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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第3章 真実のかけら

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26 香りに導かれて


 今回は別視点のお話です。

 香りが、静かに運命を引き寄せていきます。


 「フェリクス、凄いわ、凄いわ」


 次の日の朝、のんびりと朝食を取っていると、母上が駆け込むようにやって来た。


 「母上、何事ですか?」


 スープを飲んでいた手を休めた。


 「あなたが昨日持ってきた、ポプリ、効き目が凄いわ。昨夜は陛下がグッスリと休まれたのよ」


 いい年をこいて、少女のように微笑む母上にちょっと引きながら”ああ、良かったですね”と相づちを打った。

 母上はそれからもずっと何かを言っていたが、いつものように聞き流していた。


 この人は話し出すと止まらないのだ。


 父曰く母上ほど王家の風に合わない人はいないだろうとのことだ。


 そんな事もあってか、幼い頃は四つ上の兄上と母上の三人で離宮に暮らしていた。


 母上は離宮でのびのびと過ごしていて庭いじりやバラを育てたりしていたのだ。王太后陛下が亡くなってからは王宮の方に移り住んだ。


 幼心に、母上は王太后陛下が苦手だったのだと思った。僕たちはおばあさまに呼ばれても母が呼ばれることはなかったから。


 大人になれば色々とわかってくることもある。母の立場が弱く父が母を守ろうとしていたことや、おばあ様(王太后陛下)の評判なども。


 嫁、姑は色々あるんだな。今の母上には考えもつかないが……


 現在離宮は、昨年結婚した兄夫婦のため改装中だ。


 兄上がご結婚なさりやれやれと思ったのもつかの間。国内中の女性が(決して、そんな事はないはずだが)僕の方に寄ってきてうんざりしている。


 一人歩きは危険だ。出来るだけ国内にいないようにしているところだった。


 母上を見て育ったせいか、貴族のつんけんした女性はどうも苦手だ。


 かと言って、素朴な女性も、僕をみると、皆赤い顔をしてイヤらしい眼差しをおくってくる。


 その落差がまた嫌だった。近づきたくもない。


 そう言えばリアンの女性の趣味は悪かったな。


 いつもやたらと匂いのきつい女性が傍らにベッタリとくっついていた。真っ白なテーブルクロースにこぼした赤黒いワインのシミみたいだった。拭いても綺麗には落ちない。


 婚約者がいると聞いていたがどうしたんだかな。


 ふんわりと風に乗って、母上が小分けにしたというポプリの香りが鼻をくすぐる。


 妖精のようなほっそりとした少女が脳裏に浮かんだ。

 とても心地よい香りがした。


 あんな香りに包まれていたら、幸せだな。あの子なら良いかもしれない。そんな思いが胸をついた。


 「殿下、王妃様はなんておっしゃられていましたか?」


 ジルに聞かれてハッと我に返った。


 しまった。全く聞いていなかった。何か頼まれていたらまずいぞ。


 なるべく顔を合わさないようにしなければ。ただでさえ、そろそろ婚約者を決めたらどうかなんて、うるさく言い始めたからな。


 やっぱり、あの領地に行くかな、ルミナリア王国。祭りで会ったクロードだったかな。向こうは知らないかも知れないが、確か兄上と同い年。昨年の兄上の結婚式には来ていたな。


 友人だろうか?一度兄上に聞いて見ても良いな。


 ジルに返事もせずに、またすぐに物思いに入ってしまった僕を、ジルはあきれたように見ていた。


 朝食を終え、執務机に向かっていると、ノックもなく勢いよく扉が開いた。


 「フェリクス!」


 母上だ。

 今日は二度目だぞ、こういうときは大抵、ろくでもない。


 「……母上。ノックをお願いしますと、いつも──」


 「いいことを思いついたわ!」


 母上は僕の言葉を手で払いのけ、ドレスの裾をひらりと揺らしながらずんずん近づいてくる。


 「フェリクス、お願いがあるの。いえ、お願いというより“任務”よ」


 任務? 嫌な予感しかしない。


 「昨日あなたが持ち帰った香り袋、あれが本当にすごいの。陛下だけじゃなく、侍女も侍従も、皆ぐっすりなのよ!」


 「……はあ。それは良かったですね」


 「とぼけないの! あれ、どこで手に入れたの?」


 「ルミナリア王国の……ランツという商人からです」


 「その商人、今どこにいるの?」


 「さあ……もう移動してるかもしれませんが」


 母上は顔をぱっと輝かせた。


 「なら、探して来なさい!」


 「え?」


 「探して、追加で購入してきなさい! 最低でも十袋、いえ二十袋は欲しいわ。陛下のためにも、王宮のためにも必要よ」


 二十袋……

 あの怪しい青年がそんなに持っているとは思えないが。


 「母上、僕は第二王子ですよ。こんな買い出し係みたいな──」


 「“第二王子”だからこそよ!」


 母上は胸を張った。


 「公式の訪問として、ルミナリア王国へ行けるのはあなたが一番都合がいいの。陛下はお忙しいし、皇太子である第一王子を買い出しには出せないでしょう。あなたしかいないのよ。」


 自然と言うより……

 完全に僕しかいないじゃないか。


 「それに──」


 母上はいたずらっぽく目を細めた。


 「あなた、また行きたいんでしょう? あの国に。“いい香りがする国に」


 「げほっ……!」


 飲んでいたお茶が危うく気管に入りそうになった。


 「なぜ知って……」


 「顔に全部書いてあるわよ?」


 ジルが静かにうなずいている。お前まで、だ。


 母上は僕の手をぎゅっと握り、甘く微笑んだ。


 「お願いね、フェリクス。陛下の眠りが戻ったのは、あなたのおかげなのよ。続けて助けてあげてちょうだい」


 それを言われると、断れない。


 「……わかりました。準備します」


 「まあ! さすが私の息子!」


 母上は子どものように喜び、出ていった。


 扉が閉まると同時に、ジルがぼそりと言った。


「殿下。これで決まりですね。ルミナリア王国行き、確定です」


「……だな」


 どうやら、あの香りに導かれるように──

 僕は再びルミナリア王国へ向かうことになるらしい。




 新年あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。

 いつも読んで頂きありがとうございます。

 次回は水曜日に更新予定です。

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