解離。
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「…竜也‼︎…奏太‼︎」
…勢いよく玄関のドアを開けた。
「涛生‼︎」
「渚‼︎」
…門の前に2人はいた。
…パトカーのサイレンが近付いて来た。
「もう大丈夫だね。」
…私は安堵した。
「……そういう…事なんだ……。」
…外の景色で状況を理解した渚。
「…どうして気付けなかったんだろう…。」
「…渚のせいじゃ…………えっ⁈」
「涛生ちゃ……」
…突然、後ろに引っ張られた。
…咄嗟に伸びた渚の手も掴めず…
…私は再び家の中に…………
…そこには…
…別人の様に笑みを浮かべた彼がいた。
「…もう観念したらどう?」
『……………………ふっ。』
…私の声に反応して、彼は小さく笑った。
「今更私をどうにかしたって、あんたは逃げられないよ。」
『…逃げる?…そんな気はないさ。』
…今度は開き直った態度。
…黒い仮面に触れた時に聞こえた、『切り離された心』の声だった。
…昨日の夜、警察を名乗って私を襲った声。
『…君も綺麗に飾り付けてあげるよ。』
「…うっ…………」
…苦しい…
…凄い力…
…首を絞められたまま、私の身体は宙に浮いていた…。
「……ゃ……め…………て……………………」
「涛生‼︎」
…その声と共に三條さんが倒れた。
「…………っ…………」
三條さんが負傷した頭を押さえた。
「涛生…大丈夫か⁉︎」
そう…この声。
「…………けほっ…………」
……助かった……。
…また狂也に助けられた。
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「……っ…………涛生さん……私はあなたを殺そうとしたのですね…………。」
…頭を押さえて起き上がったのは、さっきの思い詰めた三條さんだった。
「……切り離された心……の方にね。」
…私も息を整え、ゆっくり起き上がった。
「…あれに…………あの仮面に触れたのですね……。」
…私は頷いた。
「……あれは……あいつは…………いえ…あいつは私……。」
…あいつの所為にしたい気持ちと…
…あれが彼自身だという真実。
…三條さんも止めたいんだ。
「……あんたがやった事は、とてもじゃないけど酷い。……でも……渚だけは殺せなかったんでしょ……。」
…見上げると、彼は泣いていた。
「……いえ…………殺していたかもしれません……。」
「……それでも……渚だけは……やめてくれって……必死で叫んでた。」
…黒い仮面に触れた時…
…梨子さんや他の女の子達が殺された時…
…渚を飾り付けて、殺そうとした時…
…あんたは確かに叫んでた。
『…やめろ‼︎……もう…やめてくれ‼︎』
「……渚だけは……あんた自身の意思であいつを止めたんだと思う。」
「……………………」
…彼は下を向いたまま動かなくなった。
「……三條さん……罪を償って下さい。これ以上、渚を悲しませちゃダメだ……。」
「……………………」
「…三條さん?」
『……殺せなかったんじゃないさ。……殺さなかったんだ。』
…顔を上げた時、再びあいつになっていた。
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「……渚を殺さなかった……?」
『…彼は恰好の人質だったからね。』
…不気味にほくそ笑んだ。
…そして続けた。
『…渚を殺すと脅せば、奴は俺の言いなりだった。』
「…じゃあ…渚を襲ったのは…………」
『…奴が俺に逆らおうとしたからだ。』
…大方、自首しようとした…とかだろう。
…それで、渚をあんな目に…。
…三條さんは渚が助かる代わりに、あいつの言いなりになるしかなかった。
…今度逆らったら確実に渚が殺されるから。
「もう1つ、聞きたいんだけど……。」
…私は敢えて、『あいつ』に尋ねた。
「…私に送った写真の仮面男は、あんただよね?」
『……何故そう思う?』
「…三條さんを苦しめる為…。」
…私は続けた。
「…あれは…あんた自身が身体に縄を縛って固定してから首に縄をかけ、死んでるように偽装したんだ。
…恐らく身体には縄の跡が…。」
『……ふっ……はははははっ‼︎』
…彼は突然、大声で笑い出した。
『…賢いね……良くできました。』
…そう言って服を脱いだ。
『…渚とお揃いだ。』
……この縄の跡がある限り、三條さんは渚にした事を責め続ける。
『…遺言はもう終わりか?』
…彼は服を1枚羽織った。
「……もう……こんな事は終わりにする。」
『…そうか。なら、死んでもらうよ。』
「……死ぬのは……あんただ。」
…私は隠し持ってた黒い仮面を出した。
『…それは…‼︎』
「…あんたは、これが無いと生きられない。」
…私は仮面を持って走った。
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『待て‼︎』
…彼は血相を変えて追いかけて来た。
…この時…
…私は無我夢中で走っていた。
…三條さんから仮面を引き放せば、『切り離された心』が消えると思ったんだ。
…裏口…
「…開かない。」
『残念…鍵は此処だ。』
…彼はポケットからそれを見せた。
「涛生…こっちだ‼︎」
狂也に手を引かれた。
…階段…
…でも、そっちは…
…逃げ場を失うんじゃないか…
…屋根裏まで来た。
「涛生…先に行け。」
…狂也が窓を開けた。
「…うっ…」
…高い…
…風が…
『…追い詰めたぞ。』
…その声を聞いて、私は窓から屋根に上った。
「狂也も早く‼︎」
…私は手を伸ばした。
…彼は首を横に振った。
『…ならばお前から死ね‼︎』
…嫌な音がした…
…次に目にしたのは…
…彼の胸に刺さったナイフ…。
「…そんな…………」
…血が…
「…………涛生…………」
…狂也が私を見上げた。
「…狂也…………」
「……もう…大丈夫…だから。」
「…………えっ…………?」
…彼はそう言って、ナイフを刺したままの三條さんの手を掴んだ。
「…………ありがとう…………」
…そして彼は、三條さんもろとも窓から落ちた。
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