第五話 実行
第五話です。
ようやく、作品の本質的なテーゼを表すんじゃないかという回になります。
毎日投稿が結構、ハードでゴールデンウィークが待ち遠しい・・・・・・
今日もよろしくお願い致します!
7
ベイカー・鈴はアルバイト先のコンビニで自分の祖母ぐらいの年齢の老婆と相対していた。
「それ、絶対に詐欺ですよ。私が代わりましょうか?」
「そんなはずないんだけどねぇ・・・・・・確かに息子の声なんだけど」
「最近、多いんですよ。この手の詐欺は? 代わりますよ」
そう言って、老婆からスマートフォンを受け取ると「もしもし、お電話代わりました。お婆さんがATMの操作に手間取っているので、代わりに操作したいので、手順を教えていただけませんか?」と応対した
そう、鈴が言うと、電話はぶつりと切れた。
「切れましたね? 息子さんの替える前の携帯電話に連絡したらどうですか?」
「そうなのかねぇ?」
老婆がその息子の番号にかける。
「あっ、博? 携帯変えてなかったの?」
スマホの画面越しに息子の大きな声が聞こえる。
人の良さそうな声音だ。
こういう、何も罪もない人を騙す奴が鈴は一番嫌いだ。
あとは騙される方が悪いと言って、弱者を口撃する輩もだ。
父親がイギリス人で、家がプロテスタントのクリスチャンなので、そういう弱い人間を見ると、どうにも心が痛む性分なのだ。
「お婆ちゃん、気を付けてくださいね? 悪い人は本当に容赦ないですから」
「ありがとう! お嬢ちゃん! このご恩は忘れないよ!」
「店長、警察に電話してくれませんか?」
「ベイカーは俺を容易に使うが、俺、店長だよ?」
「警察から表彰されれば、店の評価も上がるでしょう? 本部からもこういう人助けは推奨されていますし?」
そう言った、店長は笑いながら「分かった、分かった。警察呼ぶから。お婆ちゃん! 奥の事務所で待っていて! 警察呼ぶから!」と言って、手を振った。
「そんなことしなくても・・・・・・」
「こういう悪党は優しさを見せると、付け上がるの! 絶対に許さないことが処方箋!」
そう言って、店長がお婆ちゃんを事務所に連れて行く。
人助けをした後は気分が良い。
そのような爽快感に浸っていた時だつた。
「ベイカーちゃーん!」
コンビニに茶髪の端正な顔立ちをした、学生数人がやって来る。
「いらっしゃいませ」
こいつら、青川の学生か?
一部の学生はどこかで見たことがあるが、それにしても匂いが嫌いだ。
制汗剤の匂いはするが、かすかに奇妙な匂いがする。
はっきり言って、何かマズいもののようだ。
それと後は女の饐えた匂いだ。
恐らく、私のコンビニに来る前に何かをしたのだろう?
結鶴とは根本的に違う。
結鶴は制汗剤の中に知的さの中に隠れた、野性味を感じさせる、男として惹かれる匂いを感じる。
比べたくもないが、こいつらからは制汗剤の下から、饐えた匂いを感じさせる。
「この後さぁ? 遊ばない? 車は用意しているし?」
「お客様、困ります。そういう個人的な会話は・・・・・・」
「確か、野球部の浜野と楽しんだみたいだなぁ?」
それを聞いた、鈴は凍り付いた。
「大学日本代表の常連ショートの浜野。そいつとゴム付けないで楽しんでいたそうじゃないか? これ、ばらされたら、浜野、マジで評価下がるな?」
浜野とは大学一年の時に知り合って、野球部で一年からレギュラーを取った後に交際をスタートさせたが、あまりにも頭のキレが悪いことに辟易して、鈴の方から捨てた次第だ。
しかし、体付きはセクシーだった。
「後はさぁ? 文学部のさぁ、新人賞を取った作家の江藤いるじゃん? あいつとも、ゴム無しでやっているよね?」
何で、私の男性遍歴を知っているんだ?
江藤は大学在学中に文学新人賞を取るぐらいに将来を切望されている、若手作家の学生で、頭のキレは最高だった。
ただ、体付きが貧相で、鈴を満足させてはくれなかった。
結局は知性と力強さが揃った、男性が一番好きなのだと、鈴は痛感したが、それにしても、ゴムを付けないで行っていたことが学内でバレるのはマズい。
何よりも今後の芸能活動的に言えば、大打撃だ。
「何がしたいの?」
「・・・・・・ちょっと、話しようよ? バイト帰りにさ?」
そう言って、四人の内、三人が下品な笑いを浮かべる。
そして、三人がコンビニを出ていくと、気弱そうな学生一人が残っていた。
「ベイカー・・・・・・その・・・・・・」
気弱そうな学生が近寄るが、鈴はそれを睨み据える。
「出てってよ・・・・・・出てって!」
店内にはその学生達しか、客がいないから良かったものの店内で大声を出したのはまずいと言わざるを得ない。
「・・・・・・ごめん」
そう言って、気弱そうな学生は店外へと出て行った。
「ベイカー! どうした! また、何かあったか!」
「・・・・・・」
ベイカーは気が付けば、その場に崩れ落ちて、泣き崩れていた。
「ベイカー・・・・・・」
「何で・・・・・・こんな目に合わなきゃいけないの?」
絶望が胸の内を支配していた。
8
鈴はコンビニのアルバイトを終え、普段着に着替えて、外に出ると、学生達が「よぅ! ヤリたい盛り!」と声を掛けてきた。
「私を犯したら、事務所がマジで許さないよ?」
「そうかぁ・・・・・・そうだよなぁ? 有名人二人との逢瀬もいい具合に無かったことにするぐらいの百戦錬磨の広報力だからなぁ? でもさぁ、俺、政治家の息子だから、そんなのを凌駕するぐらいに百戦錬磨なんだよね?」
気が付けば、大雨が降っていた。
薄着のTシャツはずぶ濡れになり、鈴の下着は見える形となっていた。
「意外と、胸大きいんだよなぁ? 華奢なくせに?」
「おい、始めようぜ? この場で」
「野外も良いよな? ずぶ濡れで? そうだなぁ? そこの路地裏行くかぁ?」
そうして、三人の学生に囲まれて、胸や下腹部を触られながら、新宿の路地裏へ連れていかれる。
「止めてよ・・・・・・止めて」
「止めてくださいだろう? メス豚ぁ!」
そう言って、学生の一人が鈴に平手打ちする。
「ツッ!」
鈴は学生を睨み据える。
「気が強い女を無理やりに玩具にするのは趣味でねぇ? 楽しもうぜ?」
学生がそう言うと「止めろよ」と気弱な学生が言い放つ。
「・・・・・・晴斗、てめぇ、何様のつもりだ?」
「お前もベイカーのこと好きだろう?」
気弱な学生は「そっそっそっ、そんなの好きな女の子にすることじゃないから・・・・・・」口ごもると、学生たちは同人をリンチし始める。
「何、正義の味方みたいな事やっているんですかぁ?」
「弱えぇ、ヒーロー気取り。どうする? 刻む?」
「親父に頼めば死体処理ぐらいは頼めるだろう? 手始めに殺すか?」
ここで逃げれば、良かった。
だが、それは自分の中で神の道に逸れる事なのだと思えた。
気が付けば「止めて! 仲間に暴力振るうなんて! 何なの、あなたたち!」と言って、睨んでいた。
「安心しろよ。お前で遊ぶのは不良品の処理をした後だ」
こいつら・・・・・・腐ってやがる。
私はこんな連中に良いように犯されて、殺されるのか?
嫌だ、そんなの。
私には夢がある。
それをこんな奴らの欲望を満たす為だけに台無しにされるなんて・・・・・・
すると、そこに靴の足音が聞こえる。
「靴?」
どんな種類なら、このような音が聞こえるのだろう?
確かなリズムを持って、こちらに迫って来る。
「おい、早く、楽しもうぜ?」
「あぁ、玩具が大量にあるからなぁ?」
「玩具はお前らだ」
黒づくめの男達が学生達に近づく。
「あんた? 何?」
「殺すよ? マジで? 邪魔しないでくんない?」
学生達はナイフを取り出す。
正気じゃない、こいつら!
お願い、誰かは分からないけど、逃げて・・・・・・
そう思った時だった。
そう言って、男は手から何かの物体を取り出す。
「えっ?」
大きな音が聞こえた。
銃声だ。
学生の頭から、脳みそが飛び散る。
「えっ・・・・・・文也・・・・・・・」
「嘘だろう・・・・・・何で! 何で!」
「何で・・・・・・人殺しだぁ! 助けてぇ!」
学生たちはパニックに陥る。
「お前らを処刑しに来た」
そう言って、男は二人目の学生に銃口を向ける。
「止めて! 何で! 何で! 俺がぁ!」
「地獄に落ちろ、不良品」
二人目の学生の脳みそも飛び散る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 俺が何したって言うんだよぉ!」
「たった今、不貞行為を犯そうとしていたのによく言うよ」
「うっ・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
三人目の学生が逃げようとするが、男はその場から動かずに拳銃を構えて、その場で撃ち、三人目の学生はその場で倒れた。
ここでも、脳みそが飛び散るのを確かに見た。
「あぁぁぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁぁ!」
気弱な学生が体を震わせながら、全身ライダースーツで黒のヘルメットを来た、男を畏怖の念で眺める。
「あなた・・・・・・誰?」
鈴のその一言を聞いているのかどうかは知らないが、男は全力疾走で、その場を去った。
鈴はそれを追いかけようとするが男はバイクに乗って、どこかへ行ってしまった。
「何だよ、これ・・・・・・人を殺すなんて、こんな・・・・・・こんな!」
気弱な学生はパニックに陥っていた。
「今すぐ、警察を呼んで。殺人事件よ」
鈴はすぐに毅然とした態度で気弱な学生にそう言い放った。
あの黒づくめの男は命を助けてくれた。
だが、人殺しは大罪だ。
しかし、懸念が一つある。
雨の中でかすかにしか、匂わなかったが、制汗剤の匂いと知的で野性味の溢れる、あの匂い。
そして、声が似ていた。
そんなはずはない。
あの殺人犯が秋山結鶴であるということなど。
鈴は雨の中で殺人犯が通っていた、道を眺めていた。
「あなたは誰?」
鈴は心の底からそう思っていた。
続く。
次回、第六話 事件後
明日もよろしくお願い致します!