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さて、一服。  作者: ろうや
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剣豪宮木武蔵

剣豪の宮木武蔵


時計の長針と短針が出会い、1日の始まりをひっそりと告げた頃、月は雲で覆われ、真っ暗な夜空には星一つなかった。そんな静かな夜の住宅街に、俺の声は響き渡ったであろう。この散らかった狭い部屋から飛び出ていった声がご近所さんの快眠を邪魔しなかったか気がかりだ。


「そんなのありか?俺の体を借りているだと?」

「その通りだ。俺の体はもう使い物にならんのでな、暇そうな君の体を借りた。どうやら、お勤めもないようだし、問題ないだろう。」

まさかこんな胡散臭いやつに、ニートを指摘されるとは。。。それはさておき、体を貸すという事態をなんとか理解したとして、確認したいことがあった。

「よ、よし。お前は俺の体を借りている。納得いかないが、なんとか理解しよう。そこでだ、まさかこの体が、お前の意思通りに動いたりするのか?」

「分からん。試してみよう。」

宮木武蔵がそう言うと、俺は体全体に力が入るのを感じた。肌が裂けそうになる程血管が浮き出る。胸筋が盛り上がり、シャツのボタンが飛んだ。このまま髪の色が変わって、逆立ち、全身はオーラをまといそうだ。

しかし、これほど力が入ったにもかかわらず、右の腕が、少し上がっただけだった。

「ぷはーぁっ。これが精一杯のようだ。」

俺は宮木武蔵のこの言葉を聞いて安心した。どうやら体が完全に乗っ取られているわけではなさそうだ。

一安心したおれは、大きくため息をついて、ベッドに腰掛けた。体のせいか、腰を下ろした時の音がいつもより大きかった。

「で、あんた何者?」

とりあえず、宮木武蔵と名乗るこの胡散臭い男について知る必要があった。悪いやつに体を貸すわけにはいかない。

「先ほども申した通り、宮木武蔵だ。剣に生きる漢だ。」

話し方から、なんとなく悪いやつではないことは伝わってくる。しかし、頭は悪そうだ。

「剣客か?いまどき。その名前は宮本武蔵に憧れてか?」

「宮本武蔵?誰だそいつは?俺ののこの名は、亡き祖父、宮木杢右衛門に授かったものだ。祖父杢右衛門は若くしてオークラ国の剣術指南役となられ、天下無双の猛者として、知られた方で」

「あー。はいはい。杢右衛門ね。」

まったくわけがわからない。しかし、こんな状況になってしまうと、こんなわけのわからない中2的な話しも信じるしかないだろう。宮木武蔵の話しが面倒くさい話になりそうなので、途中で遮ったが、俺はこいつの言っていることを仕方なく信じることにした。

「それにしてもその名前で宮本武蔵を知らないってのはないだろう。」

「本当に知らん。」

宮本武蔵を知らずに宮木武蔵と名乗るとはなかなか間抜けな野郎だ。俺は思った。

「なあ。まさか、よくあるアニメや漫画みたいに『いっしょに俺の体をを探してくれー』なんて言わないよな?そんなのごめんだからな」

俺は頭によぎった不安をとりあえず払拭したかった。ここから、こいつの体求めて大冒険なんてごめんだ。

「だから、さっきも言ったように、俺の体はもう燃えてしまってないんだ。探そうにも探せぬ状況だ。」

「そうかなら良い。というかいまどき剣術指南役なんて、お前がいた国はいったいなんなんだ。時空の歪んだ国か?」

「何を言っている?この力こそが全ての時代に剣をとらぬことがあるか。むしろ君がいるこの国が平和すぎるんだ。」

「確かに日本は平和だな。けれども力こそが全ての国なんて聞いたことないぞ。なんて言ったかな。お前の国?オー、、、。」

「オークラ国だ。君は我がオークラ国を知らないのか?」

「オークラ国?聞いたことないぞ。社会の授業でも習わなかった。」

「むむっ。変なやつめ。我がオークラ国を知らぬとは。教えてやろう我がオークラ国は、500年前、商人として砂漠をさまよっていたシムール様が、、、」

「あーはいはい。もう良いよ。長くなりそうだし。」

「話をちゃんと聞け。シムール様はのちに初代国王になられる方で、、、」

「シムールだかシムラだか知らないけど、そんな大昔のやつの話は良いよ。話すんだったらお前のことを教えてくれ。これからこの体を共有することになるんだから。」

「ふむ。そうだな。君と僕は兄弟よりも固い絆で結ばれた相棒になるのだな。」

「いや。そこまではいってないけど」

頭が悪いというか少し変わったやつらしい。俺はこの宮木武蔵という男をそう捉えた。

「俺はオークラ国、王家に使える剣客で、いつもは次期国王であるアリカ様の警護にあたっていた。しかし、紆余曲折あって今はこのようになっている。」

「あの、その紆余曲折が知りたいんだが。。。」

「・・・」

宮木武蔵は黙り込んでしまった。

「まぁいいよ。初対面だし、言いたくないこともあるだろうからな。気が向いたときに、話せることだけでも話してくれ。」

俺はそういって、ベッドで横になった。体を燃やされたと言っていたくらいだから、相当な事があったのだろう。そこに切り込んで言った俺も、無神経だったのかもしれない。俺は布団にくるまると、宮木武蔵を小馬鹿にしていたこと、初対面なのに、無神経な質問をしてしまったことを反省した。タバコの効果が切れたのか、もう体は元に戻っていた。やはり、この体の方がしっくりくる。

「すまない。」

しばらくの沈黙の後、宮木武蔵はぽつりとそういった。そしてまた沈黙が訪れた。

それからしばらくして、宮木武蔵がこう切り出した。

「そうだ、君と俺はこれからまさしく一心同体だ。俺のことは武蔵と呼んでくれ。」

宮木武蔵の声色は元どおり元気なものになっていた。その調子を聞いて、一安心した俺は、宮木武蔵の呼び方について考えてみた。武蔵と彼を呼ぶのは、かの剣豪宮本武蔵に失礼な気がした。だから、

「宮木にしとくよ。」こう答えた。

「宮木。」

「なんだ?」

「お前のせいで服、一着台無しだ。」

「・・・。すまぬ。」


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