2、家を建てよう?家を作ろう!
「ん、んー!グレイク⁉︎」
「リアメル起きたか?」
「あれ?私いつの間に眠って、ずっとこうしててくれたんだ、疲れてない?」
気がつくと、大きな樹の根元でグレイクの胡座の上に横抱きにされ、眠っていた。
そうか、昨日…私は王子に断罪され、死の森に捨てられたんだ。
あれ⁈でも飛び立って…途中からの記憶がない?
不思議そうな顔をしていたのだろう、バツの悪そうな顔をして「悪かった、まさか気を失うとは思わなかったんだよ。」との言葉に何となく昨日のことが蘇ってきた。
「あー思い出した。グレイク…あれはダメだと思う、あんなアクロバット飛行を生身で体感とか…私、高所恐怖症になるかも」
「ア?アク?イヤ子供の頃はスゲー喜んでたし…リアメル大丈夫だって言いながら、元気なさそうだったから…喜ぶかなって」
「ぷっ。グレイク!ありがとう。気を失ったおかげで目覚めはスッキリよ。それにずっと守ってくれていたのね。私なら大丈夫!全然元気よ?」
正直言うと、奴らに盛られた薬の後遺症だろうか?頭が痛かったのをグレイクはショックを受けていると勘違いしたのだろう
でも、あのままこの場所に着いていたら、環境の変化に眠れていたかは分からない、これだけスッキリとした目覚めはグレイクのおかげだが、あのアクロバット飛行は死ぬかと思った。
でも、グレイクの優しさはとても嬉しいけど、薬の事がバレたら、仕返ししそうで怖いから、絶対に言えない。
「さてと、グレイク水場に行きたい。顔を洗って朝ご飯にしましょう。」
「あぁ、見て驚くぞ!この樹の裏側だ。」
今見えるのは高くそびえる崖だ、大きな樹の窪みで周りの様子は伺えなかったが、微かに水の音が聞こえていたので水場があるのだろうとは思っていたのだが、窪みから出た瞬間水の音は大きくなり、樹の反対側には声を失う程の光景が広がっていた。
グレイクはイタズラが成功した時のような笑みを浮かべ、まるで子供のようだった。
3000歳超えてる癖にその若々しい見た目はなんなんだ!
「ククク、気に入ったか?壮大な景色だろう?」
「うん!凄い!凄いわ、グレイク!岩山の反対側にこんな景色があるなんて思わなかった!」
山頂から流れ出る滝の下には綺麗な湖、そこから流れる川はまた滝になっており、その下に広がるのは美しい森だけ、あれ?でも此処から私達人間の住む場所が確認でき無いのは何故だろう?
「グレイクここから私のいた国は見えないの?」
「何だ、お前のいた国が見える場所で暮らしたかったのか?ここは森の中心部で大抵のものは辿り着けないような特別な場所だ。気に入らないのか?」
「ううん。そうじゃなくて、こんなに高い場所から見渡しているのに人の住む場所が全く見えない事が不思議だったの。でもこんな素敵な場所に住んでも良いのかしら?」
「構わん、見えないのはこの森の至る所に結界が張り巡られているせいだ。さぁ飯を食ったら家を作るぞ!お前達人間は家がなければ生活できないだろ?それにいつまでもこんな場所でドレスはな」
「あっ………そうだった。ねぇこの湖って水浴びしても平気かしら?平気ならグレイクは念の為、何か来ないか向こう向いて見張っていて欲しいんだけど」
「その湖は安全だから大丈夫だが、風呂を作るまで我慢できないのか?まぁいい、水が冷たいから、さっと済ませろよ」
そう言い残し、少し離れた場所へ向かう途中魔法の気配を感じたのは、目隠しの為に結界を張ってくれたらしい。
私はドレスを脱ぎ浄化魔法をかけ水に足をつけると、湖の水は冷んやりしてとても気持ちが良い、浄化魔法が使えるのなら水浴びなど必要は無いんだけれど、昨日運ばれたり、押さえつけられた事などを考えると、どうしても洗い流したかった。
体を清めていると、ズキリとした痛みに、昨日の縛られた痕の事を思い出し、治癒魔法を全身に巡らせるが、治癒魔法は繊細な魔力操作が必要な為、今まで魔法が使用できなかった私には少し難しい。
でもこれだけ薄くなれば、時間を空けて後1、2回治癒魔法を流せば完全に消えるかな?家を出て暮らして行くのであれば積極的に練習していかないとこれからは困るよね。
水浴びを終え、アイテムボックスから冒険者用の服を取り出し、着ていたドレスは本当は処分したかったけど、ゴミの問題があるので街に出た時にでも売ってしまおうと思い、浄化魔法をかけ収納した。
「グレイクお待たせ、ありがとう。」
「お前は…また髪の毛が濡れたままじゃ無いか!もう魔法を制限することも無いんだ、しっかりと乾かさないと風邪を引くだろ!」
グレイクはそう言いながら髪を乾かし、そのまま綺麗に髪を結い上げてくれた。
グレイク凄い!風で髪を結い上げてくれるなんて!と感心していると「おい、リボンよこせ」と言われ、リボンまで結んでもらった。
「凄い!上手ね。グレイクはご飯どうする?」
「お前の小さい頃はよく髪を直してやったのに覚えてねーのか?あー俺はお前の作った物以外は食わねーぞ、お前だけ食えよ。人間は食わねぇと生きてけねーんだからな」
「イヤイヤイヤ直すのと結い上げるのはちょっと違うでしょ。じゃーグレイクにはコーヒーを淹れるね。」
敷物、野営調理器具を取り出し、湯を沸かしコーヒーを2人分淹れ、グレイクはブラック、私はミルクと砂糖を入れカフェオレにした。
私のマジックボックスに入れた物は時間停止の効果がある為、取り出せば出来立ての味、料理長から昨日、3ヶ月分×2名分の野営の食料を受け取り収納してあるから、暫く食べ物の心配はいらない。
「グレイク、森の木は切っても大丈夫なのかしら?家を建てるとなると、かなり切ることになってしまうわ」
「あー、木は必要がないな。もう食い終わっただろ?リアメルの魔法の練習も兼ねて家を作るからほら、ここ片付けるぞ」
「う、うん。でも私、細かい作業はまだ得意じゃないわよ?」
「だから練習するんだろう?心配するな、お前にならどの妖精も喜んで協力するさ。自信持てよ、今まではお前が悪いんじゃない、人間が軟弱なだけだ。」
「グレイクいつも言ってるけど、私も人間だよ⁈」
「あぁ、俺にとって、お前だけが特別だ。」
グレイクの案内で崖に近づくと、洞窟の入り口が見えて来た、まさか洞窟暮らしを考えているのか?と言う不安は中に入ってみると無くなった。
入り口を入って少し通路を進んだー先は20畳程のスペースになっていた。
「ここはキッチンやダイニングスペースにすればいい。後、必要なのはトイレ2箇所に、風呂と寝室がメルと俺各一部屋ってもんか?ほらメル、壁に手を当てて水脈を探してみろ」
「そ、そんな急に言われたって、」
壁に手を当て、目を閉じ意識を集中するが、よく分からない…壁を伝って歩くと一箇所ひやりとする場所があった。
そこに意識を集中させると、うん間違いない、下から上に水が上っているのを感じるわ。
グレイクの指示によりアイテムボックスからキッチンを取り出すと、グレイクが水脈と蛇口を直結されてくれた。
「さぁ〜てこれで後は排水をっと」
「えぇ!グレイク指が地面に刺さっってるわよ!」
「へへっ、 メルちょっと手を貸してみな」
グレイクに言われた通り手を差し出すとグレイクの開けた穴に指を差し込むよう言われ、差し込むと、あの辺りにトイレあの辺りに風呂を作るからそれらを繋げるようイメージしながら風を送り込むよう言われた為、排水管をイメージし3箇所から水が流れやがて1本の排水溝に流れ出すよう掘り進める。
グレイクは地面に手をつけ確認してくれているようで全てを繋ぎ合わせた所で止めるよう声がかかった。
「メル上手いじゃないか後は俺に任せろ、ここをこうしてっと、これで大丈夫だ。さて排水は準備できたから乾燥スライムを5匹くれ。それからトイレと風呂、後は洗面台3つ用意しろよ」
「う、うん。ここがトイレでここがお風呂でいいんだよね。」
アイテムボックスから次々と取りだすとグレイクが壁に手をかざし、風で石壁を削り、トイレや浴室になるであろうスペースを作り出し、洗面台や浴槽を取り付けてゆき、あっという間にトイレと浴室は完成した。
「さてと、先に一階の扉だよな。布でも垂れ下げるか」
「待って!待って!どうしてそこだけ雑なのよ!一番恥ずかしい場所じゃない!」
「冗談だ。そう怒るな。ここに魔力を流し込んでみろ、そうする事で扉が開け閉め可能だ。中に入って魔力を流し込めば外からは開かないから安心して使うといい」
うわっ!くり抜かれた石の壁が風魔法でピッタリと閉まった。
石を引きずる大きな音などもせず、まるで自動ドア、と感動していると2階を作って来るから家具を設置しておくよう言われた為、壁の所々を半円にくり抜き光魔石の設置やお風呂場の石鹸置き場を用意しながら水回りの確認も行なった。
そして重要なのはトイレだ!私はこの世界のトイレにはとにかく衝撃を受けた。
便器の下のタンクは床下に埋められるのだが、タンクの中にはスライムが入っていて汚物や紙類は彼等が跡形もなく処理してくれるのだ。
乾燥スライム2匹を水で戻してタンクの中に入れてと、後は防音魔法を施してトイレはこれで良しっと、次はキッチンに食器や調味料を置く棚とリビングの壁には本棚を作って、床を一度掃除してから家具の配置ね。
「おい、そろそろ日の暮れる時間だ。今日はもうお終いだ。休憩するぞ」
「えっ!もうそんな時間なの?日の光が入らないから、つい夢中になっちゃった。じゃー食事の準備しようかな」
「イヤ、携帯食で済ませたら良いだろ?明日から作れるようなら作れば良い。此処でメルの行動に文句を言う奴は居ないんだ、のんびり過ごせばいい。」
「そっか、それもそうね。じゃーベッドだけ2階に出したら少し早いけどご飯にしましょう。グレイクはお酒にする?グレイクの好きなナッツ、邸からたくさん持って来てあるし」
「そうだな。久しぶりにのんびりしよう。そうだ風呂の準備を済ませて夜空の散歩もいいな。」
「うわぁ!行きたい!あっ、でも穏やかによ、穏やかに!今日も気を失って眠りに落ちたくないわ」
「ああ。気をつける」
死の森2日目の生活はとても充実した1日だった。
王妃教育にマナーレッスンなど、幼い頃から公爵家の令嬢としての振る舞いを身に付ける為、常に人の目に晒されながらの生活を送ってきた私は、時間も気にせず何かに没頭した事なんて無かった。
このまま気ままに生活するのも良いかもしれないと言ったら、グレイクに食事を忘れる奴は死ぬ可能性があるから、ある程度時間を気にしないとダメだと言われてしまった。
1食ぐらい忘れたからって大袈裟な、グレイクの中で人間はどれだけ軟弱な生き物なんだか。
明日からは家の中に荷物を出して、それが終わったら森の中に散歩に行きたいなぁ。
でも国外追放される事を考え、家具を揃えていた甲斐があったわ、でもまさか洞窟の中に暮らすとは思っても見なかったけどね。




