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聖女という名の魔女達  作者: 星降る夜
第1章 光のかけら

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2 やったあ!本に夢中


 今回は、ココがまだ小さかった頃のお話です。

 静かに積もっていった想いが、のちの彼女を形づくっていきます。


 私の記憶はこの町の孤児院から始まる。


 生まれてすぐ、この町の孤児院の前に捨てられていた――そう聞かされている。


 けれど、本当のことはわからない。

 私が覚えているはずもないのだから。


 孤児院の子どもたちは、六歳までに貰われていく。

 引き取り手のない子は、七歳まではそこにいられる。


 どういう基準で選ばれるのかはわからないけれど、

 養い手の人たちと子どもがそれぞれ魔石に手をかざすと、

 相性が良いときには同じ色に光るらしい。


 毎月十五日が孤児院の開放日。

 授業参観みたいに、養子を迎えたい人たちが見に来る日だ。


 けれど私は、いつも厨房のお手伝いにかり出されていた。


 授業の方には出られない。


 それでも――十五日が来るたびに、

 ーー胸がワクワクしていた。


 次は私の番かもーー


 いつ呼ばれるかな?

 今日こそ、誰かが私を見つけてくれるかも。


 けれど、結局一度も呼ばれたことはなかった。


 新人の先生にこう聞かれたことがある。


 “どうして、あなたの名前が名簿から削除されているのかしら?”


 私は首を傾げた。けれど、すぐにピンときた。

 ――ああ、そういうことだったのか。


 使い勝手の良い私は、七歳ぎりぎりまで働かせたかったんだ。


 神官様と院長先生が、私の方をちらちらと見ながら話していた光景を思い出した。

 あの時に、神官様と院長先生で私を神殿へやることを決めたのだろう。

 利害関係の一致、というやつね。


 ……一生懸命お手伝いなんてするんじゃなかった。


 養子に行った子たちが、身なりを整えて幸せそうに孤児院に来ると、

 それはとても嬉しい反面、どうしようもなく羨ましかった。


 七歳になると、神殿で魔力測定と適性検査が行われ、

 それによって将来が決まる。


 平民の多くは魔力が少ないから、

 そのまま奉公に出ることが多い。

 けれど、能力やお金があれば学校に通うこともできる。


 私は――七歳になると、鑑定もせずに、

 そのまま神殿に見習いとして送られることになった。


 逆らえるはずもなかった。

 鑑定、楽しみにしてたのにな……。


 神殿に来て待っていたのは、山のような仕事だった。

 唯一の楽しみは、わずかな休憩時間に図書室を使えること。

 そこには孤児院では見たこともないほどの本が並んでいた。


 本を読み、魔力操作を学び、私は少しずつ成長していった。


 不思議なことに、私は何の教育も受けていないのに、

 難しい本もすらすらと読めて、字も書けた。


 ――理由は、たぶんひとつ。


 誰にも言ったことはないけれど、

 私には前世の記憶がある。


 物心ついた時からだから、

 いつ思い出したのかはわからない。


 前の世界では、「日本」という国に暮らしていた。

 名前は――春香はるか心愛ここあ


 二人姉妹の長女。

 だけどその人生は、妹のために生きる日々だった。


 未熟児で生まれた妹は、体が弱くて、よく熱を出した。

 両親は妹にかかりきり。

 真夜中に発作が起きると、病院へ連れていく。


 そのたびに、私は真っ暗な部屋に取り残された。

 電気を消して眠るのが怖くなったのは、そのせい。


 母は「夜泣きがひどい子ね」と嘆いていたけれど、

 泣きたいのは私じゃなかった。

 ――あなたたちのせい、なんです。


 妹は学校でも体が弱く、よく保健室にいた。

 妹のランドセルを代わりに持って帰るのも日常だった。

 買い物の途中で妹がぐずれば、全部中止。

 夏休みの宿題も、提出物も、いつも私がやった。


 だから、妹の成績はいつも良くて、

 大学まで推薦で進学した。


 母の口癖は――

 「妹に比べて、姉の方はまったく……」。


 そんな人生の終わりは、二十歳のある日突然訪れた。


 駅のホームで、後ろから突き落とされたのだ。

 振り返った先にいたのはーー


 ……まさかの、妹。


 「やっといなくなってくれる」


 そうつぶやいて、笑った。


 あの瞬間、すべてを悟った。

 ずっと私が邪魔だったのだと……。


 私の人生は妹に振り回され続けた。

 両親も、誰も、私を見ていなかった。


 もし、あの世があるなら――

 今度こそ、誰のためでもなく生きたい。


 そんな願いが、私をこの世界に導いたのかもしれない。


 ……良いことなんて、一つも思い出せなかったけれど。


 それでも今は、少しずつ前を向けている。


 神殿での日々は大変だけど、

 本の世界が、私を支えてくれているから。


 いつか、人の役に立てればそれで嬉しいの。


 人生にはーー

 人の役に立てる喜びと、ほんの少しのユーモアがあればいい。


 私の人生は、まだ始まったばかりなんですもの!




 読んで下さって、ありがとうございます。

 次は明日の朝投稿します。

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