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自分の好きなジャンルがごちゃ混ぜになってます。
週一予定の不定期更新ですがどうぞよろしくお願いします。
予定なのでたまに早かったり、遅かったりします。
このパートの中盤は行を空けていませんが仕様です。セリフ内の段落も。
翌朝。
悠一が居間でコアとテレビを見ていると呼び鈴が鳴った。母親は先日会社の泊り込みから解放された帰宅した父親と久しぶりにデートに出かけて留守だ。コアは居候なので必然的に悠一が玄関に向かうこととなる。
悠一が背伸びをしてドアスコープから外を確認すると真夏だというのにトレンチコートに帽子を被ったサングラスのダンディなおじさんが立っていた。正直言って怖い。
このまま居留守を使おうかとドアの前で考えているともう一度呼び鈴が鳴った。
「ドアの前で何考え込んでるのユーイチ」
「なんかね。怖い人がドアの前にいて……」
「ん。どれ見してみ」
コアは爪先立ちになってドアスコープを覗き込む。外を確認すると鍵を開けてドアを開けた。
「遅かったじゃない」
「この国は中々に優秀でね。十二月に仲間たちが手間取ったのもわかった」
「えっと……コアちゃん、この人は……」
「そう。私の保護者」
「やぁ少年。娘が色々世話になってるね」
ミスター・ポンドが帽子とサングラスを取って挨拶した。
悠一はコアとの別れの気配を感じ取っていた。
悠一は冷蔵庫から麦茶をコップに注ぐ。コアはミスター・ポンドと話し込んでいる。今に入るとミスター・ポンドが気づき悠一を見た。悠一はコップをミスターに差し出す。
「ありがとう。こんな格好をしているから喉がカラカラでね」
悠一は子供ながら空気を読むことはできる。
ミスターがコップを置いて一息おくと悠一に向き直った。
「それで悠一君」
「はい」
「うちの娘とは一体どんな関係で――」
「うきゃー!」
コアが慌ててミスターの口を塞いだ。
「な、ななな何言ってんのっ⁉」
「気になるだろう。これからのこともあるし……」
コアがミスターから手を離し俯いた。
「……うん。でもまずはあのアンドロイドにレースで勝たなきゃ」
「だがいつまでも逃げてはいられないぞ」
「……わかってるよ」
コアが悠一を盗み見る。悠一もコアを見つめていた。
「それじゃあ私は退散するかな」
ミスターが席を立つ。
「コアちゃんを迎えにきたんじゃないんですか?」
「そのつもりだったが娘はまだここでやることがあるらしい。私がここに滞在しているとこの国の組織に感づかれるからな。終わったらまら迎えにくるよ」
ミスターは娘と違って玄関から出ていった。
残された二人に気まずい沈黙が降りる。おずおずと切り出したのは悠一だった。
「……レース対決するアンドロイドって大兄ぃ(だいにぃ)のこと?」
「……そうよ。それに――」
「それに?」
コアは悠一から視線を逸らせて気まずそうに言った。
「……あいつ、ユーイチのこと友達じゃないって言ってたよ」
それを聞いて悠一は吹きだした。
「なんで笑うの⁉」
「それは担がれたねコアちゃん」
笑いを堪えながら悠一は続ける。
「もしかして大兄ぃに大勝ちした?」
「う、うん」
「だったら大兄ぃは相当悔しかったんだろうね。マギカPSYでワンターンキルされるといつも言うんだ」
そんな悠一を見てコアが切り出す。
「なら今度も大勝していいんだよね?」
「でもきっと何か企んでるよ。油断しないでね」
「しないわよ。ユーイチは私を誰だと思ってるの?」
悠一が柔らかい笑みを浮かべて言う。
「コアちゃんはボクの大事な人だよ」
「……えっ? ひゃ、ひゃあ~っ⁉」
不意打ちにコアの顔が爆発するように赤く染まる。
「な、な、なななな、何言ってんのっ⁉ もしかして催眠にかかってるっ⁉」
「ううん。浜辺でキミが表れた時からそう感じていたんだ」
「なっ⁉」
「一目惚れだったよ」
悠一が照れたように頬をかく。コアは「あわわわわわわ」と熱暴走していた。
「ちょっと落ち着いて。深呼吸、深呼吸」
悠一の掛け声と共にコアは深い呼吸を繰り返す。
「落ち着いた?」
「うん」
再び気まずい沈黙が降りる。だが今回先に口を開いたのはコアだった。
「私ね、あの暑苦しい保護者引き取られる前は海に浮かぶ小さな島で暮らしてたんだ」
「……」
「その島には守りガミさまが居てね、島をあの災害から守ってくれたってお母さんが言ってた」
「うん」
悠一が相槌を打つ。
「そのおかげか島は豊かで幸せだったんだけど、ある日、私は思ったんだ。『みんなが幸せなのはカミさまのおかげで、私たちは何もしてないんじゃないかな』って。
だから私は直接聞きに言ったのよ。『私たちはカミさまの負担になってはいませんか』って。
そしてらカミさまはね、『島の住人の信仰によって私は生まれたのだ。島民の幸せは私の幸せなのである』……それを聞いて気持ち悪くなったの」
「どうして?」
「お父さんもお母さんも、お兄ちゃんお姉ちゃんも、弟も妹も、お爺ちゃんとお婆ちゃんや島のみんなも毎日の幸せを大切にしている」
「うん」
「カミさまはそれを感じて嬉しくなる。だけどなかったの……」
コアが俯く。微かに震えたその小さな肩が悠一には怯えているように見えた。何もしない、という選択肢はなかった。
「……」
悠一はコアの後ろから優しく抱きしめる。
「ないの。どこにも悪意がなかったの……。
私は怖くなった。島のみんなが仲良しで、災害や戦争もなくて、穏やかで慈愛に溢れた自分の故郷が」
「だからコアはそのカミさまを殺したんだね」
抱きしめたコアの身体がビクッと震えた。
「……どうして?」
「大兄ぃとは友達って言っただろ? 異能を持っている人を見たのだって初めてじゃない。だけどコアみたいに絵本の中のような魔法を見たのは初めてだった。だからそれなりの代償があったんだろうって」
悠一はコアを優しく抱きしめた。
「カミさまを殺したことは島のみんなには気づかれなかった。誰も子供の私が殺したなんて考えなかったのね。それから島は疑心暗鬼になった――誰かがカミさまの力を独り占めしたんだろうって。
だけど村長だったお爺ちゃんが病気で死ぬとパニックになった。カミさまが居た頃は病気で死ぬなんてありえないことだったから。島にはあっという間に人がいなくなったよ。
私は島が好きだった。ここに残りたいとだだをこねると家族は私を置いて別の島に引っ越して行った。……私は独り残った島で何も考えずに海を見ていた。鳥の鳴き声と波の音しかない世界……とても心が落ち着いたの」
悠一は震えるコアを黙って抱きしめていた。
「三日ぐらいそうしていたらあの暑苦しい保護者がやってきて『一緒に来ないか』って誘われた。心を読んだら害はなさそうだった。それから世界のあちこちを旅したの」
二人はしばらくそのままの格好でいた。
やがてコアの緊張が解けると悠一は麦茶と冷やした羊羹を用意して二人は縁側に座った。
「コアがいなくなってしばらくしたらボクはこの気持ちを失くすかもしれない。子供の時初恋だろうって。だけど今日のことは一生覚えてるよ」
コアがコップを置くと悠一の顔を掴んで強引に自分の方へと振り向かせた。
「失くしたりなんかさせないわ。ユーイチが忘れそうになる度に目の前に現れて思い出させてさせてやる。だって私は魔法使いよ? 距離を一瞬で超えるなんて楽勝だわ」
「そうだね。そうだった。コアはボクの初恋の女の子だ」
「ちょっと! またはそういうこと言う!」
コアは悠一の顔から慌てて手を離した。
「ボクは行くな、とは言わないよ」
「……うん」
「だけどこれだけはコアに知っておいて欲しいんだ」
「うん」
「ボクは――キミが好きだ」
「――はい」
大助は縁側に置かれたコアの手を優しく握る。二人は指を絡ませ合った。
二人は見つめ合い互いに顔を近づける。
「郵便デース」
チャイムの音と共に郵便配達のバイトの声が言えに響いた。
二人は顔を接近させたまま笑い出した。
「くっくく……、どうして今の雰囲気で邪魔が入るんだろう」
「きっと二人がまた会うときにとっておけっていうカミさまの思し召しだよ」
悠一が玄関へと向かい、バイクの離れる音がする。縁側へと戻ってきた悠一の手には郵便物が握られていた。それをコアに渡す。
「私に?」
「うん。大兄ぃからの電報だよ。たぶんレース勝負のことじゃないかな」
「そうか。電報なら私のサイコメトリーで読み取れないものね」
コアは指を振って魔法で封を開けた。
誤字・脱字が多々あるかもしれませんがご容赦お願いいたします。
発見しだい随時修正していく予定です。
気づいたらちょくちょく直してます。