エピローグ+β。
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「あの…すいませ〜ん‼︎」
…私はネットカフェの受け付けで店員さんを呼んだ。
…出て来たのは孝明さんじゃなかった。
…その店員さんに孝明さんの事を尋ねたら…
…彼は1週間前に辞めていた。
…私は中に入り、例の小説にアクセスしてみたが…
…あれから更新されていない。
…孝梨 志穂…
…ちゃんと彼らの名前が入っていたのに…
…どうして気付かなかったんだろう。
…私は彼の家に向かった。
「…………孝明さん?」
…彼の部屋のドアが開いていた。
…なのに呼んでも返事が無い。
…しばらくすると、孝明さんが出て来た。
…スーツの男性と一緒に。
…彼は頭を下げ、男性に鍵を渡した。
「…涛生⁉︎」
…階段を降りた時、彼は私に気付いた。
「…引っ越すんですか?」
…今見た光景が、部屋の引き渡しだと思ったから…
…彼は頷いた。
「……親父から電話があって……仕事を…手伝って欲しいって…。」
…そっか…孝明さんのお父さん…社長だったもんね…。
…でも…
「…それで黙って行っちゃうんだ。」
「……ごめん……。」
…彼は少しの間の後、一言そう言った。
「…サヨナラも言えないなんて、余計…寂しいじゃん。」
「…そうだよな……ちゃんと言わなきゃいけないよな。」
…彼は悲しそうに笑った。
…彼にとって、この街は悲しい思い出が多過ぎるから…。
「……孝明さんに聞きたい事があるんです。少し時間いいですか?」
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…私達は、すぐ近くの公園に来ていた。
「…聞きたい事って?」
ベンチに座った孝明さんが尋ねた。
「孝梨 志穂の正体…。」
「…………。」
…私がそう言った瞬間、孝明さんから笑顔が消えた。
「…あの…私やっぱり……」
…また辛い話になるかもって思ったら、聞いちゃいけない気がして……
「……いや、……聞いて欲しい。」
…彼は自販機でジュースを買った。
「はいよ。」
「…あ…ありがとうございます。」
「…孝梨 志穂……孝明の【孝】と、梨子の【梨】……後は母親の旧姓、浦星をひっくり返して【シホ】。…漢字は当て字だ。」
「…じゃあやっぱり、2人で孝梨 志穂だったんだ…。」
…彼は首を振った。
「…小説を書いたのは妹だ。俺はアイツの小説を読んでただけ…。」
…それから…
…梨子さんの夢を聞いた。
…彼女は孝明さんに嬉しそうに話していたそうだ。
…でも…
…彼女はもう…
「…俺に出来る事は、これぐらいしか無くて…」
…孝明さんは、梨子さんの夢を叶える為に、ネットの小説家になった。
「…孝明さんがネットに載せてくれたおかげで、私は梨子さんの小説のファンになって…孝明さんとも仲良くなれた。」
「…それ…梨子が聞いたら喜ぶだろうな。」
…孝明さんは空を見上げた。
「孝明さん…あの小説の続きは……?」
「…もう無いんだ。」
…梨子さんの最期の小説は未完成のままだった。
「…孝明さんが続き…書いてみたら…」
「…俺には出来ない…。梨子が何を書きたかったのか…わからないんだ。」
…彼女が書き溜めた物は全て出し尽くした。
…未完成の物語の途中まで。
…あの物語のラストは、梨子さんの頭の中で描かれて…
…もう誰も知る事の出来ない結末なんだ。
…彼は目に涙を溜めていた。
「……梨子さんとの思い出……いっぱいあったんだね……。」
「……涛生まで泣く事ねぇだろ!……」
「……えっ?」
……いつの間にか涙が流れていた。
…ううん…本当は悲しくて堪らなかったんだ。
…孝明さんはもっと…
「……向こうで落ち着いたら連絡する……そしたらまた会ってくれるか……?」
…彼は目元の涙を指で押さえた。
「うん!」
…私は精一杯の笑顔で頷いた。
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…孝明さんと別れた後、私はあの場所へ向かった。
…狂也がいるかもしれない唯一の手がかり…。
…あの廃虚へ…
「…えっ…⁉︎」
…思わず声を上げた。
…そこには、あの廃虚は無く…
…ただの空き地が広がっていた。
…そこにもう1人…
…呆然と空き地を見ている少年がいた。
…中学生ぐらいだろうか?
…風呂敷で梱包された小さな箱を持っていた。
「…こんなの…無かったよね?」
「…うん。」
…少年の問いに、私は頷いた。
…私は廃虚が見えなくなった。
…けど…
…あの少年には何も無い空き地の場所に、何かが見えている。
「和馬…早く来なさい。」
…遠くで黒スーツのおじさんが声を上げた。
…少年は、黙って私の傍を去る。
…私は、少年の後姿を見ていた。
…黒スーツの男性と、喪服の女性…。
…あの少年の家族が亡くなった…。
…淡々と…
…でも寂しい後姿。
…ねぇ狂也…
…あなたは死んでしまったの?
…それとも…
…私には見えなくなってしまったのかな?
…会いたいよ…
…狂也…
【Next→仮面β】
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…突然猫が…‼︎
「うわっ‼︎‼︎」
「…ってぇ…………」
…猫を避けた俺は転倒した。
…肘と膝を擦り剥いた。
「…何見てんだよ。」
…猫が俺を睨み付ける。
…俺はゆっくり起き上がった。
…本来なら…
…起き上がった俺は、まっすぐ家に帰るんだろうけど…
…何故か…
…足が止まった。
…猫が乗って倒れたゴミ箱から…
…出て来た。
…仮面…。
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