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HALLUCINATION  作者: 肝臓の残り香
ハルシネーション
1/2

ハルシネーション 表

この話は、表と裏の2部構成です。

警察の正義の表とその裏の闇の交差をお楽しみください


             1


 最近、ある1人の男がトンネルの前に佇んでいて気味が悪いとの通報があった。その夜、私と後輩は街の見回りのついでに、そのトンネルへ調査に行くことになった。街ではすっかり静寂が落ち、不穏な空気が私の頬をかすめる。腰のホルダーに拳銃を入れ、懐中電灯を持って交番を後にした。私は今回の件、なかなか興味深いと思っている。というのも、その通報主が近所でもなかなか怖がられている強面の元格闘技選手だった。彼は最近結婚し、この街に越してきたらしい。格闘技時代の彼はよくテレビにも出ており、今では芸能界で引っ張りだこの国内チャンピオンも彼を恐れていた時代があるんだとか。こんな最強の男が、たかが暗闇に立つ男1人に警察の力を借りるとは一体どんな奴なのかと気になっているが、後輩はあまり乗り気ではなかったようだ。

「なに不安そうな顔してるんだよ」

「先輩...だって、あの最強の格闘技選手、吉田が恐れる奴なんだろ?そりゃビビらない訳にはいかないっすよ!」

後輩の声は緊張しているのか、微かに震えていた。だが無理もないだろう。

だから私は、彼の緊張をほぐそうと、雑談をしながらそのトンネルまで向かった。


             2


 交番から、真っ直ぐ10分ぐらい歩き、銀行を左に曲がったところに通報主の吉田さんの家がある。その家の裏側には、昼でも辺りが薄暗い奇妙なトンネルがある。そこが今日のメインディッシュである。私は数々の事件に携わってきたので、特別恐ろしい事件では無さそうだったのもあり、解決の自信はあった。その場所へと向かっている途中、どこから湧き出てくるのか分からないがいつもと違う嫌な予感がした。なにか、感じたことない、これまでの事件にあった、どんなドス黒い空気よりも、どんなに静かな殺意をも超越する。自分に降り注ぐ「危ないなにか」が。その時、女性の悲鳴が付近一帯に響き渡る。後輩と目で合図をし、走ってその悲鳴の場所まで向かった。

悲鳴の在処は噂のトンネルの前だった。そこに今にでも逃げ出しそうに足を震わせている女性が1人いる。吉田さんの奥さんだった。

「け、刑事さんですかぁ...!?彼が知らない男に襲われているんです!早く助けてください!!」

奥さんが話を聞いている最中に、すでに銃のトリガーを指に引っ掛けていた。

そこには、トンネルの影で顔がよく見えないが知らない男性と吉田さんが取っ組み合いをしていた。その男性が、吉田さんの言っていた「男」だということがすぐにわかった。

「動くな!!」

そうトンネル内に叫ぶと影の中の男がこちらを振り返り、吉田さんのことを突き飛ばして腰についているホルダーから自身の銃を取り出す。その銃は、明らかに警察の物であり、どこから奪ったのかが検討もつかなかった。その一瞬。その一瞬だった。その一瞬の疑問に気を取られ、気づいたらトンネル内に銃声が響いた。自分は引き金を引く前に。銃弾の速さに追いつくことは出来なかったが、反射的にそのターゲットの方向へ目をやる。その銃弾のターゲットだったのが、後輩の胸と脇腹であった。


             3


私はその一瞬で脳内がパニックになる。それと同時に、激しい怒りを覚える。その怒りの感情が脳に直接伝わり、運動神経を通り、そして自分の右人差し指へ到達する。今度は引き金を確実に影の中の男へ向けて引いていた。3発打っていた。銃弾は、確実に影の男の体へ命中し、その男が倒れ込むと同時に胸ポケットから銃弾がめり込んだ携帯電話が地面に落ち、大きな金属音が反響した。

「吉田さん!逃げてください!!!」

すぐさま私はそう叫び、吉田さんを誘導した。吉田さんとその奥さんは2人でにげだした。私は静かに地面を見下ろし、体に2つの穴が空いたまま動かない後輩を見ながら涙を流した。そして少し悲しみにくれた後、私はその影の男の死体を探しにトンネルの内部へ入った。しかし、その男の死体は、どこにもなかった。

下にも、上にも、右にも左にも前にも後ろにも、死体なんてどこにも無い。1度引き返そうとトンネルの入り口の方向へ体を向かわせたその直後、突然影の男は現れ、私の顔に向けて殴りかかって来た。すぐさま私は相手の腕を掴み、その影と取っ組み合いをした。確かに感触はある。人であることに間違いはない。だがしかし、体が至近距離でも影のように黒くて見えない。目の前にいるというのに。そして左アッパーが決まり、トドメをさそうという本能がポケットから拳銃を出し、真っ先に相手の体へ向けて引き金を引いた。影の男の背後はトンネル入口であり、陽の光で急所がよく見えたためしっかりと狙えた。2発、相手の胴体に向けて発砲する。だが、発砲した銃弾は、目の前の男の胴体をまるで「居ない人」のように貫通していった。驚きはそれで収まらない。その貫通していった銃弾の行方は真っ直ぐと向かっていく。そして、何かに命中する。その命中した的を確認しようと一瞬目の前の影の男と目を逸らし、入口に目を向けた瞬間に男はトンネル入口に向けて走り去った。その時に気づいた。今さっき取っ組み合いをしていた相手。男がトンネルの外に出てわかった。あれは吉田さんだった。どうりで力の強いわけだ。

だがそんなことは今はどうでもいい。今から起こることに比べれば。なんとその銃弾の行方というのがさっき打たれたはずの、後輩の胸と腹だった。何故か、さっき撃たれたはずの後輩が立っていた。だが今、俺に撃たれた。さっき死んだはずなのに。そこから、後輩はゆっくりと倒れ込む。

「な、なんだよこれ.....どうなってんだよ...」

思わず呟いた。だが、考えさせる時間を今撃たれた後輩の隣にいる警官は与えなかった。張り詰めた空気の中、彼はすぐさま銃弾を私に向けて数発放ってきた。見事その銃弾は、私の胸に向かってめり込んで行く。そのうちの1発が胸ポケットに入っていた自分の携帯電話に命中し、地面に落下する。私はすぐに悟った。影の男の正体は、自分自身だった。そして途中で吉田さんと入れ替わった。途中どこかで。

その時、一瞬の出来事だったが、逃げたはずの吉田さんはトンネルの入口でニヤリと不敵に笑っていた。どうしてこんな状況で....笑っていられるんだ.....

そして、もう1人の生きている警官は今俺の後輩の死を確認したところでこちらへ銃を持って向かってくる。そこでまた悟る。

「来ては行けない」

言葉に出すより先に意識が遠のいた。

裏へ続く

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