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さて、一服。  作者: ろうや
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タバコでどこまで強くなれるのか!?

主人公タクは24歳ニート。しかしある日、あることがきっかけでタクの体が突然変化する!

さて一服。



とある大国で起きた経済危機は、俺の財布を直撃した。サラリーマンのリストラ、就職難。こういったものは当然として、まさかすでにニートである俺の元までその影響が訪れるとは思いもしなかった。大海の向こうで起こったその波は海を渡りながら力を増し、俺に直撃した頃には、俺の給料を3万ほど流し去ってしまった。時給が下がったことに加え、非正規雇用の急増が、ニートである俺からさらに職を奪ったのだ。嗜好品の値段はみるみる上昇し、缶ビールはロング缶一本600円、さらに俺のビタミン剤であるタバコはついに4桁の大台を突破。先日1200円になったばかりだ。強い経済なんて言葉を言った人がかつてはいたようだが、経済なんてものはとてつもなく弱いものなんだと俺は実感した。

なんとか今月も明日が給料日というとこまで来た。明日の朝になると、銀行口座に給料が入っている。俺は楽しみすぎて、なかなか寝付けないでいた。日付が変わる。あと、7時間もすれば、金が手に入る。そしたら大好きなタバコを買いに行こう。寝ていれば一瞬のうちに幸せの瞬間へ辿り着ける。そんなことを考えていると、一層目が覚めてきた。大切に残しておいた最後の一本を口にくわえ、俺はベランダに出た。

最後の一本は、吸った気持ちになろうと、これまで何度も加えたため、少し湿っていた。しかし、今回は火をつける。なんてったって、朝には次が手に入るのだから。

カチッ。カチッ。ライターの調子が悪い。それも仕方ないいつ買ったかわからぬようなものだ。しかし、今はライター一つ買う金がないため、俺は祈りながら何度も火をつけようと試みた。

思う念力岩をも通す。人間の気持ちとは素晴らしいものだ。弱々しい日がついた。それをタバコの先に近付ける。吸う。言い表すことのできない素晴らしい香りが口の中いっぱいに広がった。渇いた大地に水が落ちたように、あるいは油を含んだ布に火が広がるように、タバコの香りは俺の体内に染み渡った。やはりこれがないと生きていけない。これは俺のビタミンだ。なんてことをいうと、どこからとなく声が聞こえてきた。

「はー。タバコもいいがちゃんと飯を食っとくれ。こんな体じゃいざという時何にもできん。」

背中を向けている部屋の中から聞こえたような気がして、慌てて振り返った。

「さぁもう一息。 もう一度思いっきり吸ってくれ。」

今度は左側から聞こえてくるような気がした。左をみたがそこには誰もいないそれも当然。俺の部屋は角部屋だ。左を振り向いても、真っ暗なそらと、となりの民家の屋根が見えるだけだ。

「おいおい。早くしてくれ、動きたくてうずうずしてるんだ。」

この時俺はとんでもないことに気づいた。その声は俺の体内から聞こえてきているではないか。

「さぁ早く。」

訳も分からず言われるがままにタバコを吸う。

すると次の瞬間、体が内から破裂しそうな感覚がした。そして腕はいつもよりひとまわりもふたまわりも大きくなり、肩幅も広がり、来ているシャツのボタンははちきれそうになった。まるで格闘漫画の主人公である。腕を見ると血管が浮き出て、筋肉の起伏が現れ、どこで付けたかわからない古傷が現れた。

「何?これ?」

虫にでも刺されたかと思ったが、そんなわけあるまい。そんな虫がいたら世紀の大発見である。ファーブルもびっくりだ。

慌てて部屋に入り鏡を見た。そこに映っていたのは、幾多の戦場をくぐり抜け強敵を倒してきたかのような、鍛え抜かれた体が映っていた。俺は一子相伝の拳法でも手に入れたのであろうか。

瞬きをして目をこすり、改めて鏡を見る。しかし、そこにはやはり、筋骨隆々とした体が映っていた。

「おー。ようやく体が戻った。」

また先ほどの声が聞こえてきた。

「おい。お前誰だよ。」

俺は鏡の中の自分に話しかけた。

「あー。すまない君。私は少し君の体を借りているもので、宮木武蔵というもんだ。」

「体を借りる?」

俺は全く事情が飲み込めない。突然、剣豪の偽物みたいな名を名乗るやつに体を借りたなんて言われて信じるものがいるだろうか。いたらその思考の柔軟性と素直さを褒めてやりたい。

「だからよー。訳あって君の体を借りているんだ。」

またあの声が話し出した。

「俺はの体は燃やされちまったが、魂だけ君の体の中で生きているんだ。そして以前から気になっていたんだが、君がタバコを吸う度に、体ごと君に乗り移っているようなかんじがして、まさかと思ったらこの通りだ。」

声の主はのんきに話しているが、俺には途中から全く聞こえてなかった。

「俺の体がなんだって。。。」

「いえば君と俺は体を共有しているのだ。」

「。。。」

完全に俺は思考停止した。しばらくの沈黙ののち、頭のどこかのパーツがうまく噛み合ったのだろうか、あるいはサビが突然取れたのであろうか。とにかく頭が働いて、おおよそ事態が飲み込めた。そして

「んなことあるかー!」

次の瞬間にはこう叫けばざる得なかった。


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