女の体は小さくなった。手を見ると、子供の姿に戻っている。そして振り返ると、入ってきたドアは消えていた。
「くそっ!部屋にいればよかった!」
周囲をよく見ると、そこは自分が幼い頃に通っていた保育園だった。イモとアマイは日本の地方都市、富士宮で生まれた。
二人は見た目こそほとんど同じで、違いは目の色くらいだったが、性格は正反対だった。姉のアマイは穏やかで落ち着いていたのに対し、妹のイモは騒がしく、落ち着きがなかった。
その違いは、イモが生まれて1年も経たないうちに両親に気づかれた。アマイと違い、イモは周りを散らかしてばかりだった。積み上げられた本を見れば崩し、姉に片付けさせる。それが思春期まで続いた。
「うわ、思い出した!私、めちゃくちゃ散らかしてたな、ははは!よく両親も我慢してくれたよね。」
周囲は完全に散らかっていた。おもちゃが床に散乱し、本はバラバラ、壁には落書き。子供の頃の自分なら、確実にやりそうな光景だった。すると、ドアが軋む音とともに怒鳴り声が響いた。
「イモさん!またいたずらしてるの!?」
それは担任のニセイ先生だった。彼女はいつもイモを叱っていたが、どうせ無駄だと分かっていた。イモはまた同じことを繰り返すのだから。
「また親を呼ぶわよ!?」
イモは笑いが止まらなかった。久しぶりにこんな悪戯をして、懐かしさと楽しさがこみ上げてきたのだ。
「今すぐ職員室に来なさい!」
言われるままに歩き出したが、またしてもドアが勝手に閉まった。しかし今度はすぐに開いた。
「今度はどこに繋がってるんだろう…?」
出ると、そこは学校の廊下だった。そして遠くに、どうしても会いたかった人の姿を見つけた。
「ケネディ!」
彼女は駆け寄り、抱きついて泣き出した。
「ケネディ!本当にまたあなたに会いたかった!」
「お、おい…落ち着けって…ここ学校だぞ…!妹ってこんな感じなのか?」
ケネディの隣にはアマイがいて、その光景を驚いた顔で見ていた。学校でケネディと話すのはアマイだけだったため、二人が一緒にいるのは珍しくなかった。
「いや…彼女は普段、感情を表に出さない…」
思春期になると、イモは散らかすことをやめ、内向的な性格へと変わった。姉妹は富士宮を離れ、横浜へ移り住んだ。アマイが優秀な学校の奨学金を得たためだ。両親は裕福ではなかったため、郊外に家を買い、少しずつ改装していった。幸い父親は高収入の仕事を見つけた。イモは奨学金を得られなかったため、両親が学費を払った。イモには友達がいなかったが、アマイの周りには多くの男子がいた。そしてこの頃、ケネディと出会い、やがてアマイとケネディは付き合い始めた。イモは嫉妬していたが、姉を悲しませたくなくて何も言えなかった。
「でも…これ全部夢なんでしょ?目が覚めたら、あなたはいなくなるんだよね…もう一人にしないで!お願い、そばにいて!もう消えないで!」
「どういうことだ?何言ってるんだ?」
そう言い終えた瞬間、何かに引っ張られる感覚がした。しかし彼女は必死にケネディにしがみついた。離したくなかった。もう失いたくなかった。それでも——
ピッ、ピッ、ピッ!
アラームの音で目が覚めた。今度は本当に現実だった。その夢は、彼女に自分の人生を見つめ直す機会を与えた。
イモは16歳でタバコを吸い始めた。かっこつけでも、誰かに強制されたわけでもない。ただ、自殺せずに死ねることを望んでいたからだ。その事実は誰にも話していない。
「私、本当に負け犬だな…みんな知ってるよね。」
そして残った問いは一つ。イモとして生きたことに意味はあったのか。それとも姉のように生きるべきだったのか。
彼女は起き上がり、就職面接の準備をして車に乗り込んだ。そして今度こそ、ちゃんと駅にたどり着いた。
いつも通りのことをした。運賃を払い、席に座り、横浜に着くのを待った。待っている間、夢が彼女に残したあの問いを、再び自分に投げかけた。
「本当に、姉の後を追わなかったのは正しかったのかな…?そうしていれば、こんな役立たずの負け犬にならずに済んだかもしれない。私はどこの会社にも受からない。所詮、ただの素人だって、みんな分かってるんだ。」
イモは座席にだらりと身を預け、自分の人生について考え続けた。そのおかげで、2時間はそれほど退屈ではなかった。そして、その日の面接会場へと歩いて向かった。
「イモ様、どうぞこちらへ。社長室までご案内します。」
「また最上階か…」面接に行くたび、イモはそう思っていた。社長は自分の地位を誇示したいのか、それともただ一番上にいたいだけなのか。
「こちらの部屋です。頑張ってください!」
「イモさん、お待ちしていました。どうぞお座りください。」
「あ、はい。」
その会社の社長はすでに部屋で待っていた。とても美しい部屋で、男が座る机と椅子の後ろには一面のガラス窓があり、街全体を見渡すことができた。
「それで…なぜこの会社に来ようと思ったのですか?」
「ええと…市場での実力に惹かれて、ここで働きたいと思いました。」
「なるほど…いい理由ですね!履歴書はお持ちですか?」
「はい、こちらです。」
「ええと…そうですね…19歳…」
彼は最後まで内容を声に出して読み上げた。イモは緊張していた。今まで受けてきた中で、ここが一番レベルの高い会社だったからだ。
「はは!なかなか図々しいですね、イモさん。」
「どういう意味ですか?」
「会社の実力に惹かれて応募したと言いながら、あなた自身にはその実力がない、ということですよ。残念ですが、不採用です。でも、あなたは気に入りましたよ。」
「それって、喜ぶべきなんですか?悲しむべきなんですか?」
「どちらでもいいでしょう!あそこの窓が見えますか?私は時々あそこから景色を眺めて、次に何をすべきか考えるんです。あなたもそうしてみるといい。」
「実は…芸術系の大学に進むつもりだったんです。でも、私を唯一応援してくれていた姉が、先週亡くなってしまって…それで諦めました。」
「それは…ご愁傷さまです。」
「大丈夫です。ただ、一つだけ質問に答えてください。」
「私に答えられることであれば…」
「人生の意味って何だと思う?」
「俺は“愛すること”だと思うな。」
「愛すること?」
「そうだ。考えてみろ。世界は何かを愛することで成り立っている。例えば、この会社だって、俺が金を稼ぐことをどれだけ愛しているかで成り立っているんだ。」
「もし、その愛するものを失ったら?」
「その場合、生きる意味はなくなるな。結局、人は自分の愛することのために生きているんだから。」
「そう…あなたの言う通りかも。じゃあ、失礼します。」
イモは履歴書を手に取り、その会社を後にした。結果は最初から分かっていた。自分でも、なぜまだ仕事を探しているのか分からなかった。自分にはその資格がないと分かっていたからだ。
地下鉄に着くと、またいつも通りのことをした。運賃を払い、席に座り、自分の駅に着くまでの2時間を待った。駅に着くと車に乗り、家へと戻った。
両親はまだ仕事から帰っていなかった。彼女はシャワーを浴び、部屋着に着替えた。そしてソファに寝転び、さっき社長に言われた言葉を考えていた。
「私が愛するものがもう存在しないなら、私にはもう目的がないってこと…?確かに理屈は通ってる。でも…それって、私にはもう生きる意味がないってことじゃない。」
何をすればいいのか分からなかった。目的もなく、仕事に応募する気力もなかった。だからまず、今後の面接予定をすべてキャンセルした。どうせ全部落ちるのは分かっている。なら、やる意味なんてない。
その後、彼女は一つの危険な考えに至った。本当はやりたくない。怖かった。でも、それが自分の目的のためなら、やるしかないと思った。
「私って本当にバカだな…まさか自分が自殺したいなんて思うなんて。タバコじゃダメだった。なら…刺すしかないか。」
キッチンへ行き、包丁を手に取った。そして胸に押し当てようとした瞬間、何かが彼女を止めた。それは明らかに最悪の選択だった。それでも、目的のためには諦めるわけにはいかなかった。
「なんで迷ってるの…?ケネディに会うために必要なんだ!彼だってアマイのために死んだんじゃないの?なら私も同じことをする!」
しばらく悩んだ末、彼女は一度手を止めた。自殺してもケネディに会えない可能性があるなら、そんな賭けには出たくなかった。そして、こんな形で人生を終わらせたくもなかった。
「じゃあ…どうすればいいの…?私には何もない…死んだところで何を失うっていうの?両親が悲しむ?そんなわけない。私はただの迷惑でしかない。ずっとそうだった。もういい、どうでもいい!」
再びキッチンへ戻り、今度は躊躇なく包丁を胸に突き刺した。その瞬間、激しい後悔が押し寄せた。今まで感じたことのない痛みだった。彼女は1度、2度、3度と叫んだ。しかし無駄だった。誰にも聞こえない。
「あああああ!痛い、くそっ!なんだこれ!早く死ねよ、このバカ…!」
彼女は床でのたうち回りながら、死が訪れるのを待った。呼吸は徐々に弱まり、血は床に広がっていく。
「ダメだ…こんなことするべきじゃなかった…!最悪の選択だった…!」
草のざわめきが、彼女の恐怖に満ちた叫びと重なって響く。自分の選択が正しかったのか分からず揺れていた。しかし、やがて目的に意識を向け、覚悟を決めた。
「そうだ…ケネディのことだけ考えればいい!私は死ぬ。でも、きっとまた会える!私は信じてる!必ずまたケネディに会えるって!そうだ…今なら分かる、私がずっと抱えてた気持ちが!ケネディ!待ってて!」
最後の言葉を言い終えた後、痛みは消え、死が訪れた。
その後、彼女の目に映ったのはただの虚無だった。しかし、ケネディのことを考えるのをやめることはなかった。やがて少しずつ視界が戻り、周囲に奇妙な温もりを感じ始めた。
家に帰ってきた両親は、その光景を見て愕然とした。わずか1週間で、二人の娘を失ったのだ。
「イモ!どうして!?あんなに大事に育てたのに…たとえお前がやんちゃでも…1週間で二人も娘を失うなんて…!」
「分からない…何があったのか…もしかしたら、アマイに会いたくて…どこかで会いに行ったのかもしれない…」
「本当に…?」
「ああ…」
そう言って、イモの母は夫の胸に崩れ落ちた。18年以上育ててきた二人の娘は、もうどこにもいなかった。
イモの葬儀は3日後に行われた。この悲劇は両親に深い傷を残し、二人はカウンセリングを受けるようになった。そして毎日、自分たちを責め続けた。
その後、孤独に耐えられず、イモとアマイに似た17歳の少女を養子に迎えた。娘たちに注ぐはずだった愛を、誰かに与えるために。
これが、イモとアマイの家族の結末だった。
「…ああ、結局寝ちゃってたのか。」
イモが自殺した日の、地獄——
「うわ、めっちゃ汗かいてるな…まあいい。今日はルシファーと話す日だ。天国に行かせるよう説得できればいいけど…あのムニってやつも、そろそろ来るはずだな…」
ケネディは仮眠から目を覚ましたところだった。今日はルシファーと話し、アマイに再会するための説得をする日。そして同時に、イモがケネディのために命を絶つ日でもあった。
だが彼は、そのことをまだ知らない。
1週間ぶりに投稿しました。
次の章もまた来週に投稿できるよう頑張ります!
とにかく、この章を楽しんでもらえていたら嬉しいです!




