第23話 Enjoy the Battle!!(決着をつけろ!!)
それは、ナギナタにとって初めての経験だった。
殺気を向けられたことは、過去幾度となくある。その度に心と体が昂揚するのを自覚していた。
だが、この時ばかりは違う。初めて殺気に対して “放心” したのだ。
何故なら死を予感したから。
『これ以上は何をしても無駄』という思考が、即効性の毒のように頭と体を侵していった。
何も考えられないし、
何も動かせなかった。
カラカラカラカラと、風車のような音を立てていたその技は、およそその音からは想像もできないほど、“死” を象っていた。
渦巻く風は、その先端が折れてしまいそうなほど細く鋭く、だが同時に、何者をも寄せ付けないように圧倒的で荒々しい。
儚さと力強さは、掛け合わさり『美しさ』へと昇華していた。
反対に、大きく広がっていく後端は、ただただ禍々しい。内側へと収束する風は周りの全てを呑み込みつつ、外側へと発散する風が終わりなどないように依然その規模を増していく。
相反する二つの風は『恐ろしさ』を体現する災いであった。
『美しさ』と『恐ろしさ』を併せ持つ小さな竜巻が、ただ己を真っ直ぐに見つめているのを、ナギナタは同じ様にただ真っ直ぐ見つめていた。
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「ダメェェェェェ!!!!」
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自らを死へと呼び込むその技を、雷の少女が体を張って止める様すら、ナギナタはただ眺めるだけだった。
ギリギリのところで狙いが外れ、自分の横を抉っていくその旋風を見えなくなるまで眺めていた。
…………見ていて良かった。結果そう思った。
——其れはあまりに歪な技だった——
近くの樹木に直撃した竜巻の先端は、余計な破壊・損傷を一切生まず、針一本分程度の、綺麗な、文字通りの “風穴” を空けた。かと思えば、竜巻がより深く貫くのと比例し、より乱暴に樹木は罅割れ、螺旋状に捻れていく。終いには、樹木は団子のような一塊にされ、そのまま塵と化した。
彼れを喰らえば自分もああなるということを、呆然としたまま想像していた。
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「お…お姉ちゃん………?」
「カミラ!!今の…今の技は!?」
「え……? わ、わかりません……。ただ夢中で……あの人を……」
(あれ……? カミラはその時、何を考えていたんでしたっけ…………)
「カミラ!!私と約束するです!!カミラはさっきの技を使っちゃダメです!!
カミラは……………………、貴方は!!
殺す気で攻撃をする必要なんか一生ないです!!!」
「あ…………(そうかカミラは……)」
「な…………(なんだ今の技?! 当たった木が、文字通りの木っ端微塵じゃねーか!!)
(それだけじゃない。速さ・規模ともに測りきれない…! 恐らく集中状態のカミラならほぼ必中!! 危なっかしいが、それ以上に凄まじい!!)
「カミドぉぉぉっっ!!」
「「 その技を使わせるな!!! 」」
「————ッ!」
「そうか……風の……」
それは、待ち侘びた邂逅。
「お主が儂を殺すのか……………………!!!!」
【 カミド VS ナギナタ 】 ——再戦——!!
……ッ!〈焦気天満大自在大字雷〉!!
(雷娘の技は意外と小回りの効く技が多い……。恐らく “防御技” も一つはある。ここまで猶予がなければ出してくるだろう)
〈〈〈〈 漆 〉〉〉〉!!!
(だが関係ない。それを正面から叩き割る!!)
「真っ向勝負ッ!!」
〈界〉——————(やはり来た……っ!)
(娘を中心に球状に広がる雷の薄い膜!恐らくバリアの類! だが、それを破る! 今の儂なら必ず打ち破れる!!!)
〈振颪〉———!!!
ズズ………………!! 「………??」
(なんだこの膜……抵抗がない……。防御の技ではないのか……? いや………いや………!! そういうことか………!!)
「攻撃が最大の防御、ということか!!」
——ビリビリ!!! ——バチバチ!!!
(拳と脚に同時に雷を纏っている! 今まで素早い切り替えで補っていたが同時はなかった!! この膜に包まれた領域の中で制約を取り払う技だったか!!)
華麗な足捌き、正確な受け流し、ただ往なすだけに止まらず、相手の力でもって相手の動きを封じる。
(まずい!力を込めすぎた! 乗った体重が切り返しに移らない!!)
「即興電撃…………〈十拳の剣〉!!」
「ッ……………………!!」
(十発入れたです、ダメージ大アリ、界はもう切れる、最後の一発、吹っ飛べ)
伍ォッッッ!!!!! 〈開〉!!!
(今日初めて……)(奴が……)
(( 浮いた……!! ))
「流石だ火力担当!!お前は見てるだけか、馬火力!!!」
「分かってるよっッッ!!!」
(すかさず入れるです……!)
〈大字雷ノ陸〉〈地〉——ビリビリ!!!!
「落ちろォッ!!」
〈焼燬掌握〉!!
ボコッ——————ドン!!!!!…バチバチバチバチ!!!!!
「ぐあぁぁぁぁ!!」
(じ、地面に雷が走っている!? 踏めば電撃の正しく地雷原!! だが奴らも同じでは……)
「………!! 氷め、足場を作るか……」ギリ……!!
「なら……」クル…………ッ、ビュン——!!!
(回転しながら、薙刀を地面に突き刺す反動で飛んできた?!)
「そういう使い方じゃねえだろ……!!」
——ガシッ!!「儂の自由だ。むしろお主はどうだ?氷の。先程から誰かのサポートばかりでつまらん戦い方だ。お前の氷からは、危機を感じない」
「……………………は??」
【 ザクス VS ナギナタ 】
——再戦の合図は、ザクスのアゴにクリーンヒットするアッパー——
「……の野郎……ッ!!」
「氷のくせに、感情的になるなよ」
「マモノ風情が俺を舐めるなよ……!!」
〈冰凝・固檻〉
「これだ……!こういうのを待っていたんだよ!!」
ピン!!————ヒヤ——
「『完全な立方体』、俺の氷結の中で最密の構造。出られねえだろ今度は。なあ、氷の中からでも見えるか? 今日の天気は “氷山” だぜ」
〈冰凝・山全貌冷峰〉!!
「なるたけ高い山を用意した…………。永く氷に潰されな」
標高1,000m越えの氷塊が、わずか3×3×3m3の氷の箱に圧し掛かる。その様、正しく絶望。
(低温と重圧で……っ、儂の身体が崩れそうな錯覚すら……)
「なにボーっとしてんだ。畳み掛けるぞ」
「————!! 炎……!!」
【 カロ VS ナギナタ 】 ——再戦——!!
(落ち着け、炎の技は大味で雑なものが多い! 冷静に見極めれば被害は最小限に抑えられる! 何が来る……! 何が来る……!?)
「〈焼燬山岳〉……」
(来た…! あの技は突き上げる炎! 上方向への距離はあるが範囲は狭い!! 決定打にはならない!させない!!)
「〈多方〉……」
「…………? 『たほう』……? まさか……」
〈焼燬十字交〉!!!!
(上下左右前後、同時に発動できたのか……!!!)
「うああああぁぁぁぁっ!!!!」
「お二人ともすごい……倒せそうです……」
(……そうだ、もうこの子にあんな技を使わせないためにも、カミドたちで倒さないといけないです……!!)
「ザクス! カロ! すまん! です!!」
「「 ————?? 」」
「ああなるほど。おい、—————————」
「…………簡単な注文だよ、ザクス」
「なんだと…?!」
「歓談かぁ??まだ儂はピンピンしとるぞ!!!」
〈天気天満大自在大字雷〉
〈〈〈〈 陸 〉〉〉〉
(あの技は……地面に伝う雷か! 好機………奴ら自ら行動範囲を狭める気だ!! 今最優先で戦いたいのはあの風の娘! 一歩で詰めてしまえば道中の地雷など関係はない。マモノと人の差が出たな……)
〈地〉!!
(さあ、ここだ…………!!「——?!」
端的に言えば、ナギナタの目論見は外れたわけだが、これは…………喜べば良いのだろうか。
炎と氷は足場を作らず、しっかりと地面を踏みしめている。雷の伝う地面を。痺れながら。
だが、その行動を愚かしいと嘲笑う暇すら許さぬ存在感を放つ、雷。
「絶対に、ここで決めるです!!!」
〈大字雷ノ陸ノ参〉
〈陸〉で地面に溜めた雷と
〈参〉で脚に溜めた雷が
反応し合い、強め合い、押し出し合い、
稲光に似た “超速” を得る。
〈雷斗人駈〉!!!!
一瞬光って、轟きを後ろに連れて、立ち塞がる障壁すらも吹っ飛ばす。今、少女は雷そのものに成った。
(———?! 迅いとすら感じられなかった…………!!)
(( 動け!動け!動け!動け!動け! ))
「あとは…………頼んだですよ!!!!」
感電を耐え忍び、先に動き出したのはカロ。
「ザぁクスぅぅ!!」
「わぁーーってるよ!!!」
-----回想-----
『————おい、零を使う、死ぬなよ』
-----回想終-----
〈零点冰凝〉!!
「こ、この冷気——!? 炎も凍るぞ!!」
「俺の炎が、絶対零度ごときに負けるか!!!」
〈焼燬惑星〉!!
「『完全なる球体』が俺の最強の灼き尽くし!! 冷気の入る隙間なんかない!!」
「なんだそれは——ッ!」
(まずい…………意識が…………凍る…………)
絶対零度による冷凍は強力な催眠に近い。身体も思考も精神も、全ての運動が停止に向かう。例え高熱の炎で皮膚が爛れ、肉が焦げ、骨が熔けていこうとも。
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「今度こそ聞いていいか……? やったか…って……」
「これで駄目なら困る………もう誰も動けないよ………」
「やったです………絶対やったです………!」
満身創痍、というよりはもはや死屍累々。自傷も厭わぬ大技の連発、蓄積したダメージはついぞ忍耐の限界を迎えている。
イレギュラー、想定外、予想以上、期待を裏切るような事態は何度もあった。だが最終的に、全員が弱点を忘れるほどの極度集中状態に入るほどの激戦。
最強かつ頂上の集団、チーターズの200%を引き出してなお、倒れず、折れず、壊れず、むしろ圧倒していく好戦っぷり。これこそが “人型” マモノの恐ろしさというところを全身全霊で、ナギナタは体現していた。
—————いや—————
———どうやらそれは———
——訂正しなければならない——
「……………………お、終わりだ…………っ」
ここまでの猛攻を受けてなお立ち上がる意志が、その恐ろしい姿が “人型” マモノの恐ろしさなのだ。
(体は……どこをいくつ失った…… ? 手は動く、まだ得物は握れる。耳はほぼ聞こえんな。眼も………微かにか……。だが、奴らが動けそうにもないのは視える………! ふ、ふふふ………楽しかった、楽しかったぞ!! だがこれで、儂の勝り———)
「——!! な、何故お前がそこにいる!!」
カラカラカラカラカラカラ———……
-----時は遡る-----
「〈大字雷ノ陸ノ参〉…………」
「…………待って…………」
「〈雷斗人駈〉!!!」
「…………いかないでお姉ちゃん…………」
「ハァ………ハァ………ハァ………みんな、みんな戦ってる………私も………私が、殺さなきゃ………っ」
『殺す気で攻撃をする必要なんか一生ないです!!!』
「………違う………!! あのままじゃ、お姉ちゃんたちじゃ殺せないから………だから………でも………」
『殺しちゃえばいいじゃん』
「——!? 誰……!?」
『いつまでもうじうじ迷ってないでさ、ぱーっと力を使っちゃえばいいんだよ。だってそれはきっと…… “楽しい” ことだよ?』
「駄目だ!! お姉ちゃんは、カミラがそうなることを望んでいないから、ああいう風に言ったんです!!」
『でもさぁ……、理解ってるでしょ? あのマモノは貴女にしか倒せない。その証拠にさっきから……どうして『殺さなきゃ』なんて言うの?』
「え、え……?」
『普通は『戦わなきゃ』か『倒さなきゃ』って言うでしょ。もうさ、手にこびりついてんだよ。あのマモノが貴女の技に “殺される” って確信を抱いてるみたいに、貴女だって “殺せる” って確信があるんだ。だから『殺さなきゃ』、なんでしょ?』
「…………あなたは、誰なんですか。カミラの何をそんな分かった風に……!!」
『私は貴女だよ!だからこそ理解る!! 貴女は圧倒的な力で相手を捩じ伏せるその瞬間にこそ愉悦を感じるんだって!! さあその力を使いなよ!見せてよ!貴女の心からの快楽の表情!!!』
「違う…………違う!!!」
〈風船〉!!
『あははは!! 認めたくないだけだよ!!』
(違うんだ……本当に学んだんだ……。こんなこと変かもしれないけど、あのマモノから!! 戦いにおいて、 “楽しむ” っていうのは!!)
「——!! な、何故お前がそこにいる!!
…………いや、そうだなぁ!! よく分かっているじゃないか!! そうだ!それこそが戦いにおいての至上の愉悦!!」
「 “楽しむ” っていうのは!!」
「 “愉しみ” というのは!!」
「「 全力を発し揮ることだ!! 」」
「喰らえ……!! 儂の全力だ……ッ!!」
〈刀薙〉!!
「これが! 貴方を倒すカミラの技です!!」
〈穿旋飛車〉!!
………………………フッ、敵わんか…………………………
ナギナタ、散る。
「ハァ……ッ!ハァ……ッ! や、やったです…か——?!」
「カミラぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「お、お姉ちゃん………!」
「カミラぁ! よくやった!!」
「ホントに!!助かったぞ!!」
辛勝の笑い声は絶えぬ。
チーターズ VS 人型マモノ
——勝者、チーターズ
長っっっっっが




