ハルシネーション 裏
表の続きです。
少々重いのでお気を付けてください。
1
吉田さんは最近、2年間付き合った彼女と結婚した。そして奥さんと共に幸せな家庭を築いているそうだ。
家は、奥さんと一緒に吉田さんの住んでいた家で同居。だが、これから幸せを作っていくには少し家は狭かった。実はその奥さんはシングルマザーで14歳の息子を持っている「母親」だった。借金は無かったが息子に満足いく量のご飯を出せないほどの貧乏だった。だが吉田さんは、その全てを受け入れて結婚を望んだ。その新しい自分の14歳の息子も共に愛することを誓って。幸せな家庭は続いていくと思われた
事件は、結婚して2ヶ月後に起きた。
2
吉田さんの実の子ではないが、新しい息子。名前は翔太だ。翔太は今年に受験を控えている中学三年生で親が結婚と言って少し混乱と忙しさが混ざり、勉強にも手をつけづらくなった。新しい父親と聞いてありがちな考えは、そいつにいじめられるんじゃないかという妄想だった。漫画やドラマでよくある展開だが、現実でも起こり得る事態なので怯えていた。しかしそんな心配も杞憂に変わり、今では共に釣りに行ったり勉強を教えて貰ったりするほどの仲だった。来てから2ヶ月も経っていないのに。
父さんは本当に優しかった。殴ったり叩いたりしない。勉強もわかりやすい。不自由なんて無かった。
だがある日、俺は父さんに無理矢理接吻された。それは突然だった。本当に。だが、僕はその場から動くことはできなかった。あの体格の人間に逆らったら、今度ばかりは本当に殴られるかもしれない。そして父さんは、僕の耳元でゆっくりと囁いた。
「彼女と結婚したのは一目惚れだったんだ。私は一瞬で惚れてしまった。だが、惚れたのは君の方だよ。あいつなんかもうどうでもいい。」
3
僕の家の近くには古いトンネルがある。そのトンネルには僕にしか知らない秘密がある。それは「暗闇の中に居る男の影」だ。何を言っているか分からないと思うがトンネルの中に180cmぐらいの黒い影が佇んでいる。誰も居ないのに。その影は、人を殺す。僕はそこで人が殺されるのを見てきた。実際僕も殺された。その影は、人を無限に続く殺戮の空間へと誘う。
黒い影に殺されるには手順がある。
手順1 黒い影を殺す
黒い影に攻撃を仕掛けるだけだ。
手順2 トンネルの中へと入る
黒い影に向かってゆっくりと。
手順3 黒い影がもう一度現れたらまた殺す
これで完了。無限の殺戮の空間が完成する。時間軸はトンネルの周辺だけ何度も繰り返される。
どういうことか説明していこう。
手順1で黒い影に攻撃をすると、どういうことか黒い影があらゆる手段を使ってトンネルの中へ入れさせようとする。手順1だけならまだいい。だが、入ってしまったら終わりだ。また黒い影を殺すとその殺した黒い影は「自分」になっている。つまりナイフで黒い影を刺す。気づいたら自分は黒い影の立ち位置で自分のお腹にナイフが刺さっている状態になる。理屈は分からないがそこで自分は1度死ぬ。目覚めたらトンネルの中で黒い影を殺したところからスタートする。また自分は死ぬ。無限の空間。永遠に同じ時を彷徨い続ける。だが、助かる方法を僕は1つ知っている。それは、スタートしたと同時に他の人に助けてもらうことだ。他の人から見たら自分ともう1人の自分が格闘しているところの様に見えるらしい。だからそこで他の人が助けようと黒い影に攻撃を仕掛ける。すると標的が自分から自分を助けた人間になる。僕は殺される側にもなったし助ける側にもなった。だからもう知っている。ここへ父、いや奴を誘い出し無限の空間にて殺してくれれば一件落着だと思った。あいつは最近、僕のことを性処理に使うようになった。母さんにも多分暴力を振るっている。日に日に増えていく腕や脚の痣を見ればだいたい予想が着く。だが僕がされているこの事実を母さんは知らない。やはり新しい父親なんて信じられない。やはりここで殺すしかないと考えた僕は、早速実行に移った。
4
あいつはまんまと俺を助けた。携帯電話で予め俺はあいつを電話で呼び寄せ、トンネルまであと数十メートルのところで黒い影にナイフを刺した。あいつ自信、僕を失うとかなり痛いだろうと考えていた。そこが命取りだったのだ。あいつは無我夢中で黒い影に殴り掛かり、僕は腹の底から笑いながら走って逃げた。その時、あいつは携帯電話を落としていった。もうあいつと会うことは無い。人生で1番幸せな日かもしれない。
父さん。いや、もうあいつは父さんなんていう優しい人間だけが得られる称号を持つ資格は無い。このまま逃げれば赤の他人なのだ。あいつも歳だ。30年したら勝手に死んでくれるだろう。そしてもし誰も助けが来ず、何十年とあの体験を繰り返していたら生きる気力が勝手に無くなるだろう。もし助けられても自殺をする。もう敵はいない。あんなトンネル誰も使わないし肝試しに来るやつは全員追い払う。母さんも行かせやしない。
僕は家に着くと鍵が空いていることを確認し、中へ入った。母さんは必ず居る時に鍵を開けているのだ。居間に行くと、空気はやけにひっそりとしていた。葬式よりも暗い雰囲気に包まれたのは居間だけではなく、家の中全てだった。その空間に母さんの姿は見当たらない。よく見たら机に1枚の紙に書置きがしてある。
「愛する息子へ
少し買い物に行ってきます
すぐ帰ってきます
私は最近思うんです。もしあなたが父さんに真に愛されていないのだとしたら、私は彼と別れます。
あなたが今幸せではないのならば私に相談してください。
母より」
僕は、その時犯した自分の罪に罪悪感を覚えてしまった。最初から相談していればこんなことにはならなかったのか。だが、父さんは離婚を承諾してくれるのだろうか。
目が覚めた。母さんは夢を見すぎている。そんな簡単に離婚が完了するならとっくにしているはずだ。でも母さんは父さんを愛している。だから離婚はしたくないはずだ。もしかして母さんの幸せを奪っているのは僕なんじゃないか。ここで僕がわがままを言って離婚をすれば母さんはまた1人になって1人でお金を稼がなければ行けない。僕ももう受験生だ。いい高校に行って、バイトをして、いい大学に入って、母さんにプレゼントを買いたい。そう思うと涙がこぼれた。
いや、そんな感情に浸っている場合では無い。もしかしたら母さんはあいつを探しに行ったのかもしれない。
少し疑心暗鬼になる。俺はどうしたらいいんだろうか。
追いかけるしか方法はないだろう。その時、母さんが帰ってきた。
涙を流している僕を見て、ゆっくりと抱きしめてくれた。
僕が今まであいつに受けてきた悪事を俺は母さんに告白した。母さんは一緒に泣いてくれた。
母さんは俺に何度もごめんなさいと言った。
5
最終章
僕は決意した。今夜、あいつを確実に殺そうと。母さんの平和は僕が守る。決心して夜中の2時にスマホの目覚ましをセットした。マナーモードにしているので音で母さんが起きることは無い。布団の近くにキッチンから持ってきたナイフを置いておいた。
決着をつける。
肩が震え出す。それは目覚ましのバイブレーションだった。僕は起きるとナイフを持って起き上がった。ゆっくりと階段を降りると、母さんの部屋の前に着き、最後にさよならを言おうと扉を開けた。だが母さんは居なかった。僕は何が起きているのかを頭の中でスーパーコンピュータよりも早く理解した。母さんはあいつを探しに行った。それしか考えられない。駆け足で家の玄関を飛び出し、外に出ようとした時、ドアノブに手をかけたと同時に扉が開いた。遅かった。その隙間から、血がべっとりと付いた拳が見える。あれは血以外にありえない。そしてその拳が扉の隙間から生えて、僕のナイフを取り上げた。顔をあげることは出来なかった。やがて扉が全開となり、そいつのもう一方の手には長い髪の毛が握られていて、そこから下は見たことあるワンピースを着た人間だった。僕はその人物が誰なのかを理解出来なかった。いや、理解はしたが信じたくはなかった。目の前の大男はやがて口を開けて僕にこう囁いた。
「さぁ、邪魔者は消えた。翔太ぁ。父さんにこんなことをするなんて悪いやつだなぁ。そんな奴に育てた覚えはないぞ?お前もこれからお仕置だな。毎日」
僕は膝から崩れ落ちた。
この世は平和なんて存在しない。平和なんて頭の中だけだ。頭の中の幻覚に過ぎない。絶望した時にだけ現実を見せてくる。これも幻覚ならどれほど良かったことか。
人の正義は、逆に人をさらなる悪夢へと導くこともある。そんな皮肉をSFホラーにしてみました。まぁでもここまで極端とはいかないものの、そんな不条理が現実に蔓延っている事実。
しかし、まぁそんな日もあるさと開き直ってしまうことがなにより大切です。あなたは悪くないことが多いでしょう。
周りから白い目で見られたとしても、あなたの正義は貫いてください。ただしやりすぎは良くありませんが。




